健康優良児の姉と、片耳が聞こえない弟。
〜きょうだいだけど、ちがう世界を生きている〜
私はいわゆる健康優良児。
頭は良くないけど明るくて、好奇心旺盛。
小・中学校では生徒会長もやったし、責任感は強いほう。
家族で唯一救急車に乗ったことがなかったけど、最近仕事で乗って、ちょっと嬉しかった(笑)
そんな私の弟は、片耳が聞こえない。
生まれてすぐ熱性けいれんを起こし、その後に後遺症として聴力を失った。
昔は人懐っこくて、知らないおじちゃんにも話しかけるような子だったのに、今は人にも将来にもあまり興味がない。
実家暮らしのフリーター。ゲームとバイトの日々。
ちなみに真ん中にももう1人弟がいて、彼もまたクセ強めだけど、今回はその話じゃない(笑)
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「無視してるわけじゃない」って、あの頃の私が言ってあげたかった。
弟が保育園、私が小学生だった頃。
親同士の会話が耳に入った。
「ひーくん呼んでも無視するんです」
「プイってされちゃうんです」
無視してるんじゃない。
ただ、聞こえない方向を呼ばれてるだけなんだよ。
あの時の私が、それをもっとちゃんと説明できていたら…と今でも思う。
弟は小学校で2年間だけ特別学級に在籍していた。
なぜだったのかは今となっては不明。
でも、たまたま私の授業が特別学級で行われたとき、壁に貼られた名札に弟の名前を見つけた。
「どうして弟は普通なのに…?」
そう思って、私は泣いた。
“普通”じゃないって、誰が決めたんだろう。
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大人になった弟は、働いて、止まって、また動いている。
高校を卒業して専門学校に進学したけど、中退。
私が看護師になりたてで家を出た頃の話だったから、詳しい事情は知らない。
とりあえずニートはまずい、ってことで始めたのがコンビニのバイト。
気づけばベテラン。
私はそのコンビニによく遊びに行く。
名指しで(笑)…迷惑な姉です。
その後、バイトを掛け持ちさせようとして回転寿司チェーンの面接を受けさせたけど、出勤初日に辞めて帰ってきた。
「うるさかった」らしい。
正直、私は意味がわからなかった。
初日で何がわかるの?って。
でも、弟にとって“音”は、私たちが思うよりずっと大きな壁なのかもしれない。
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「将来に希望がない」って言った弟の声を、私は忘れられない。
今も彼はコンビニで働いている。
勤務時間は13時から17時。
もっと働けよ、って正直思う。
てか、その時間を私にくれ、って思う(笑)
働いてない時間は、ひたすらゲーム。
戦って殺す系のやつ。私は理解できない。
「正社員になりなよ」
「将来のこと考えなよ」
そんな私の言葉に、弟はこう返した。
「将来に希望もなければ、そんなに働けって言うなら死にたい。
死んだ後の世界が知りたい」
正直、怖かった。
けど、ハッとした。
耳が聞こえないってことが、私には想像もつかないほどの“重さ”なんだって。
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「鹿児島行こうよ」って誘ったとき、弟はこう言った。
「やだ」って。
私は飛行機が好きで、小さい頃からひとりで鹿児島のばあちゃん家に行ってた。
そのばあちゃん、今年91歳。
腰は曲がってるけど、認知症もなく、まだまだ元気。
そんなばあちゃんが珍しく弱音を吐いた。
「ひーくん、ばあちゃんが生きてるうちに会いにきてね」
きょうだいそれを聞いた私は、すぐに飛行機のチケットを取った。
でも弟は、行かないって言った。
理由は飛行機だった。
「気圧の変化で耳抜きがうまくできなかったら、
両耳が聞こえなくなっちゃうかもしれない」って。
…そっか。
たしかに私でも耳抜きできなくてつらい時がある。
弟にとってはそれが“恐怖”なんだ
それでも私は、やっぱり連れて行きたいんだ。
私にとっては“ただの弟”。
でも弟にとっての“耳が聞こえない”は、きっとずっと重たい。
きょうだいだけど、ちがう世界を生きているんだなって思う。
少しでも、その重たさを一緒に持っていけたらと思う。
だから私は、やっぱり「連れて行きたい」んだ。
