電撃女装モデル作戦にトランキライザーで備えよ!
1970年代から1980年代くらいのハリウッド映画を観ていると、登場人物が茶色い筒状の容器から精神安定剤を出して口に放り込みバリバリ噛んで飲み込むシーンが時々ある。
子供の時はラムネみたいで美味しそうなんて思ってたけど、大人になってからはなんであんな薬の飲み方するのか不思議になった。
chatGPTに聞いてみたら当時のアメリカでは精神安定剤だけじゃなくてアスピリンとかでも噛んだ方が早く効くという都市伝説的な服用方法が広まっていたとかなんとか。
なるほどねぇ〜。
ところで僕は昨日今日とそんなふうにバリバリと精神安定剤を噛んで飲み込みたいような気分だった。
その原因は女装サロンから登録してるLINEに次のようなメッセージが届いたからだ。
「緊急大募集‼︎
某有名美容雑誌のモデルさん募集」
その文面を見たのは僕が営業車で弁当をモソモソと食べていた時だ。
「某有名美容雑誌から取材の依頼を受けました
取材の中で変身してくれるモデルさんを募集します!」
なんだと!
女装モデル募集だと!
「日程 9/30 14時〜18時(4時間)
条件 ビフォーアフターを誌面に掲載可能な方
謝礼あり」
マジか!
某有名美容雑誌に掲載してもらえるのか!
しかも9/30は仕事休みだよ!
全然参加できるぞ!
条件はビフォーアフターか…まぁ問題ないか!
いやでも待てよ一応chatGPTに聞いてみるか。
なぁ、どう思う?
「うーん、雑誌は紙にもネット記事にも残るので一度出たら消せない点は覚悟が必要だね。
あと有名雑誌だということは勤務先や知人に見られるリスクがあるけどそれをどう受け止めるか考えた方がいいよ」
なにしゃらくせぇ事言ってんだよ馬鹿野郎!
有名美容雑誌掲載だぞ!
こんないい話滅多にねぇぞ!
「個人的には「雑誌名」「顔出しの程度」「謝礼条件」を確認した上で、もし納得できるなら応募してもいいと思うけど…」
なにが個人的にはだよ、AIのクセに!
謝礼なんかいらねぇくらいだよ!
オメエに聞いた僕がバカだったよ!
僕はすぐにLINEに返信した。
「興味あります!ぜひ参加したいです!」
送ってからドギマギしながら待っていると
しばらくしてメッセージが来た。
「ありがとうございます。
急な日程にも関わらず沢山のご応募いただき感謝しています。
変身後のお写真を編集部に共有いたしまして
選考結果が出次第ご連絡させていただきます。
少々お待ちください」
なんだよ沢山のご応募あったのかよ。
僕は落胆した。
まぁ日本一の女装サロンだからなぁ。
このLINEもサロン利用者への一斉送信だもんな。
めちゃくちゃ可愛い女装の人いっぱいいるし。
でも意外とおじさんが女装したらこんな綺麗になれました的な部分で引っかかる可能性もなきにしもあらずかな?
chatGPTはどう思う?
「まぁ有名雑誌だから当然人気あって応募多数になるのは当然だろうね。でもさよく考えたらさ、もしキミが選ばれてビフォーの姿が雑誌に掲載されたら奥さんに怒られるんじゃない?」
ホントだ!
やべぇ、忘れてた。
こりゃ進むも地獄、退くも地獄だぞ。
そんな事で僕は色々と不安になったり
逆に希望を持ったりで午後はずっと心が千々に乱れっぱなしで仕事どころでは無かった。
しかし雑誌掲載を諦めきれない僕は決意した。
きちんと妻に話すと。
夜に帰宅して晩ご飯を食べ終わってソファで妻とまったりとテレビでYouTubeを見てる時に切り出した。
「女装サロンからモデルの募集があってさぁ」
「男の時の顔出すの?」
妻は稲妻のように早く結論ついてくるなぁ。
「いや、うん、だけど某有名美容雑誌らしくてめちゃくちゃ応募してるみたいだから僕なんか選ばれないと思うんだよね」
「そうなんだ」
よしもう何も言わないでおこう。
そう考えて僕はそそくさと寝室に行って先に寝た。
朝になってLINEをチェックしたが何の返事もない。
仕事に行く準備をしている間もなんだか落ち着かず、何度もスマホをチェックする。
家を出て電車に乗る。
こんな時に限って隣りに座っているオッサンが
加齢臭とタバコの臭いをハイパーミックスさせてくる。
「臭えんだよおっさん!電車降りろ!」
叫びたい気持ちを抑えるために噛み締め過ぎて唇から血が滴り落ちる。
職場についてもずっと落ち着かない。
朝会の最中も上の空だ。
心の中にはひとつだけ。
「僕は選ばれるんだろうか?」
午前中の得意先訪問を終えて営業車に戻り
スマホをチェックするとLINEにメッセージが来ていた。
慌てて開ける。
「雑誌モデルご応募ありがとうございました。
近々の日程なので昨日編集部さんが深夜まで検討したところ、皆様キレイ過ぎて選べない…という結論に至ったそうです」
うん?
「もっと普通の男性が女装するという趣旨なので雑誌社内の社員からピックアップして行うという結果になったようです」
ちゅーことは。
「ご応募いただきありがとうございました」
いわゆる欽ちゃんの「ナシよ」ってヤツかい?
chatGPTどう思う?
「みんなキレイすぎてってのは丁寧なお断りの可能性もあるね。でも真相は藪の中だよ」
そうだよなぁ。
僕はため息をついた。
まぁ一人相撲だよ。
女装モデルに選ばれるような柄じゃないよ。
顔の肌だって毛穴開きっぱなしだし。
逆にもし選ばれていたらそれこそ赤っ恥だったよ。
いい歳して一体何を期待してだんだよ。
ちくしょう。
こんな時は茶色い筒状の容器に入った精神安定剤をバリバリ噛んで飲み込みたい。
でもそんなもん持ってない。
だから僕はコンビニででん六の豆菓子を買った。
これが僕のトランキライザーだ。
でん六の豆菓子をバリバリ噛んで飲み込みながら夜道を駅まで歩いた。
すごい速度で。
