富山行──北陸の静寂を往く
序:縁あって、天下のメルセデスに
今回の旅は、北関東から富山までおよそ800㎞。
縁あって、天下のメルセデスに乗る機会を得た。
車そのもののレビューは別として、率直に言えば自分の性には合わなかった。
無論、ドイツ車らしく疲労も恐怖も感じない。だが、相性というのは理屈ではない。
初手でネガティブな印象を抱いたものの、終始、安全で快適な旅路であった。
一:北陸への道
北関東から富山までは、数字にすれば大阪と変わらぬ距離。
「日本海の様子伺い」程度のつもりで組んだ二泊三日の行程だったが、想像以上に道のりは長かった。
それでも、序盤はまだ機嫌が良かった。
魚津で高速を降り、魚津丸食堂で海鮮とフライを食す。
港町らしく深海魚が有名で、味は確かだった。
ここはWeb予約が主流らしい。知らずに訪れたが、待ち時間も旅の一部と割り切れば悪くない。
二:埋没林の記憶
食後、魚津埋没林博物館へ立ち寄った。
思いのほか洗練された建築で、併設のカフェも印象的だった。
「埋没林」とは、地殻変動で木々が海底に沈んだまま保存されたものを指す。
特別天然記念物に指定され、数千年を経てもなお残る姿は、自然の時間の深さを思わせた。
入館前に立ち寄ったカフェで、果物のようなケーキを頼む。
花より団子の私には、これもまた旅の一興だった。

三:北前船の余韻
夜は簡素に済ませるつもりで、近くの海鮮居酒屋へ。
サクの昆布締めが殊のほか良かった。サクとはマグロのことだ。
江戸期より続く北前船の影響か、昆布文化が根強い。
富山の食卓には、歴史が香る。
四:黒部へ──峡谷と湯の記憶
翌日は黒部峡谷へ向かう。
トロッコ列車に揺られ、深い渓谷をゆっくりと進む。
自然のスケールに飲まれながらも、車窓の風が心地よい。
快晴の一日であった。来月には紅葉でさらに彩りを増すのだろう。
黒部峡谷の麓には宇奈月温泉がある。
せっかくの機会なので湯に浸かる。
無言の湯気が、旅の疲れを淡く洗い流していった。
五:夜、白馬館にて
ホテルに戻ったのち、富山駅近くのバー「白馬館」を訪問。
重厚な内装に対し、マスターは明るく、落ち着いた時間が流れた。
北陸といえば日本酒の印象が強いが、この夜はウィスキーを選んだ。
香り、味、余韻──どれも自分の舌に馴染んだ。
旅先で出会う一杯として、これ以上を望む理由はない。

結:些事の中の完結
帰路の途中、リアワイパーが故障し、雨粒を拭えなくなった。
後続車のヘッドライトが滲み、リアガラスに微かな軌跡を描く。
それでも車は黙々と走り続けた。
些事のトラブルはあったものの、自走して家路に到着できたのだから問題はない。
——輸入車は、こうでなくてはならない。
