【テレビ】バブル期のNHK「ジャストポップアップ」が映し出す80年代音楽事情
民放各局が数か月に一度、ゴールデンタイムにぶつけてくる3時間の昭和歌謡特番。そこで流れる映像は、正直なところ「いつもの顔ぶれ」に終始することが多い。TBSなら『ザ・ベストテン』や『輝く!日本レコード大賞』、他局なら『夜のヒットスタジオ』の細切れ映像を、今のアイドルのコメントと共に消費するのがお決まりのパターンだ。
1.現役音楽番組にこだわるNHKがリリースするレアな番組
しかし、一味違うNHK、彼らは今でも『うたコン』『The Covers』『SONGS』といった、生演奏やフルコーラスにこだわる現役の音楽番組を死守している希少なテレビ局だ。
そのプライドは、過去の番組の扱いにも現れている。懐メロ特番として編集するのではなく、CS放送などに『レッツゴーヤング』や『ヤングスタジオ101』といった放送回をまるごと貸し出している。
今回、CSの歌謡ポップスチャンネルで再放送された『ジャストポップアップ』(1988年12月10日放送回)も、そんなNHKの懐の深さを象徴する一本だった。
2.ブタの貯金箱で節約しつつ聞いていた洋楽・邦楽
1988年末といえば、街にはバブルの熱狂が溢れ、マドンナ(敬称略/以下同じ)やマイケル・ジャクソンが来日公演を行っていた辺り。みんながコンサートや野外イベントに行けてたわけでもなく、マドンナやマイケル・ジャクソンのライブは、ゴールデンタイムに民放で放送されていた。スポンサー企業が超一流電機メーカーだったからできたことだった。
貸しレコード屋ではすでにCDレンタルが主流になりつつあり、邦楽シーンでは複数のレコード会社のヒット曲を網羅したオムニバス盤『BEAT EXPRESS』がカセットやCDで大ヒットしていた。この日の番組出演者を見れば、まさに当時の音をけん引していた若手ミュージシャンたちの顔ぶれだ。
今回放送は、司会兼歌手の松岡英明を筆頭に、横山輝一、清水宏次朗、サンディー&ザ・サンセッツ、谷村有美、そしてTM NETWORK。
セットリストは
・CATCH/松岡英明
・STATUS/横山輝一
・眠れない.../清水宏次朗
・CIPHER/サンディー&ザ・サンセッツ
・生まれたての朝~Brand-New Sunshine~/谷村有美
・COME ON EVERYBODY/TM NETWORK
・GIA CORN FILLIPRO DIA/TM NETWORK
出演者の当時の所属レーベルを見れば、CBSソニー、ファンハウス、ワーナー・パイオニア、東芝EMI、エピックソニー、と、当時の最先端を走っていた会社がズラリと並ぶ。
昨今の音楽番組にありがちな、特定の事務所やタイアップに縛られた「バーター臭」は微塵もない(とは言わないけどあまりない)。
各アーティストが自身のバンドを持ち込み、新曲やアルバムの収録曲をフルコーラスで披露する。45分という限られた枠の中で、一組ずつ丁寧にインタビューと演奏を収めていく構成は、音楽に対する純粋な敬意に満ちていた。
3.贅を尽くしたバンド編成と正しいお金のかけかた
特に印象的だったのは、出演者たちの「音」へのこだわりと、それを支えるNHKの予算規模だ。今なら同期音源で済ませてしまうような場面(余談だが2023年4月からの『NHKのど自慢』のカラオケ化は残念だ)でも、当時はドラム、ベース、ギター、キーボードに加え、バックコーラスまで引き連れた5〜7名編成のバンドが当たり前。
トップを飾った松岡英明の若さ弾けるステージや、ソウルフルな横山輝一の歌声は、『VIRGINS』(松岡)『CAN'T LOOK BACK』(横山)辺りのイメージが強かったので、中々新鮮だった。徳永英明と間違えちゃう友人がいたり、同時期のソウルフル系久保田利伸に圧され気味だった評価もあったのを思い出した。
しかしバブル期はこういった歌手が一堂に会する音楽イベントが開催、深夜帯にダイジェスト版を放送されるということが度々あって、そういう番組を録画してた人達にとっては、中々なつかしい。ちなみに2人ともシングル曲を歌っている。彼らもオムニバスアルバム『BEAT EXPRESS』の常連だった。
都心にオシャレなライブスポットがたくさんあったのも彼らの活動領域をアシストしていたのも大きい。
松岡・横山の後に、俳優としてのイメージが強かった清水宏次朗が10名の大編成バンド(ギター・ベース系3名、キーボード1名、打楽器系2名、コーラス3名、本人含む)で、アルバム『NIGHT DIVE』から『眠れない...』を披露しているのも中々レアな選曲。
1984年にデビューなので、実際には松岡・横山よりキャリアが長く、コンスタントにアルバムを発表、オリコンチャートのトップ10に入った曲もあり、コンサートツアーや野外イベント出演などもこなしていた時期である。
これがフジテレビ系の『夜のヒットスタジオ』なら同社のアニメ『F』の主題歌だった『LOVE AFFAIR』(飛鳥涼作詞・作曲)を歌わせただろう。トレンチコートを羽織り、ハスキーで憂いのあるボーカルを響かせるその姿は、世間が抱くヤンキー系の兄貴分というイメージを180度覆す、洗練されたシティポップだった。
また、マニアックな視点で見れば、サンディー&ザ・サンセッツの登場も感涙ものだ。ルパン三世のED『Loveスコール』を歌ったサンディーと久保田真琴(夕焼け楽団を知る人はかなりマニア)による、テクノポップの流れを汲む明るいサウンドは、今聴いても全く古びていない。
意外とシンプルなバンド編成(本人入れて5名)だったのが若い谷村有美で、本人が元気いっぱいの頃。シンガーソングライターなんだけど、エッセイも書いていてどちらかといえば文化人的なアプローチのイメージがあった。この辺もレコード屋の前を通りかかると店員さん推薦のシングル曲でかかっていた。
そして、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったTM NETWORKは別格の2曲披露。この翌年にボーカルの宇都宮隆がドラマ『誘惑』で俳優デビューすることになるが、この番組に映る三人は、まさにバンドとして最も脂が乗っていた時期の鋭さがある。
数年前、紆余曲折を経て『徹子の部屋』に三人揃って出演したTM NETWORKの姿にほのぼのとしたものを感じたが、その原点をこの再放送は思い出させてくれた。
これだけのメンバーが自前のバンドを持ち込んで、リハーサルから本番までやるとなれば、人件費も相当な金額になる。音楽番組を1本作るのはかなり大変で、それができないから懐メロVTRとひな壇芸人のトークに代わっていった2000年代以降を思えば、栄枯盛衰である。
別な視点で見ると、音楽業界は1990年代からトレンディドラマに大手事務所の俳優が複数名出演、同じ事務所か系列の歌手がタイアップで主題歌を歌ってメガヒットさせるCDバブルな時代があった。それが一変するのが1999年辺りで、音楽配信に様変わりしてレコード会社が廃業、大手が再編されていった。
今回放送の出演者で、シングルやアルバムが配信、あるいはCDで再発されているのは、松岡英明(CD配信両方)、TMネットワーク(CD配信両方)、清水宏次朗(シングル・アルバム配信中)、谷村有美(CD配信両方)、サンディー&ザ・サンセッツ(CD配信両方)、横山輝一(シングル一部配信あり)だった。あとはファンクラブ限定なども入れると、何らかの形で入手できるのかもしれない。
今日取り上げた放送回出演者で、YouTubeで音源やライブ映像がかなりの再生回数をあげている人もいる。ファンがチャンネルを開設、音声配信されていない廃盤アルバムをアップデートしている場合もあり、マーケットの様変わりというのも実感させられる(当時の所属レコード会社が再編後にどうなったのかも大きい要素)。
合わせて、都内の中規模のコンサート会場で耳にしたことがある、日清パワーステーション、新宿厚生年金会館、STB139 スイートベイジル、中野サンプラザ辺りが閉館されていったのも、音楽市場の様変わりに大きく影響したのは間違いない。
なつかしい再放送だったけれど、出演者とバンドメンバーが放っていたエネルギーは、決してバブルの浮ついた雰囲気だけのものではなく、確かな実力に裏打ちされたものだった。こうした映像が欠けることなく丸ごと残っており、それを今の私たちが再確認できるのは、中々幸せなことである。
派手なセットよりも「音」そのものを掘り下げようとした『ジャストポップアップ』のような番組は、NHK史の中では地味な存在かもしれないが、当時の音楽事情を正しく伝える貴重なアーカイブだ。できれば全部の回、再放送してほしいものだ。
※本文中の登場人物・団体等は敬称略です。
