『歌え若人達』(1963/松竹)
Leminoというドコモがやってるサブスクがあって(以前のdTVから改名したらしい)、そこには「寅さんシリーズ」以外、サブスク配信にあまり積極的じゃない松竹の映画が割と揃っていてうれしい。HuluでもU-NEXTでも観られなかった作品がわずかだが入っていて、それをいちいち探し出して見つけては観ている。運営側にとって、過去の作品はあくまでも全体の配信数の頭数を揃えるためのものでしかなく、トップページから「制作年度順」に並び替えると、最近の映画がたくさん出てきて、「古い順」に並び替えることもできないので、延々と画面をスクロールさせられる羽目になる。
それはさておき松竹映画、ひいては日本映画の巨匠のひとりである木下惠介監督の作品だ。これはチャンス。名画座でもあまり観る機会がなかったし、ケーブルテレビと契約していたわけでもなかったので、本数の多さに比べてあまり観れていないなと常々思っていた。実際、『カルメン故郷に帰る』や『二十四の瞳』のような語り尽くされた名作とそうでない作品の知名度のギャップがすごい。いつも軽さと重さの塩梅が見事で、どの作品を観ても毎回唸らされる。
では、レビューに移ります。
木下惠介監督による「川津祐介BL学生路線」というものがあるらしく(『惜春鳥』とこれしか知らないが、私が勝手に言ってるだけ)、脚本が木下組の助監督でもあった山田太一ということで観た。特にこれという盛り上がりもないがなんとなく雰囲気が良くて楽しめる、やはりホームドラマの松竹という感じがする。
川津祐介(チャラい)、山本圭(マザコン)、三上真一郎(ガリ勉)は木下ボーイズのコアメンバー。そこに今回はデビュー作の松川勉(第一回出演作)が加入する。ヒロインは岩下志麻、倍賞千恵子、冨士真奈美の豪華トリプル仕様。
特に学園祭のダンスパーティーのシーンで、川津祐介と踊っている冨士真奈美が、松川勉と岩下志麻に会った時にフレームの端っこで舌を出す仕草がかわいすぎる。ちなみにそのとき、三上真一郎は倍賞千恵子と炎を囲んでフォークダンスをしているのだ。観客の期待を裏切らない解釈一致のキャラ設定、流石だ。
黎明期のTVドラマの収録場面(フジテレビ?)が出てくる。生放送で役者が演技をしるのを撮影・オンエアし、ロングショットやロケの場面は、先にフィルムで収録している場面と切り替えるのだ。あくまでも架空の劇中劇とはいえとても貴重な映像資料。その後の山田太一がTVドラマに活路を見出すことになるのもこれで運命付けられていたのかもしれない。
ちなみに津川雅彦、渥美清、岡田茉莉子、佐田啓二、田村高廣らは全員出オチのカメオ出演。1963年のお正月の気分を存分に味わった。男子寮の管理人役の若水ヤエ子も忙しかったのだろう。顔を出すのは1シーンだけだったが、寮への来客を知らせるアナウンスがほぼ全編で反復されるため、あの特徴的な声だけで映画全体を支配している。これが芸人の力だ。監督、脚本、キャストにとってはフィルモグラフィ的には取るに足らない、軽いノリの一作なのかもしれないが、時が経ったいま観ると、いろいろな感慨深さがある。
細かいシーンだが、ドラマ収録前の本読みのシーンでセリフを間違えた主人公がディレクターに指摘されて謝るのだが、ドラマの収録本番でも堂々と同じセリフを同じように間違えている(しかし特にそれを問題にされてることはない)。人間、そう簡単に成長するものではない。
昔、フィルムセンター(今の国立映画アーカイブ)で観て最高に面白かった『春の夢』とようやくLeminoで再会できる。楽しみであります。
BL的な世界観への目配せはさんざん指摘されているし、実際そういう世界のことをちゃんと知っていて撮っているのだと思う。ただし、本人のセクシャリティについては「業界では有名だった」という噂話でしかなく、もう古い話でもあるし、カミングアウトしていたわけでもないのだから、あくまでも都市伝説程度に考えるのがいいのではないか。木下惠介はゲイだからセンスが良いんじゃない。木下惠介は木下惠介だからセンスが良いのです。
