毎週ショートショート「サンタ酸」
彼は、根っからの化学者だった。
多忙によるすれ違いで離婚し、一人娘とは離れて暮らしている。
クリスマスイブ。
娘へのプレゼントをロッカーにしまったまま、
彼は深夜まで残業していた。
終電間際になって、
プレゼントに添える手紙を書き忘れていたことに気がついた。
疲れ切った頭で慌てて言葉を並べ、
最後に差出人の名前を書いた。
電車に飛び乗り、元妻の家へと向かう。
無言で扉が開き、彼は中へと入った。
二人は言葉を交わさなかった。
娘の枕元に、プレゼントと手紙をそっと置く。
それだけして、彼は家を出た。
翌朝。
娘は手紙を見つけ、母親に差し出した。
元妻は差出人に目を落とす。
そこには、
「サンタ酸より」
と書かれていた。
元妻はそれを見て、なぜか小さく笑った。
そして、
「メリークリスマス」
とつぶやいた。
(337文字)
今週も以下の企画に参加させていただきました。
よろしくお願いします。
