見出し画像

NovelJam2024 ベストデラシネ賞

本日はNovelJam2024贈賞式がありました。参加者、関係者の皆様、お疲れ様でした。アフタートークでうまく話せなかったので、わたしが選出した「ベストデラシネ賞」について書きます。

東京会場地域テーマ「デラシネ」

NovelJam東京会場の地域テーマは「デラシネ」でした。
これは東京にいるほとんどのひとが東京出身ではない、根無し草である、という東京の地域性から発案したものです。

また、デラシネというのは文学においても普遍的なテーマであるため、ぜひ一度は考えてみていただきたかったテーマです。
運営本部でもあるHON.jpは「本(HON)の作り手をエンパワーメントする」NPO法人ですから、この機会に、書き手の方々のネタや武器を増えたなら、女子の本懐であります。

デラシネは大きく使える概念でもあるので、縛りも少ないので、これは良いお題だったのではなかろうかと、もうわたしの仕事は終わったし、NovelJam2024の運営は贈賞式で終わりだ、と思っていました。思っていました。

ここでまたNovelJam特有のアディショナル・サムシングが発生したのでした。13日19時に「『デラシネ』出題者としてベストデラシネ賞的なものがあればピックアップしておいてください。非公式ですがアフターで讃えたい」と波野PからDiscordに連絡が。

え、いまから? と思いつつ、以下の作品を選びました。

ベストデラシネ賞『隣星の背中を見ていて』湫川仰角(チームe 砂浜と湿原)

湫川さん、おめでとうございます!

選出理由の1点目は、地域テーマの取り扱い方です。最初は2作品を候補にしていました。主人公やその精神がデラシネである作品が多いなか『ターボハウス』は家が、『隣星』は主人公以外がデラシネであるという点が、ユニークでした。「不動産」である家屋、つまり通常は動かないものを動かしたのが『ターボ』。そして「そもそもデラシネであることが常識・普通」であるという世界で主人公だけがはじき出された、デラシネ中のデラシネ(?)である『隣星』。どちらもテーマを逆手にとった作品です。

2点目として、『隣星』に決定した理由が、主人公の価値観が変わらなかったことです。主人公は家族を心配させまいと薬を飲み、「普通」を体験しました。しかしそれでも価値観を変えませんでした。常識・普通にくみすることがないまま、ラストでクラスのコミュニティに溶け込む努力をはじめた、というバランス感覚が良いと感じました。

世界に迎合しなくても――自分の価値観をもったまま、人とつながることができるというのは、デラシネである我々に、ちょっとした生き方、暮らし方の示唆を与えてくれたように思います。

3点目は、ごめんなさい。デラシネ的かという判断でなく、作者・湫川さんに対する期待を持ったからです。

『隣星』は雑にジャンル分けすると、SF平行世界モノです。主人公は物理的に存在する3つの星のうち1つにしか存在できませんが、他の人々は意識だけが他の星を行き来し、主人公にとっての1日の間に、2年分の記憶を蓄積した状態で翌日現れる、という設定です。ややこしい。間違っていたらごめんなさい。

「並行世界の行き来が当たり前」になっている小説をさがしてみると、何作品も見つかります。審査員3名のうちおふたりがSF作家ですから、他のSF作品を真似するとは考えられない。ご自身の中から生まれたアイデアに違いありません。もしや、無自覚に「SFの王道」に挑戦しているのでは? と。そこに可能性を感じました。

わたしは、先行作品があっても良いと考えています。ネタ被りは、独自性でカバーすることができるからです。すでに商業ベースに存在しているアイデアを自力で思いつくこと自体が素晴らしいと思いました。

小説作品としては、設定がややこしいので、もう少しわかりやすいものにするか、あるいはより論点を絞り込んで、必要な描写に文字数を割いて書けば、読みやすい小説になるのでは、と思います。湫川さんの次回作に期待しています!

自分だけの物差しを持とう(自戒)

運営側で参加者のみなさんと接して、強く思ったのが、「自分だけの物差しを持とう」ということです。そして、みなさんにもご自身の価値観に基づいた物差しを持っていただきたい。

NovelJamの作品賞は、審査員の価値観に沿って選ばれています。文章の巧拙を大事にする先生もいらっしゃれば、読後感を気にする先生もいらっしゃる。構成の良さを考える先生も。審査基準はバラバラでしたね。

でも、書き手という存在は、そうあるのが自然なのではないかと思います。

こういった創作活動を行うコミュニティにいると忘れがちですが、コンテンツを消費するだけの消費者が、いわゆる「普通の人」です。物語を書くこと自体が、普通のことではない。わたしたち書き手は普通からはみ出た人です。普通ではないわたしたちにとって、「普通の人」の物差しは、とても使いにくいはずです。

常識・普通というものは形がなく、移ろいやすく、時代や場所によっても変わってしまいます。だからこそ、自分だけの物差しを作って、他の作品を読んで、自分の血肉に変えましょう。

誰かにとって面白い作品が、自分にとって面白いとは限りません。本日、各賞が発表されましたが、それは絶対評価ではありません。選ばれなかった作品も、他の物差しを当ててみれば、それぞれ優れているところがあります。

年末年始の時間があるときにでも、NovelJam作品群を再読して、次のステップに繋げていただけたらいいなあ、と思っています。

ひとこと

運営に対して「一言物申したい」方、ぜひ、運営に回ってみてください。NovelJamの様々な謎が解けますし、想像力や企画力が鍛えられます。わたくし、運営は今回で卒業するつもりなので、ご一緒する機会はありませんが、得難い経験ができることは請け合います。

いいなと思ったら応援しよう!