「理解してる」つもりで善人ぶっていませんか――渡辺優『女王様の電話番』【読書記録63】
こんにちは!🍦マオ¦読書記録 です。
2025年63冊目に読了したのは、渡辺優さんの『女王様の電話番』(集英社)でした。

主人公の志川は、新卒で就職した不動産会社を辞め、現在、SMの女王様をデリバリーするお店の電話番をしている。友達には「そんな職業は辞めたら?」と眉をひそめられたが、女王様の中でも美織さんという最高に素敵な人に出会い、そこそこ幸せに暮らしていた。
過去、志川が不動産会社を辞めた理由は、あこがれの男性社員・星先輩と付き合う寸前に、先輩が自分に求めている性的なことが一切無理だと気づいたからだった。好きだったのに。付き合えないと正直に言っただけで、志川は同僚に悪女扱いをされ、そのまま会社にもいづらくなり、退社することになってしまったのだ。
私はアセクシャルなのだろうか? 「ない」ことを証明するのは、悪魔の証明だ。もしかしたら、まだ見ぬピンクのひつじに会えるかもしれないのに……。なんでも性的なことや恋愛に結びつける世の中に馴染めない主人公の戸惑いを通じて、現代社会を描く問題作。
プルーフで拝読しました。
実際の装丁はピンクベージュっぽくて、淡いトーンの中、線の細い掴みきれない輪郭。そんな雰囲気。書店の棚に並んでいるのを見つけたら、思わず手に取りたくなる可愛さです😌🫶🏻
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▫️性的指向をめぐる“言葉の輪郭”を描く
本作『女王様の電話番』は、アセクシャル――恋愛感情はあっても性的欲求を持たない――という性的指向をテーマに描かれています。
近年は、こういったテーマを扱う小説も少しずつ増えてきました。たとえば君嶋彼方さんの『一番の恋人』では、アセクシャルやアロマンティックといった概念に真正面から光を当てていましたが、渡辺優さんの本作は、それらを「説明」する物語ではなく、「生きる」物語として描いているように感じます。
志川(主人公)は、性風俗店の“電話番”として働いています。いわゆるデリヘルの手前のような職場で、客と女性たちをつなぐ電話口に立つ仕事。日々さまざまな会話を交わしながら、男女の関係をビジネスとして扱う空気の中で、志川はふと、自分の「性」について考えざるを得なくなる瞬間に出会います。
彼女は恋愛感情を抱くことはある。けれど、性的欲求はない。
それを説明しようとしたとき、返ってくるのは「え、それって○○じゃない?」という、“知識の辞書”を元にした理解。あるいは「そういう人もいるんだ〜!」と、興味本位で片づけるような言葉。
読んでいていちばん胸に刺さったのは、「世間の理解が中途半端に深まれば深まるほど、辞書で区切られた知識で判別されてしまう」という点でした。
まさに、志川が感じるモヤモヤと苛立ちは、誰かを理解した“つもり”になることの危うさを浮かび上がらせます。
▫️「理解」のつもりが、人を傷つけることもある
作中には、「私、LGBTQに偏見ないから!」と無邪気に言い放つ人物が登場します。
一見、善意のようでいて、その言葉がどれほどの暴力を含むのかに気づかない。
その瞬間、読んでいる側の私もハッとしました。
「自分はわかっている」と思ってしまうことほど、怖いことはないのかもしれません。
志川の心の動きは、彼女自身にも掴みきれない。
彼女は「自分は何者なのか」を模索しながら、世間のラベルにも、周囲の好奇心にも、ひっそりと疲弊していきます。
でもその中に確かにあるのは、「自分を決めつけられたくない」という、ひとりの人間としてのまっとうな願い。
この作品が教えてくれるのは、「性のあり方」を理解する以前に、「わからないことをわからないままにしておく」勇気なのかもしれません。
▫️シリアスなのに、軽やかで笑える文体
テーマだけ聞くと重く感じるかもしれませんが、本作は驚くほどテンポが良いです。
地の文は軽妙で、ユーモアがあり、会話のテンポも心地いい。
その軽さがあるからこそ、時折訪れる“ぐさり”とくる一文が際立つのだと思います。
志川の勤める職場では、ちょっとした「事件」も起きます。
それをきっかけに、彼女は人の欲望や関係性を新たな角度から眺め直していく。
風俗の現場という、表と裏が入り混じる場所を舞台にしながら、渡辺さんは「男女」「仕事」「性」「お金」など、現代を生きる私たちのリアルな課題をユーモアをもって描き出しています。
読んでいるときの感覚は、「笑いながらも心にトゲが刺さっていく」という感じ。
軽やかで面白いのに、読後には静かな痛みが残る。
このバランス感覚が、本作のいちばんの魅力だと思います。
▫️“知らない”ことを前提に生きる誠実さ
物語の終盤、志川は自分の「わからなさ」と向き合います。
明確な答えは出ないまま、でもその“曖昧さ”こそが、自分らしく生きるための一歩になる。
渡辺さんは、そんな彼女の姿をとても丁寧に描いていました。
私たちは日々、いろんな“理解”のもとに会話をしています。
「こういう人なんでしょ?」と決めつけてしまうこともあるし、「わかったつもり」で安心してしまうこともある。
でも本当は、他人のことなんて、そう簡単にわかるはずがない。
志川の物語を通して、その当たり前のことを、改めて痛感させられました。
▫️こんな人におすすめ
✔「理解する」ことの難しさについて考えたい人
✔性的指向やジェンダーをテーマにした小説に興味がある人
✔シリアスな題材を軽やかに読める作品を探している人
✔読後に静かに胸が痛むような物語が好きな人
▫️まとめ
渡辺優さんの作品を読むのは本作が初めてでしたが、語りのテンポとユーモア、そして誠実さの混ざり具合がとても心地よく、次作も読んでみたいと思いました。
軽妙な筆致の奥に、人間を深く見つめるまなざしがある。
そんな作家さんです😌
🏵メンバーシップ特典コラム🏵
ここからはメンバーシップ特典として、『女王様の電話番』を読んでとても好きだなあと思った文章を、私の感想と共に紹介していきます😌
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