捨てられない初恋
787文字
☆所要時間:声に出すと 約3分
☆読み手:1人
小学4年生、明日から夏休みという一学期の最終日。
転校する私は、生まれて初めて色紙をもらった。
薄情なもので、仲のいい女の子のメッセージは後回しにして、好きな男の子からのメッセージを真っ先に探した。
とても字が綺麗な子だったから、すぐに分かった。
「お元気で」
なんと淡白で短文の挨拶!
私が初めて胸が痛むほどに焦がれた初恋の彼からの直筆メッセージは、4文字だった。
しかしその後、彼は単身私の家まで挨拶に来てくれたのだ。
今の時代にはないのだろうが、
休んだ子に「配布物や連絡帳を届ける」というルールが私の学校にはあった。
彼が休んだ日には
「家が近いので!!」
と、普段は出すことのない大声を発して、配布物を颯爽と預かり、私は彼の家へと届け続けた。
きっと、そのお礼にと、彼のお母さんに言われて来たのだろう。
子ども心に、彼の本意ではないのだろうと、なんとなく思っていた。
でも、私の気持ちは伝わっていたかもしれない。
本当はそんなに家が近くもないのに
休んだ日の配布物を届けに行っていたことも、
誕生日会に呼んだことも、
校庭で遊ぶ時には、誰といる時よりも
笑っていたことも。
彼は、私じゃなくてあの子のことが好きなのかな…と、俯いていたことも。
「またね」とも「さようなら」とも言葉はなく。
だけど、困ったような寂しげな顔を覚えている。
つい最近、
「あー!壊れたちゃったぁ!」
という私の悲痛な叫び声が家に響いた。
旅行の支度で出したビニールポーチが、裂けてしまったのだ。
ファスナーはとうの昔に壊れて、封をできなくなっていた。
上くらい開いていてもいいやと、そのまま使い続けた。
特別なお出掛けには、いつだって連れて行った。
彼が引っ越す時にくれた、ビニールのポーチ。
縦に裂け、上からも横からも開きっぱなしになってしまい、もはや入れ物としての仕事は果たせない。
それでも、まだ、捨てられない。
初恋とは、なんとも重いものなのだ。
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