挫折は「失敗」ではなかった!――社会になじめなかった私が「人生の物語」を紡ぐまで
取材時間は1人あたり3〜4時間。
取材前後も、毎日のようにLINEでやり取りを重ねる。
noteメディア「たしかなこと」を主宰する木全彩花さんの取材スタイルは、一般的な取材とは一線を画しています。その徹底した向き合い方によって、取材を受けた人が自分の強みに気がついたり、新しいキャリアを拓いたりとキャリアや価値観に思わぬ変化をもたらしています。
公開からわずか数ヶ月で、掲載された記事が「100スキ」を超え、告知をすれば、枠が数日で埋まるほどの反響ぶり。その一方で木全さん自身は、新卒で入社した航空会社を1年で退職し、社会になじめなかった自分を「失敗」だと思っていた過去があるといいます。
取材ライターとして起業家たちの人生に触れるなかで、彼女の価値観がどう変わったのか。そして今なぜ「人の人生を編集する仕事」を選んだのか。今回は、メディア「たしかなこと」に込められた想いを伺いました。
木全 彩花(きまた あやか)
noteメディア「たしかなこと」主宰。未経験からから取材ライターに転身し1年半で150本以上の取材記事を執筆。2025年8月にnoteメディア「たしかなこと」を立ち上げ。「一人にひとつ、物語を」をコンセプトに、メディア公開からわずか6ヶ月でフォロワー527名超、掲載した記事はスキ100超え。活動軸を整えるnote伴走サポートもスタート。初月は満席となった。
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偽りの笑顔ではなく「本音の言葉」を紡ぎたいと思った理由
――木全さんが「たしかなこと」を始めたきっかけを教えてください。
木全:大学を卒業後、航空会社に就職したんですが、1年で退職してしまったんです。そこから数年間は職を転々としながら、大学のキャリア支援センターで働いたあと出産し、未経験から取材ライターになりました。
――航空会社での経験が、今の活動に影響しているそうですが。
木全:グランドスタッフとして働いていたんですが、女性社会ならではの、表と裏のギャップに苦しみました。航空業界は、どんなときでも笑顔で接客しなきゃいけないんです。それがプロフェッショナルなんですよね。でも辛くて泣きたい時や本音を言いたい時も、笑顔を絶やさずに凛としていなければいけない。それが、自分に嘘をついているみたいで苦しかったんです。
その経験をふまえて今は、誰かが苦しい時は「苦しい」と声をあげられるように、その声にいち早く気づいて駆け寄れるように、という想いがあります。
「失敗なんて、ひとつもない」起業家への取材で覆された、過去のとらえ方
――取材ライターとして活動するなかで、価値観が変わる出会いがあったそうですね。
木全:はい。取材ライターをしていたころは、スタートアップの起業家さんをメインに書いていたんですけど、「生きてるだけでもすごい」と思えるような壮絶なご経験を、皆さん笑いながらお話しされるんです。「今となってはもう笑いごとなんだけどさ」みたいな感じで。
私は夢だった航空会社を1年で辞めたことを、ずっと失敗だと思っていました。でもその方々の話を聞いて「退職した経験は失敗じゃなかったんだな」と気づいたんですよ。
――その気づきは、今の活動につながっているのでしょうか。
木全:はい。今ではこの経験があったからこそ、どんな人の人生にも「確かな物語がある」と確信しています。
当時の私のように、過去を受け入れられず「失敗だった」と苦しんでいる人は多いと思うんです。もし、人生の挫折をずっとマイナスな出来事として引きずっている人がいるなら「それは違うよ」というふうに伝えたい。
「失敗は、沈むためにあるんじゃなくて、次に浮き上がるための序章に過ぎないんだよ」と言いたいです。「たしかなこと」では、そんな想いを伝えたいと思っています。
ひとりにひとつ、ありふれた日々の中にある物語を引き出したい
――メディア名「たしかなこと」という名前の由来を教えてください。
木全:小田和正さんの「たしかなこと」という曲が、名前の由来です。自分の結婚式で流したくらい大好きな曲で!「いちばん大切なことは特別なことではなく、ありふれた日々の中にある」という歌詞に共感して、こんな生き方や活動がしたいと思っています。
――「ひとりにひとつ、物語を」というコンセプトも素敵ですね。
木全:取材をしていると「私なんて……」「書くほどの人生じゃなくて……」とおっしゃる方が本当に多いんです。でも、実際にお話を聞いていくと、どんな人にもその人だけの背景や、積み重ねてきた時間があります。それに気づかれた瞬間の表情を見るたびに「この仕事をしていてよかったな」と思うんです。
「ひとりにひとつ、物語を」という言葉は、自分の人生を否定していたころの私自身に向けた言葉でもあります。それまでの人生を「良い・悪い」でジャッジするのではなく「物語の一部だった」とまるごと受け止めて、言葉に残していきたい。そんな想いから、このコンセプトを掲げています。
1人の取材に3〜4時間。徹底的に向き合う理由
――クライアントさんから「自分を大切にするきっかけになった」と言われることが多いそうですが、木全さんご自身では、どんな関わり方がそう感じてもらえていると思いますか?
木全:とても時間をかけてるからだと思います。1回の取材が1時間といいつつ、2時間くらいになっちゃうことが多いんです(笑)。私自身がクライアントの気持ちをしっかり腹落ちするまでお聞きしたいので、時間がかかってしまいます。事前の打ち合わせまで含めると、トータルで3〜4時間くらいかな。
それに加えて毎日LINEでメッセージのやりとりもさせていただいています。なかにはオンラインや話すこと自体が苦手な方もいらっしゃるので。相手から「この人になら本音を言っていい」と心を開いてもらえるまで、やり取りしています。
――なぜそこまで、向き合おうと思ったのでしょうか。
木全:私、航空会社を1年で退職したあと、ちょっと落ち込んで引きこもっちゃった時期があって。でも、当時のことを失敗ととらえないことで、今、前向きでいられるんです。
だから、今「人生どん底だ」と思ってる人に、取材を通して「そんなことないよ」と気づいてほしいです。これが向き合う理由ですかね。そのために、まず信頼関係を築くところから始めています。
取材記事が、その人の「新しいキャリア」を拓く
——そこまで向き合ってもらえると、取材を受けた方の変化も大きいのでしょうね。
木全:嬉しい変化の声がたくさん届いています。たとえば美容業界で2店舗経営している実業家の女性なんですが、取材して記事にしたところ、それを見た業界団体から登壇オファーがあったそうです。記事がきっかけで経営者としてだけではなく「教える仕事」もやっていこうかなと進めているそうですよ。
――ほかに、どんな声が届いていますか?
木全:最近は、まだ活動まで踏み出していない方々からのご依頼が多いですね。集客というよりも「自分の人生の棚卸がしたい」という理由でお問い合わせをいただきます。
たとえば、病気を患っている方からご依頼をいただいたときに「私の経験を伝えることで、同じ病気で苦しんでいる人の支えになるかもしれない」とおっしゃっていました。カメラを仕事にしたいと活動されている方は「カメラに救われた自分の経験を、生きづらさを感じている人に伝えたい」とお話しされています。
取材で話すことで、まずクライアントさん自身が救われて、その記事を読んだ人も救われるという「救いの連鎖」が起きているのを感じて、私も勇気をもらっているんです。
「肩書のない人」が集まる図書館のような場所へ――これからの「たしかなこと」
――これからの「たしかなこと」を、どんなメディアに育てていきたいですか?
木全:「肩書のない人たちが集まる場所にしたい」と考えています。「たしかなこと」を立ち上げた当初は、活動の認知や集客目的のご活用が多かったのですが、今は「やりたいことがまだ見つかってない」とか「これから何か始めたい」という方からのお問い合わせが増えているんです。だからこそ肩書きよりも、これから何かを取り組みたい方が、活用できるメディアになれたらいいなと思っています。
イメージとしては「人の図書館」のようなメディアにしたいと考えています。ふらっと立ち寄って、なんとなく気になった本を手に取るような感じで、記事を読んで「こういう生き方もあるんだな」と、誰かの考えの一部になれたら嬉しいですね。
――「たしかなこと」に興味を持ってくれている方へメッセージをお願いします。
木全:「自分には語れるような物語なんて何もない」と思っている方にこそ、「たしかなこと」に触れてほしいと思っています。本当は「何者でもない人」なんていないんです。私自身も、過去を「失敗した」「社会になじめない」と思っていた時期がありましたが、今はそう思いません。「たしかなこと」という名前の由来にある通り「特別なことじゃなくて、ありふれた日々の中に大切なことが見えてくるんだよ」ということを体験してほしいです。
記事に書かれていることは、その方の人生のほんの一部です。行間には、書ききれなかった葛藤や、今まさに直面している悩み、未来への不安もたくさん詰まっています。読者の方には「完成された成功者の物語」としてではなく、今を必死に生きる一人の「等身大の人間」の記録として読んでいただきたいですね。
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「自分には語ることがない」と思っている人こそ、多くの物語を持っている。木全さんから取材を受けることで、自分の人生を前向きにとらえ直す人が増え、その記事を読んだ人がさらに癒されるというよい循環が始まっています。
「たしかなこと」には、その人の等身大の迷いや葛藤、不安、生き方が丁寧に綴られています。自分に自信が持てなかったり、「何者でもない」と感じている人はこの「人生の図書館」を訪れてみてください。木全さんの紡いだ物語を読めば「自分も捨てたものじゃないかもしれない」と希望の光を見出せるかもしれません。
取材・執筆:金沢美和
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