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科学の源泉と未知の恐怖:魔女伝承から学ぶ

 魔女の話をすると、Witchという英語が魔女と訳されているため男のWitchを魔女とするのは変だとか、Wizardを魔法使いと訳すとWitchとの違いはなんだとか、呪術師との違いはなんだとか、訳が分からなくなるが、とりあえず、女呪術師を魔女として考察してみる。(小野堅太郎)

 魔女といえば、西洋の森に棲む黒いマントのおばあさんで、杖を持ち、箒に跨って空を飛ぶイメージ。日本では山姥、インドネシア・バリ島のランダのイメージと重なる。子供の頃、魔女といえばグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」で恐ろしかった記憶がある。自分が親になり、子供に読み聞かせる時、ヘンゼルとグレーテルの両親がリアルに子供を森に捨てる話をしてて、これは子供に読んでいいのか不安になった。絵本によって、ストーリーに違いがあるようだが、私が読み聞かせた本では、ヘンゼルとグレーテルが家に帰ってきたとき、都合よく母親はいなくなり、父親が泣いて二人を抱きしめるというシーンで、なんか居心地の悪い内容だった。

 ギリシャ神話(推定紀元前15世紀ごろから)に魔術を行う女達(キルケ、メディア、ヘカテ)が出てきて、今でいう魔女である。旧約聖書「出エジプト記」に出てくる「呪術を行う女」がwitchと訳されて魔女伝承が始まったとみてもいいかもしれない。狼男伝承のところでも書いたが、魔女もおそらく、ペストによるヨーロッパの社会不安(人間不信)により黒魔術の悪評と増幅してしまい、中世ヨーロッパでの魔女裁判という、より女性に特化した偏見が多くの悲惨な事件を生んだと思われる。アメリカにも植民地時代に魔女裁判は飛び火し、セイラムの魔女裁判は有名である。最近ようやく「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」という映画を見たが、魔女にまつわる忌まわしい歴史はアメリカ合衆国の中に呪いの恐怖を染み込ませているのだなと、面白く見せてもらった。アメリカでは最近、魔女信仰が人気らしい。人によるのだろうが、小野は幽霊が怖いのに、悪魔が全く怖くない。「オーメン」、「エクソシスト」、「パラノーマルアクティビティ」、最近では「ヘレディタリー/継承」など、悪魔がでてくると笑ってしまう。クトゥルフ神話は世界観が好きなため笑いはしないが、怖くはない(宇宙的恐怖と言われると笑うが)。魔女は、ぎりぎり怖いと思える。

 魔法について考えてみると、基本的には科学の源泉である。磁石はいまだに自分にとって魔法に思える。発生原理がよくわからない。例えば、電流は電子の動き、無機イオンとも整合性がとれるし、頭の中で納得できる。電磁石とか発電機とかも仕組みからいくと納得していて、科学だなと思っている。でも、磁力自体がよくわからない。というか、電磁波の特性をよく知らない。MRIの実験をやっていながら!水素原子のスピンがどうのこうのは知ってますよ。でも、原理は説明できても、実際はなんでその原理が成り立つかはよく理解してないんです。つまり、MRIは生体組織を無傷で見れて、脳活動を評価できる魔法の装置と捉えている。

 車に乗っている人の多くは、エンジンの仕組みとギヤの切り替えなどわからずに運転している(バイク乗りはみんな詳しいですが)。つまり知らなくても物は使える。「2001年宇宙の旅」で有名なSF作家、アーサー・C・クラークの言葉で「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」というのがありますが、まさにそうです。つまり、魔法(マジック)は、科学技術を応用した手品(マジック)であり、使っている本人は原理を知らなくても、マジックを行えるわけです。

 さて、魔女の仕事には薬づくりがあります。白魔術では治療薬(ドラクエでいうHP回復の薬草)、黒魔術では毒薬です。現代人にとって、クスリは化学合成したもので、草とかイモリとか、は?何言ってんの?ということになるでしょう。日本には漢方という生薬を調合した、中国に由来を持つ薬草治療があります。漢方の作用理論には気血水理論とか陰陽五行理論とかあって、は?何言ってんの?ということになります。ですので、私が漢方薬の研究をしだした時には、仲のいい研究者の方から注意を受けました。しかし、痛みの研究をやっていると、カプサイシン、AITC、メンソールなど、すべて植物由来の成分です。鎮痛薬や解熱剤として使われている合成薬物も元は、民間療法で使用されていた植物の有効性から研究され、有効成分として同定されたものです。効くという薬草があれば、おそらくそこに重要な薬効成分があることは間違いないわけです。

 5年ほどかかりましたが、私たちは口内炎の痛み抑制に作用するといわれる半夏瀉心湯という漢方薬において、加工した生姜成分に含まれる化学成分が有効であることを突き止めました。しかもこれは単独では作用せず、ニンジンやナツメなどに含まれる界面活性成分により生体内で有効性を発揮しました。これは現代のドラックデリバリーの考え方です。こんな研究体験をすると、魔女の臭そうなスープは実は本当に有効な薬になっていたのではないかと勘繰りたくなるものです。そのレシピは失われているでしょうが、もし手に入るなら成分解析をしたいものです。

 「コンテイジョン」という映画が、新型コロナの流行を予言していたと話題になりました。非常に医学的に練られた映画で、ラスト付近で?なところもありますが、よくできています。有名な役者が勢揃いの映画ですが、ジュード・ロウ演じるジャーナリストが「レンギョウ」と呼ばれるエセ薬の情報を拡散し、買い付けパニックが起きる逸話があります。「レンギョウ」は東洋医学の薬に使われる成分です。要するに、生薬はいかがわしいものとして映画で扱われていて、その点が少し残念でした。こういった社会に根付いてしまった悪いイメージは、科学がどうだからと言っても払拭するのは難しいです。ワクチンしかり、グルタミン酸しかりです。逆に効果は限定的と思われるのに、社会に広まり定着してしまうものもあります。

 科学は常に社会の倫理、常識にゆがめられる運命を持っています。あのガリレオでさえ、自説を曲げて天動説を支持しました。魔女の力は有効であればあったほど、いざという時の脅威、恐れに転化したことは容易に想像できます。リュック・ベッソン監督の映画「ジャンヌ・ダルク」では、なんとなく勢いで戦果を上げてしまったジャンヌが、後に魔女として凶弾されていく姿が描かれています。火あぶりの刑に処せられた魔女のことを思うたびに、科学の一般化の難しさを感じます。


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