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[バトルファンタジー小説] 『終末、生物兵器を駆除するだけの仕事』 第3話

 ジオは目を覚まし、一人で野営地を離れた。
 いつも以上に安心して眠ることができたのは心強い見張りがあってこそだと、ジオもよく分かっていた。
(セトとレグなら慣れているだろうしバグズ探知のドローンも飛ばしていたから無事だろうけど……睡眠はとれたんだろうか。昨日の昼間は移動し続けて、駆除やサルベージの手伝いもしてくれて流石に疲れたはずだ。…………いや、別に俺が気にすることじゃないし、別に心配ってワケじゃ……)
「!?」
 森に入ってほどなくすると思わぬ光景が広がり、巡らせていた思考は完全に途切れた。
「よう。起きたかァ」
 レグはバグズの死骸の上に座っていた。それも目の届く範囲に合計三体も転がっている。
「…………!!」
 衝撃のあまり絶句するジオをレグは気に留めていない。ただ高所で早朝の涼しい風を感じながら薄明るくなっていく朝焼けを眺めているだけ、という様子だ。
「夜の間にこんなに……出現したのか」
「まァな。文字通りの朝飯前だぜ。何つってなァ」
「交代で見張りって言っても、三体も出現したならセトを応援に呼んだって良かったんじゃ……」
「それは後でセトにもグチグチ言われそーな気がするわ」
 レグは「フハッ」と噴き出して笑うが、ジオは全く笑えない。
「けどなんで俺一人で駆除したと思ったんだァ?」
「えっ……」
「セトと二人で駆除した後、俺一人が引き続き見張りのためにここに残ったのかもしれねーだろ」
「それは……」
 周辺の地面とバグズの死骸がそれぞれ丸く凹んでいた。強力な殴打の痕跡。ジオはレグの重厚なアーマーを見つめながら、一方でセトの戦闘スタイルも思い返していた。セトの武器は長い棒だった。
「分からないけど、状態から見て倒し方がレグのような気がするというか、なんか、」
「そうか。観察眼があるな。っつーか、オリオンズに興味があるのか?」
「え………別にそういうワケじゃない。けど、なんで……」
「さァ? なんとなくそうかなァって。テツのオッサンは興味津々って感じだけど、お前はまた違った興味っつー感じがする」
(鋭い…………。セトは理論派でレグは直感派なのか……?)
「やめとけ」
「え? 何を?」
「知らねーと思うが、いずれ知るかもしれねーから言っとく。人体強化手術を受けられるのは十代だけだ。二十年の契約期間を終えれば、その後の人生はWDOに生活と安全を保証されている。けどそれまで生きていた人間はほぼいない。バグズを駆除するだけの仕事だが、それだけの仕事で大抵は三十代になる前に死ぬからだ」
 ずっと軽い雰囲気だったレグとは打って変わって神妙な、きっぱりとした口調。
「途中で辞めることもできねー」
 ジオはその言葉にサッと目を逸らす。
 レグは相変わらず遠い目をして空を見つめたままだ。
「お前はバグズに向かってく度胸もあるし、俺より若いし、志願すれば入隊できるだろうが、やめとけ。死ぬから」
「…………ここより北のエリアに隊員を勧誘しに行くってことは、仲間を増やそうとしてるんだよな?」
 ジオの言葉にレグは一瞬、呆気に取られた。何を言われたのかようやく理解できてから、目を丸くしてジオを見る。
「お前マジで入隊を考えてたのかよ」
「え……。あ、いや、えっと……」
「やめとけ。死ぬから」
「じゃあ、レグはなんで入隊して、なんで安全な防衛任務じゃなく危険が多い仕事をしてるんだ?」
「俺のことはいいーんだよ」
「レグ」
 地を這うような低い声に、空気が凍りついた。
 声のほうを見ずともレグの苦笑いは引きつり、口角が微かに痙攣する。
 一方のジオは、それがセトの声だと気づくのにレグよりも時間を要していた。
「複数体が出現したら、必ず僕を起こすように言ったよな?」
「いやァ、まァ……倒したんだからいいだろ別に」
「いつも言ってるよな? 何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「はいはい。わァったよ。ちょっと用足して来るわー」
 そそくさと駆け出したレグは、セトが何か言う前にもう後ろ姿すら朝霧の中に消えていた。
 セトの感情的なところを初めて見たジオは面食らったままだ。そして、ぼそり。
「二人ともけっこう独断で動くんだな」
「返す言葉もありません。レグはあまり自分の命に頓着してないようだから、僕はそれが少し……」
「心配?」
「そういうことです」
「確かに成り行き任せっぽいというか、なんかセトよりも色々どうでも良さそうに見えるけど、そのわりには、さっき俺に『オリオンズ入隊は死ぬからやめとけ』って言ってきたよ」
「あぁ……そう言うでしょうね、彼は」
 セトは深く溜め息をついた。感情的だったのはそのほんの僅かな時間だけだった。長々と咎めることもなく、レグもそれを承知しているらしく飄々としていた。
 ほどなくしてゲンとテツも目覚め、薄明るい中を移動し始め、村に着いたのは昼過ぎだった。道中にバグズの遭遇はなく、特に何か揉めることもなかった。
 しかし村に歓迎されることもまた、なかった。
 それどころか村は大変な騒動の最中だった。

  * * * *

 その村は、城跡地にあった。
 何百年も前に建てられた城は幾度も修繕され文化遺産にもなっていたが彼の大戦でほぼ全壊し、周辺の街もバグズ出現により人々はいなくなった。
 しかし、城跡地は高い石垣や広い水堀があることでバグズに見つかりづらく、侵入も防ぎやすい構造であることから自然と一時避難所のような役割になり、小さな集落へと至ったのだ。
 現地に来なければ決して見ることも知ることもなかったであろう事情と光景に、セトとレグは関心を寄せていたが、到着時の村はとてもゆっくり見物できるような状況になかった。
 遠目からもザワザワと騒がしく、何か言い合っているようで険悪な空気があり、更にゲン達が見知らぬ者を二人連れて来たことで不穏さが一層増した。
 ジロジロと何か疑うような目を向けられ、セトとレグは奥まで入ることをやめた。自分たちがオリオンズであることとバグズ駆除のために周辺を行き来するが村には入らないようにすること、その挨拶に来ただけであることなどを託けしてゲンとテツを待つことにした。なぜかジオも入らず、セトとレグと共に城門の前で待った。
 小一時間の後に戻って来たゲンから、状況は端的に語られた。
「盗賊が来たらしい」
 ゲンはひどくショックを受けている様子で、重い口を開いた。
「夜のうちに食糧庫やら畑やら荒らされていて、死人も二人出てる。応戦しようとしてやられたらしい……。盗賊に手引きした者が村の中にいるんじゃねぇかと疑う者もいて、皆が疑心暗鬼になってるようだ……。一応お前たちのことは話したが、『関係無いなら入って来ないで欲しい』という感じだった。挨拶はやめておいたほうがいい」
「なるほどなァ……」
「なぜ僕たちが関係無いと分かるんですか? そんなに疑心暗鬼になっているのなら『もしかしてお前達が盗賊か?』と言われても不思議ではないのですが」
「盗賊が自ら挨拶に出向くはずがねぇ。俺たちとずっと同行していたことも伝えてある。もちろん仕事を手伝って貰ったこともな。だから単に『関係無い人間に今構っていられる場合じゃない』ってことだろうよ。お前達よりもむしろ……」
 ゲンは躊躇いがちにジオへと視線を向けた。
 ジオはハッとして、そして見る見る顔が暗くなる。その表情は誰の目にも明らかなほど、傷ついていた。
「…………」
「ジオが? なんで疑われるんだァ?」
「俺も、余所者だから……」
「そうなのか?」
「…………三年くらい前に、この近くで倒れていたところをゲンさんに助けて貰った。それ以来、一応は村の住民だけど、ここから少し離れた所で生活している」
「三年前って、そんなガキが一人で行き倒れてたってのかよ?」
「そうなる前のことはあんまり覚えてないんだ。だから村の人からは余計に気味悪がられているようなところもあって……。ただ、俺自身は親に捨てられたんだと思ってる」
(話していない部分もあるけど、嘘は言っていない)
 それが本心であることを伝えるかのように、ジオはセトを真っ直ぐ見つめた。
 セトはただ頷き、
「いつの時代にも子どもを捨てる親はいる。特にこんな世界じゃ、自分が生きるだけで一杯一杯になるのは分かる。けどそれは、子どもが独りにならなきゃいけない正当な理由にはならない」
 言葉は聖人のようでありながら険しい表情で、纏う雰囲気はむしろ鬼を思わせる。
 そしてそれはレグも同じだった。
「当然だ。それに、いい大人がよってたかって子ども一人をハブったり疑ったりしてんなら、シンプルに気に入らねーなァ」
「…………」
 どこか殺気にも近いものがあり、その気迫にジオとゲンは戸惑い、言葉を失った。
 そこへテツが息を切らして現れた。必死の形相。
「盗賊が出た!! 複数人で村を襲いに来やがった!!」

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