初夏の室生寺で、仏像の知られざる過去に出会う 【奈良・大人旅 /室生エリア編】
追い国宝
今回の奈良旅のメインは『超・国宝』展と決めていた。
翌日以降の予定を立てていなかったので、奈良ビジターズビューローのサイトをチェックしていたら、いつか行きたい、と思っていた室生寺の金堂特別参拝期間と重なっていたので、室生寺へ訪れることにした。
すごく良いタイミングだった!
室生寺は、7つの国宝を常時拝観できる珍しいお寺で、建造物として本堂、五重塔、金堂。美術品として釈迦如来立像、十一面観音立像、釈迦如来坐像、板絵曼荼羅図を保有する。
前日の「超・国宝展」にて、国宝112件を見ているから、
追い国宝状態。
そんな言葉あるのかな……。

毎年行われる室生寺の金堂特別拝観は、金堂内部に入れるから、より間近で見仏できる。スマホのみ写真撮影可、という懐の深さもありがたい。
今回は特別拝観だからこそ気づけた仏像の意外な並びと、その謎にたどり着くことができた。
奈良市内でレンタカーを借り、室生寺へ向かう。
クネクネ山道を進む中、満開の山藤が見え、目を楽しませてくれた。「車も少ないから、ここなら運転できそう!」と意気揚々と私が運転を交代する。
だが、4年ぶりの運転。カーブを切るタイミングを忘れ、夫の「楽しそうじゃん」と笑われながら変な汗をかく。なんとか室生寺の駐車場に辿り着き、ホッと一息ついた。

金堂特別拝観で感じた疑問
「釈迦如来坐像は、奈良国立博物館の『超・国宝』 展」に出陳中です。」受付の人に説明を受けて、昨日見た「螺髪のないツルツル頭の仏像」を思い出した。
国宝を所有する奈良県内のお寺に声がけをして集めた『超・国宝』展、やっぱり気合がすごい……。

山門をくぐると、青紅葉のグリーンとシャクナゲのピンクの世界が広がり、2人で目を見張る。ため池からはカエルの鳴き声が響き、強い日差しは青紅葉で遮られ、さわやかな空気が体を包みこむ。
紅葉の時期も素晴らしいだろうけど、このコントラストは今だけだね、と2人で顔を見合わせる。

ため池の横にある鎧坂を登り、見えてくるのが金堂(※)。ご本尊は国宝・釈迦如来立像だ。早速外陣へ入り、間近で眺める。
入換制をとっていないから、ゆっくりと眺めて良いのもありがたい。
目を凝らして揺れるように彫られた朱赤の衣を眺める。漣波式という技法だ。脇侍は、文殊菩薩と薬師如来。そして周りを十二神将が固める。
三体の大きさも光背のデザインもバラバラで、どこかちぐはぐな印象だ。
そんな違和感を抱いていたら、夫が鋭い質問をした。「あの並び、いつもと違くない? 同じ位の如来が並ぶってことある?」

言われてみれば確かに、位順で言うと、如来→菩薩→明王→天部だから、釈迦如来の脇侍は通常、文殊菩薩と普賢菩薩なはず。
如来が脇侍を務めるのは珍しい。
夫の疑問と、私が抱いた疑問が引っかかる。
御朱印を書いていた1人のお坊さんが、室生寺の歴史を語り始める。室生川は水の聖地で、龍神信仰から寺が生まれたこと。空海の弟子が真言宗の寺とし、江戸時代に桂昌院(※)の寄進で再建されたこと。「桂昌院、またここにも出てきた!」と、彼女の全国的な寄進に驚く。
仏像の並びについて質問したかったのだが、御朱印を求める人で堂内が混み始め、タイミングを逃してしまった。その後、帰宅してから知った理由について、後で書こうと思う。
日本最小の五重塔の美しさ
金堂を後にし、シャクナゲが咲く石段を進むと、日本最小の五重塔が佇む。新緑の世界にスッと建つ朱赤の塔の気品に見惚れてしまう。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」美しい女性の姿を表現する言葉があるけれど、まさに室生寺の五重塔はそんな佇まいだ。

奥の院への石段に挑む。「大した距離じゃないでしょ」と2人とも軽く見ていたが、予想外の石段地獄にヒイヒイ言いながら登る。「仏教って階段好きすぎるよね」と、京都・神護寺の石段を思い出し、笑い合う。
ちなみに奥の院への階段は400段、と書いている人もいれば、700段、と書いている口コミサイトもあるけれど、私の体感は1,000段(苦笑)。
とにかく頂上が見えない。

命からがら空海の御影堂にたどり着くが、巣作り真っ最中のクマンバチが何匹も軒下を出入りする姿と羽音に、都会っ子の私たちはビビって退散。
階段を降りる時は今度は急で、カニの横歩き状態(笑)。振り返ると、ずいぶん高いところから降りてきたんだな、と目が眩む。

その後、遅めの昼食をとり、室生龍穴神社へ参拝して時計を見たら15時すぎ。
本当は宇陀市内の薬草園なども周ろうかなと考えていたが、レンタカーを返す時間が怪しくなりそうだから、次のお楽しみに取っておこう、と室生エリアを後にした。

仏像の並びの謎と秘められた過去
帰宅後、調べてみると、金堂の脇侍は本来、同じ時期に製作された地蔵菩薩と十一面観音だったのだが、現在は宝物庫に移されている。そのため、今の並びなことが分かった。
さらに驚くことに、近年の研究で宝物庫の地蔵菩薩の光背は、別の地蔵菩薩の光背と判明したのだそうだ。
つまり仏像と光背の制作年月が一致しない、ということ。いったい、元の地蔵菩薩はどこへ……?
実はその地蔵菩薩、言い伝えによれば、室生川の氾濫で下流に流されたのを、地元民が拾い上げ、宇陀市内の「安産寺」で大切に守られているという。
安産寺は住職不在の寺。事前連絡で拝観できると知り、「次に宇陀に行った時は見に行けたらいいね」と夫と話す。
もし室生寺の脇侍に戻ることがあれば、国宝指定も夢ではないだろうが、大切に何世代にも渡り保護されているのもロマンを感じてしまう。民間で守ることだってお金が掛かるはず……。
こうして、奈良を訪れるたびに新しい発見が待っており、知的好奇心が刺激されていく。仏像の謎や歴史の断片が、繰り返し足を運びたくなる衝動を呼び起こす。
一度行っただけでは到底味わい尽くせないのが、奈良の魅力なのだ。
参考ホームページと※単語
室生寺<HP>
祈りの回廊<HP>奈良県内の寺院の秘宝・秘仏特別開帳情報が掲載
安産寺の地蔵菩薩について<文化庁HP>
※
金堂・・・平安前半ごろまで使われていた、本尊を安置する建物を指す。
桂昌院・・・江戸幕府3代将軍・徳川家光の側室で、5代将軍・綱吉の生母。
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