【テレビ】久々にBSで再放送が決まったドラマ「高原へいらっしゃい」
何気なくネットを見ていたら、BS-TBSで山田太一(敬称略/以下同じ)脚本の『高原へいらっしゃい』『想い出作り』(古手川祐子、田中裕子、森昌子主演のOLドラマの走り)『深夜にようこそ』(千葉真一主演の非アクションの傑作)の3作品を2025年11月から再放送するニュースが出ていた。
この3作品は、山田太一の三回忌に合わせての企画らしい。私が特に注目したのは、やはり田宮二郎主演の『高原へいらっしゃい』だ。
1.田宮二郎の「伝説」をリアルタイムで知るということ
もう20年近く前になるが、CSにTBSチャンネルができた頃、これらの作品は目玉として再放送されていたので、私は当時、熱心に録画していた。
特に田宮二郎作品は『白い影』『光る崖』『知らない同志』なども再放送され、どういうわけか再放送された直後に他の俳優がリメイクする、いわば草刈り場のようになっていたのだ。
なお余談だが、TBS系列で放送された田宮二郎作品の中で、未だに再放送されていない作品は恐らく、五木寛之原作の『樹氷』(共演は浅丘ルリ子)だけだろう。原作はスキー雑誌に連載された小説で、これも現在、絶版になっているが、奇跡的に文庫本を所有しているので、原作との整合性を比べる意味でぜひ再放送してほしい一作だ。
田宮二郎について、私には強烈な記憶がある。フジテレビ系列の『白い巨塔』の最終回の放送直前、1978年12月28日のことだが、『3時にあいましょう』の速報で彼の訃報をリアルタイムで知った。
ちょうど家に母のお客様が3人来ていて、その方たちを送り出してテレビをつけたら、そのニュースが報道されたのだ。夜は夜でNHKの『ニュースセンター9時』でも報じられ、最後の共演者だった太地喜和子がインタビューを受けていたのも強烈に覚えている。自分が有名人の訃報というものを強く意識した最初だった。
今年生誕90年(石原裕次郎と同い年)になる田宮二郎だが、今年は神保町シアターという名画館で、特集上映会が開催されたニュースもあったし、彼の再評価は静かに続いている。
更に遡ると1989年頃に、フジテレビが昼の2時に『白い巨塔』を再放送したら、その時間帯の視聴率が跳ね上がり、それに目をつけたテレビ朝日がリメイク版の『白い巨塔』(村上弘明)を制作した経緯もあった。唐沢版の前にリメイクされた作品なのだが、原作者の山崎豊子が週刊新潮のインタビューで異議を唱えていた(亡くなって10年ちょっとだったので無理もないが、没後間もない頃の田宮二郎の葬儀後に寄せたコメントで「しばらく封印したい」と述べていた様子)のも覚えている。
大映時代の『悪名』『犬』シリーズを見ても、コメディに関する反射神経はかなりいい人だとわかる。そのイメージと、泥臭い人間味とを両立させたのが、山田太一作品群なのだ。
2.八ヶ岳に集う「わけあり」な同志たち
今回再放送される『高原へいらっしゃい』(1976年)は、山田太一とジェームス三木脚本で、田宮二郎がテレビで初めて主演したドラマ『知らない同志』のリゾートホテル版ともいえる。
『知らない同志』では、テコ入れの必要なスーパーマーケットに切れ者の店長として田宮二郎がやってきて、逆に大阪のスーパーに単身赴任するのが杉浦直樹という設定だった。
田宮二郎演じる切れ者店長が、スーパーの敷地内にある寮に滞在することになり、そこの寮を管理しているのが何と大阪のスーパーに転勤した杉浦直樹の奥さん(栗原小巻)とお母さん(賀原夏子)で、逆に単身赴任している杉浦直樹がバーで知り合った女性が、田宮二郎の別居中の奥さん(山本陽子)だった。
偶然が取り持つ縁なのだが、特に田宮・栗原が繰り広げるやりとりがコメディタッチで、更にスーパーの経営方針までわかるノウハウ系ドラマでもあった。
このドラマとほぼ同じ時期、日本テレビ系列で自身が主演する連続ドラマシリーズがスタートする石立鉄男も、スーパーの店員として出演、テンポよく盛り上げていた。
『高原へいらっしゃい』も構図は同じだ。八ヶ岳にあるさびれたリゾートホテルを、わけありの人達が集まって再生させる物語だ。
都内の一流ホテルの支配人だった面川(田宮二郎)が、どういういきさつで八ヶ岳のホテルに勤務することになったのか。その遠因が、別居中の奥さんである三田佳子との関係性にも深く関わっている。
東京で従業員一人ひとりをスカウトし、その全員が八ヶ岳のホテルに集まったところで、2階からタキシード姿の田宮二郎が「面川です」と颯爽と降りてくるシーンは象徴的だ。
確か山田太一が生前、このドラマについてインタビューで語ったことがあって、主人公がホテルの従業員を一人ひとりスカウトしてくるシーンは、日本映画の名作『七人の侍』の野武士を探す村人の着想にヒントを得たらしいことを話していた。
しかし、ホテルは開業までに色々な困難がある。若手のヒロインは由美かおるだが、ボイラー技士のみっちゃんの池波志乃の表情の作り方、別居中の面川の奥さんを演じた三田佳子の揺らぐ心情、地元のおばやんこと新劇界の大ベテラン北林谷栄と、元は超一流コックだった益田喜頓のケンカだか漫才だかわからない絶妙なやりとりは面白かった。
また、従業員には口うるさいように見えて、面川との離婚を決意して相談する奥さんに「何のためにあのホテルでご主人が頑張っていると思っているのか。あなたともう一度暮らすためじゃないか」と説教する副支配人の前田吟など、根は善人で嫌味ではない好印象がにじみ出て(1980年のドラマ『ただいま放課後』の教頭先生もこれに近い)、それぞれのキャラクターを生かした配役陣の会話もお見事だった。
テレビドラマでありながら、ホテルという密室空間で展開される舞台劇のような趣もあった。BGMもカントリーミュージック風の最小限のもので、小室等とムーンライダーズが担当している。フォーライフレコードが設立されて間もないころの仕事だろうか。
そしてどの回か忘れてしまったが、印象的だったのが、田宮二郎がママチャリに乗る珍しいシーンだ。泥にまみれ、這い上がることが必要な面川が、まさしくそれを体現した場面だった。
3.古き良きコンテンツと現代放送局への期待
かなりの断捨離を重ねてしまい、田宮二郎作品で残しているのは映画とドラマの『白い巨塔』とこの作品のみになってしまった。『白い巨塔』はまず最優先、あと一作何を残そうかと考え、会話の面白さとゲスト俳優陣の貴重さでこれを残したのだが、結果としてよかったのかもしれない。
私は接客業に携わったことはないが、繁忙と閑散の時期を考えた調理、室内整備、備品の調達など、細かいところに配慮が行き届いたドラマであった。こうしたプロの視点が入ったドラマは、まさに山田太一脚本の真骨頂といえる。
このドラマに限らず、過去の民放ドラマを全話録画する際、CMも入れておくことをお勧めする。時間が経ってから見直す時に、CMも当時の世相を映す資料的な価値が出てきて面白い。私は民放ドラマのCMをカットして保存する癖があったのだが、たまに昔のビデオを再生するとまれに残っているCMの方が面白かったりするのだ。
とかく放送コードが言われがちな昨今、1976年のドラマを、割に視聴者が多いBSで放映するTBSは思い切った企画に舵を切ったといえる。
地上波では、2時間超の情報番組を乱立させる番組編成が多い中で、昔のように三井奥様劇場(朝の10時)、昼の2時、夕方の4時の『水戸黄門』と『大岡越前』の再放送枠をどれか一つでも復活させたら、案外、うまくいくのではないだろうか。夕方の5時にBS朝日で藤田まことの『必殺』シリーズを再放送して久しいが、あれもファンのニーズにこたえているからこそ、枠として長持ちしていると思う。
ちゃんとした時代劇を見たいというニーズは結構、若年層にも多い。だからこそ昨年から今年の上半期にかけて、『侍タイムスリッパー』という映画が口コミで評判を呼んだのだ。
民放各局は、グルメ情報ばかり盛り込んだニュース番組をタレントキャスターに仕切らせるワンパターンや、安易なリメイクではなく、こうした過去の良質なコンテンツの地上波での掘り起こしにもっと力を注いでほしいものだ。
※本文中の登場人物・団体等は敬称略です。
