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[バトルファンタジー小説] 『終末、生物兵器を駆除するだけの仕事』 第2話

「お前ら無事で良かった……」
 森から戻ってきたセトとジオに、ゲンは心から安堵した様子で迎えた。
「うん……。セトが駆除してくれたから」
 ジオは頷きつつ、隠し事がある後ろめたさから少し目を逸らす。
――『ゲンさんはたぶん君のことを勘づいていると思う。どこまで気づいているかは知らないけど』
 戻る道すがら、セトに言われたことはジオ自身も何となく感じていたことでもあった。
(セトは俺のことを本部に通達しないと約束したし、セトの口からゲンさんに漏れることもないだろうけど……このまま隠し通していられるんだろうか。それに、それで、いいんだろうか)
 ジオは内心、自問し続けていた。
「駆除は済んだんだな」
 レグの問いに、セトは何事もなかったという様子で応じた。
「あぁ。そっちも無事にひと段落したようだね」
 サルベージの成果は主に食器と宝飾品だった。
 倒壊していない綺麗な高層建造物の一角からテツが見つけ、レグがほとんど運び出した。
「上層階の部屋だったからあんま深く潜らずに済んだし、楽勝で大量だったぜ。金持ちが住んでたんだろうなァ」
 陶器製の食器や宝石が付いた金の食器やオブジェなど、何度か往復して得た物はあっという間に山積みになっていた。それらの泥を落としながら皆でジープに積み込んだ。
 平らな水面に、赤々とした夕暮れの空が映し出されている。広大で幻想的なグラデーション。湖の底に眠る都市が夜の色に溶けていく。
 日が沈んだ後は焚き火を囲んだ。
 ゲンとテツとジオは村から持って来た乾燥野菜や干し肉に、その辺で摘んだ野草を加えた汁物を作った。セトとレグは手持ちの小さな携帯食料を食べていたが、テツがもの珍しくそれを見るのでレグは自分の分をテツに丸ごと渡した。
「えっいいのか」
「いいさ。俺にとっちゃ別に珍しくねーどころか飽きてるくらいだ。それに俺たちは本部に申請すればすぐに食料が手に入る。アンタらはそうじゃないだろ」
 レグの口調はサバサバとしているが、突き放すでもなく見下すでもなく、本当に食に興味が無いような様子だった。
 一方でテツは自分の半分ほどの歳の若者から食料を分け与えられたわけだが、憐れまれたと逆上したりヘソを曲げたりすることもなく、ただ目を輝かせた。
「どっちのがガキか分かりゃしねぇ」
 ゲンは呆れつつ礼儀として自分の食事をレグに分けようとするが、やんわり断られた。
 テツは初めて見る食料に期待を込め、髭が濃い顎を大きく開いて頬張ったものの、すぐに何とも複雑そうな表情に変わった。
「マズいだろ」とレグはケタケタ笑った。
 それからほどなくして、サルベージの際にレグが見た光景がバーチャル映像で共有された。
 夜闇に水中の景色が浮かぶと、感嘆の声が上がる。
「サイボーグってのは何でもできるんだなぁ」
「テツ、お前またそんな言い方を……!」
「あ、いや、つい……悪い。これでも関心して言ってるんだ」
「大丈夫ですよ。気を遣われるほうが申し訳ないですし」
「すまんな。ジオがまた助けて貰ったり、仕事も手伝って貰ったってのに、テツは飯まで貰っちまって、いつまでも失礼な態度で……」
 ゲンはほとんど頭を抱えていたがレグはむしろ面白そうに笑い飛ばし、セトも「まぁまぁ」といった感じで映像についての説明を始めた。
「僕たちは戦闘時の連携など情報共有をスムーズにするために、このように見た光景を録画したり共有したりできます。通信機無しで会話できたりもします。あくまで一時的なデータなので、本部に承認手続きをしない限りは一定期間を過ぎると消えますが」
 バーチャル映像は非常にリアルで、特に夜の暗闇とは相性が良い。水中の没入感も相まって、建物の間をスルスル泳いでいるレグの視界は、見る者にとって自分の視界かのように感じさせた。
「思ったより当時のままって感じだな」とゲン。
 何十年も前に水没したその街は、まるでつい先日前まで人が住んでいたかのような綺麗な状態を保っている建物も少なくない。他の大戦跡地と同様に上層階がすっかり無くなって鉄骨が剥き出しになっている建物もあれば、地面が液体のように大きく歪んで建物がドミノのように倒壊している箇所もある。
「この辺りは戦時中の被害は少なかったほうですが、大戦末期に災害が続いて地盤が緩んだらしいですね。バグズも発生しましたし、復興できないまま土地を放棄せざるを得なくなったとか」
「アンタらの仕事はこの辺りの土地の調査とバグズ駆除だと言っていたが、こういう情報も必要なのか? 駆除すればいいってワケじゃないのか」
 テツに尋ねられ、レグは肩をすくめた。
「本来なら俺たちの仕事は駆除だけなんだけどなァ」
「それだと一時凌ぎなので」セトが補足。
「一時凌ぎ……?」
「バグズは謎が多いからなァ。総数も分かんねーし、駆除は一時的な対処に過ぎないってことだ」
「増殖することは分かっているので駆除しなければいつまでも地上で人が安心して暮らせません。全滅させる手立てを見つけるためにも、駆除した時はその土地の状況も調べて報告します。自然環境や人口や被害状況などを本部に報告して、今後のバグズ対策や研究に役立てて貰うわけです。なので仕事としては、駆除が〝必須〟で土地の調査が〝任意〟です」
「なるほど……」
「それで、できれば皆さんの村まで同行したいのですが」
「「えっ」」
 テツとジオが驚きの声を上げる一方、
「そう言うんじゃねぇかと思ったんだ」とゲン。
「俺も」
「レグも知らされてなかったのか?」
「セトは独断が多いからなァ。俺はその決定に従うだけだ」
「それはなんか分かる気がする」
「ジオ、どう言う意味だ?」
「いや、なんとなくってだけ……」
 ゴホンッとセトのやや大袈裟な咳払いが一つ。
「続けてもいいですか?」
 一同は目や仕草だけで続きを促した。
「僕たちはこの辺りをスルーして北上する予定でした。集落はもう残っていないだろうと予想していたので」
「しかし俺たちと遭遇しちまったことで、アンタらの予定が変わったんだな」
「別にスルーしても問題無かったんだけどなァ。WDOが把握しきれてない小さな集落なんて世界中にある。報告しなくてもバレねー。ただ目的地の通り道に集落があるなら一応繋がりを持っておくほうが都合が良さそうってワケだ。そうだろセト」
 セトが頷く。
「ここから更に百キロほど北上したエリアに、会ってみたい隊員がいるんです。データ上は存在していますが長らく単独行動しているらしく情報が少ないので、直接会いに行こうかと」
「ちょっと待ってくれ。よく分からないけど、そいつみたいに単独行動をしたり、アンタらみたいに興味本位で行動したりしていいのか? WDOって世界の中枢組織だろ。もっと大規模な部隊とか、大人数で駆除任務にあたるんじゃ……」
 言い終える前にジオはハッとして口を噤む。
(少なくとも俺がいた時期のオリオンズはそうだった……)
 ジオが自ら質問をしてオリオンズの話題に入って来たことについて、セトもゲンもほんの微かに意外そうな顔をした。レグやテツはそのことには気づかず「確かに」という感じで頷く。
「まァ当然の疑問だ。実際、何年か前まではもっとエリア毎に支部も部隊もあってガッチガチの組織だった。今はほとんどエージェント契約みたいになって、組織は個々に分断されてる感じだなァ」
「エージェント契約……? 分断って……?」
「人口が多いエリアをバグズから防衛することが主な役割のチームと、こうして少数であちこちのエリアを行き来して調査や駆除するチームに分かれたんだ。今はもう本部の指示じゃなく個々の判断でそうなってる」
「え……。それじゃ大人数での防衛任務を希望する人のほうが多いんじゃ……」
「そりゃァそうさ。安全だし待遇もいい。WDOとしても民間人が多い所の防衛に人員や設備を割かなきゃならねーから、人が少ない所の駆除や調査は後回しになって、俺たちみたいなのは少数派になる」
「だから僕たちはチームの人数を増やしたくても簡単に増やせないんです。これから会いに行こうとしている隊員も、勧誘してみたところで断られるかもしれません。その場合、この付近のエリアに暫く滞在して仕事をしつつその隊員に何度かアプローチしてみるつもりなんです」
「あぁそれで、うちの村と関わっておけば周辺を行き来しやすくなるってワケか」
「なるほどゲンさん流石だな! ようやく話が見えたぜ。しかし……俺たちゃ別に構わないが、村の連中はあまり余所者を歓迎しないと思うぞ」
「それはそうだと思います。ご迷惑はかけません。周辺をウロウロすることになるかもしれないので、ちょっと顔見知りになっておきたいだけです」
「そうだな……」
 ゲンは少し黙って
(確かに何も面倒な要求はされていない。とは言え、先に俺たちに恩を売って信用させて、村への干渉をしやすくした……。命を助けた時点で要求自体はできたはずだが、先に仕事の手伝いまでしたことでスムーズに信用させたんだ。一見遠回りに見えるが随分と賢いというか戦略的というか……)
 ジロリと視線を向ける。
 セトはその視線をただ受け止め、口元だけに微笑を浮かべており、それ以外はすっかり無表情だ。ゲンにその本心は読み取れないが、嘘をついているようにも見えない。
(若いのに大した曲者だな……)
「分かった。同行したいなら好きにして構わないが、テツの言うように村の連中は余所者を歓迎しないだろう。何かあって揉めたところで俺たちも仲裁したりはできない。それは分かっていてくれ」
「もちろんです。ありがとうございます」
 その夜、湖の側でそのままゲンたちは眠りにつき、セトとレグはその周辺の警備を兼ねてそれぞれ東西に分かれて少し離れた所で交代で睡眠をとった。

 そして明け方までの間、実に三体ものバグズが出現した――。

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