【対談】ゲームデザインと学び|オインクゲームズ佐々木隼さん
オインクゲームズ代表の佐々木 隼さんと、日本ボードゲーム教育協会代表理事の財津先生(日本大学)が、「ゲームデザインと学び」をテーマに対談しました。この対談では、佐々木さんのボードゲームづくりの黎明期のエピソードから、ゲームデザイナーが持つべき哲学、そして子どもたちがゲーム制作に挑戦することが、デザインの本質やルールに対する深い理解を促す上でいかに価値があるのかについて、議論を深掘りしました。
日本ボードゲーム教育協会の出版する『新版ボードゲーム教育概論』のクラファンページはこちら。(2025/11/30まで!)

※この記事は、日本ボードゲーム教育協会が行ったXスペースでの対談をベースに作成しています。
対談者プロフィール
佐々木 隼(ささき じゅん)さん
オインクゲームズ 代表。
2010年のゲームマーケットに個人で出展したことをきっかけに、現在はボードゲームとデジタルゲームの両方を開発する日本をボードゲーム業界を牽引するゲーム会社に成長。統一された四角いパッケージの作品群で知られ、国内外で高い評価を得ており、代表作には『海底探検』などがあります。
家族ではパンパスというサークルを立ち上げ個人でもボードゲーム制作活動は継続しています。
「バーコードのため」に会社を設立?
オインクゲームズ創業の歴史
財津: まず、オインクゲームズさんがこれまでどのようにボードゲームシーンで活躍されてきたのか、その歩みについてお聞かせいただけますか。
佐々木: ありがとうございます。オインクゲームズは今やゲーム会社になりましたが、一番最初は、ゲームマーケットに自分のゲームを出すために出した小さなブースが始まりです。2010年のゲームマーケットに、個人で出展しました。
財津: 最初からあの長方形の統一された箱で販売されていたのでしょうか?
佐々木: いや、最初は全く統一フォーマットでやろうなんて思っていませんでした。皆さんと一緒で、作ったゲームを出すことだけを考えていましたね。最初の作品『ストレイシーフ』では、無謀にも何も知らずに1000個も作ってしまいまして。
財津: 1000個ですか、すごい数ですね!
佐々木: 制作会社に「皆さん何個ぐらい作るんですか?」と聞いたら、「1000個とか作る人もいるね」と言われて勘違いしてしまったんです。その時、大量に売れ残った場合に備えて、バーコードがあれば店舗やAmazonで流通させられるんじゃないかと考えました。バーコードをつけようと調べているうちに、法人があると良いという情報にたどり着いたんです。
財津: なるほど。それがきっかけで法人化を。
佐々木: そうです。バーコードをつけるために作ったのがオインクゲームズという会社なんですよね。実はバーコードをつけるのに会社になる必要はなかったんですけど(笑)。本当に何も知らなくて、法人化の手続きを進めましたが、結局生産までにバーコードは間に合わず、後から裏に貼り付けることになりました。
財津: 当時から流通を見据えていたのは、すごい先見の明だったと思います。その後、大きなターニングポイントはありましたか?
佐々木: 最初の作品が酷評を得て、次はちゃんと作ろうと次の作品を出したら、それがまあまあ売れてボードゲーム作りにハマり込みました。大きな転機は2014年頃で、会社として仲間を増やし、ビデオゲームも開発する体制を整え、ボードゲームも専業としてしっかり作っていく流れにしました。この頃に『海底探検』がヒット作になり、会社を牽引してくれました。
財津: 海外展開への意識はいつからお持ちでしたか?
佐々木: 2015年頃にドイツ子会社を作る流れがありました。海外の出版社から声がかかり海外でリリースした作品が、箱サイズやアートワークが変わってしまい、あまりうまくいかなかったんです。その時、「自分のアートワークで出したらどうだったんだろう」という気持ちが強くなり、海外でもオインクゲームズのままでやりたいという強い思いから、ドイツ支社を作るに至りました。
「顎を尖らせる」
オインク佐々木さんのゲームデザイン哲学
財津: 佐々木さんがゲームデザイナーとして作品を作っていく時、発想の源や大事にしていることは何でしょうか?
佐々木: これは多くのゲームデザイナーがそうだと思いますが、日頃から世の中のどんな出来事が良いゲームになりそうか、常に探し続けています。何を見ても「ゲームになるんじゃないか」と思うんですよ。メモ帳にアイデアをストックしておき、締め切りが近づくとそれらから引っ張り出して、勝敗がつく形に整え、テストプレイを繰り返します。
財津: デザインされる上で、特に大事にしていることはありますか?
佐々木: 世の中には良いゲームがたくさんある中で、そのゲームの「存在価値」が出るように考えています。例えば「これなら『はげたかのえじき』でいいじゃん」とならないようにする、ということです。その作品特有のゲームデザインの「特徴」を、とにかく際立たせたいんです。
財津: その特徴を際立たせるために、どうされているのですか?
佐々木: オインクゲームズの用語で言えば、「顎を尖らせる」という言い方をしています。顔の中で特徴的な部分があったら、普通は削って丸くしようとしがちですが、もし顎が長かったら、そこをさらに尖らせて鋭くした方が、存在価値のあるゲームになっていく気がしています。何にも似てないような部分を入れたいと、いつも思って考えていますね。
財津: 非常に刺さる言葉です。既存作をリニューアルされることもありますが、新版にするきっかけは何ですか?
佐々木: 作品を作ってから時間が経ち、みんなの反応を見たり、自分で何度も遊んだりする中で、「もっとこういう部分をこうできたかも」ということが浮かんでくるんです。10年ぐらい経つと、「そろそろ新しくしてもいいんじゃないかな」というタイミングが来ます。
財津: 『小早川』の新版は、デジタル版(ビデオゲーム版)に先行して入っていたルールを、ボードゲーム版に逆輸入した形だったと伺いました。
佐々木: はい。ビデオゲームは、ボードゲームよりも「ダウンタイム」(プレイヤーが操作していない待ち時間)にシビアなんです。ボードゲームは他の人の様子を見て楽しめるけれど、ビデオゲームだと情報量が減り、つまらない時間になりがちです。そのため、ビデオゲーム化する際に、ダウンタイムを減らすために、賭けに乗った人が勝者を予想して賭けるという要素を入れたのですが、これがボードゲーム版でも良いよね、となってリメイク版に入れました。
ゲーム作りが教える
「ルール」の本質と「デザイン」の価値
財津: ボードゲーム教育の観点から、ゲームをデザインすることと「学び」はどう関わっているか、佐々木さんの考えをお聞かせください。
佐々木: はい。ゲームデザインで学べるところはすごくあると思っています。特に、デザインというものの本質的な部分を体感できるのが大きいですね。なぜなら、ゲームデザインは「面白い」という目的が非常にはっきりしているからです。
財津: 目的の達成度が分かりやすいということでしょうか?
佐々木: その通りです。例えば、交通事故を防ぐポスターをデザインしても、実際に事故が防げたかどうかの効果はすぐにわかりませんし、目的にコミットできているかどうかが曖昧になります。
しかし、ゲームデザインは、自分がデザインとしてやったことが、結果として「面白いかどうか」がすぐはっきり現れるんです。デザインの教材として非常に優れていると思います。
財津: 息子さんがゲームデザインをされるようになって、成長に影響があったと感じることはありますか?
佐々木: 今はじめて思いましたが、「ルール」というものへの考え方に、すごい影響があるんじゃないかと思いますね。日本人ってルールを作り直すことが苦手だと言われたりしますが、本来ルールは、目的に沿わなくなってきたら作り替えて、一番機能するように変えていくべきものです。
財津: 盲目的に守るものではないと。
佐々木: ええ。ルールを盲目的に守るのではなく、「どういうルールこそが本当にいいのか」という、ルールを作り替えていく部分の考え方が身についている気がしますね。また、息子は「これ、本当に面白いのかな?」と完成間近になって言うことがあるんですが、これはまさに、ルールの先の「体験」を考える、という態度が身についているのだと思います。
財津: 昨年のゲームジャム(子どもたちがゲームを作り上げるイベント)での体験はいかがでしたか?
佐々木: 小中学生の親子が2日でゲームを作りきる過酷なイベントでしたが、お子さんたちのゲームを作るというモチベーションの高さに助けられ、ゲームがどんどん出来上がっていきました。イベント後にお子さんたちが、「自分たちが作ったゲームを、他の人が楽しんでいる様子を見るのがすごく良い体験だった」と話していたそうですね。
財津: まさに、それがゲームデザインを通じた学びの原点だと思います。
佐々木: ポスターでは行動が変わったか分かりにくいですが、ゲームは目の前で人が楽しんでいる光景が見える。これは大きいですね。
名作を生み出すゲームデザイナーが大切にする
「とにかくやってみる」姿勢
財津: 佐々木さんがゲームデザインをしていて「楽しい」と思う瞬間はどんな時ですか?
佐々木: 良いルールやアイデアを見つけた瞬間が、まずすごく嬉しいです。そして、「これは面白いぞ」と、テストプレイの場で確信できた時ですね。昔はひらめいた時でもニヤニヤしていましたが、何度も裏切られたので、今は頭の中で面白くても実際にやってみないとわからないと思っています。
財津: ゲームジャムでご一緒したファシリテーターの方が、佐々木さんが「やってみるんだ」と驚かれていたという話がありました。
佐々木: そうですね。やってみないと分からないと思っています。その方向が良くないかもと思っても、すぐに試してみた方がいい。
財津: とにかく「やってみる」ことの重要性を強く感じます。
佐々木: はい。これはオインクゲームズ用語で「蜃気楼現象」と呼んでいる教訓があります。どんだけオアシスがはっきり見えていて、「これ絶対面白い」と思っても、行ってみると何も面白くないということが、常に起こるんです。
だから、遠くから判断せず、まずはちゃんとそこまで行ってみよう、というのが私たちの考えですね。
財津: 作る前に「無駄かもしれない」と躊躇してしまう気持ちを払拭し、「とにかくやってみよう」と実際に手を動かすことにつながりますね。
佐々木: ボードゲームは、ビデオゲームと違って、すぐに試すことができるのもいいところです。
財津: 佐々木さんから、現場の知恵である「顎を尖らせる」と「蜃気楼現象」という二つの素晴らしい言葉を引き出せたことが、このスペースの成果だと思っています。
財津: 佐々木さん、本日はお忙しい中、大変貴重なお話をありがとうございました。
佐々木: こちらこそ、お招きいただいて本当にありがとうございます。
財津: ゲームデザインは、単なる遊びや趣味ではなく、「デザインの本質」や「ルールへの向き合い方」を学べる、非常に価値のある活動であるということが明確になりました。
佐々木: はい。ボードゲーム作りは、自分が作ったもので人が楽しんでくれる様子を直接見られるという、なかなか味わえない喜びがあります。ゲームデザイナーとしての姿勢や哲学が、作ることを通して学びにつながることを、ぜひ皆さんも探求してみてください。
財津: ありがとうございました。また今後ともよろしくお願いいたします。
ボードゲームの教育的活用をまとめた参考書
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当協会では、ボードゲームを教育や学びの現場で活用するためのガイドブック「新版 ボードゲーム教育概論」を作成するクラウドファンディングを実施しています。
この概論には、教育現場での具体的な活用法や、50作品以上のボードゲームの学びのポイント、そしてボードゲームの教育利用を支える学術的な背景が詳しくまとめられています。
佐々木さんのオインクゲームズの作品も多数掲載させていただいております。クラファン自体は11月30日に終了となりますが、ボードゲームの教育的価値にご興味のある方は、ぜひ覗いてみてください。

クレジット
日本ボードゲーム教育協会HP:https://sites.google.com/view/jbgea/
協会公式 Xアカウント:https://x.com/jbgea_bokyokyo
佐々木潤さんアカウント:https://x.com/44gi
財津先生Xアカウント:https://x.com/xi2ko
