【高島回顧録】鈎の話・チタン合金
鈎は金属素材。古代に骨から鉄へ進化し、現在では多くの鈎が高炭素鋼と呼ばれる鋼で作られているそうで、性質やコスト面、扱いやすさなどが最も鈎に向いている素材という事。
鈎に求められる性能だけをピックアップするなら、まず硬度、強度。せっかく掛けた魚も鈎が曲がったり、折れたりしてバラしてしまったのでは元も子もない。そこで適正な強さが求められます。
次ぎに重さ。金属製なので、折れたり曲がったりしないよう、軸を太く大きくすれば、それだけ重たくなります。鈎には餌を挿して潮の中で漂うもの。それもハリスという糸を結ばれたまま。
それでなくてもハリスに邪魔をされた鈎は、さらに自重が枷となって、潮の中で不自然に動いてしまい、それが魚に違和感を与え、結果的に釣れない。渓流の本流でヤマメを釣っていたころは、ハリス0.4号、鈎は返しの無い袖鈎4号などを使っていました。
需要とスペックとコストのバランスを併せると、つまり高炭素鋼が秀でた素材となるのでしょう。
釣具店でチタン鈎を見付けました。聞いたことが無いメイカーでしたが、形は伊勢尼というか、一般的な磯鈎と同じで、対象魚には真鯛、ブリなどと書いてあります。少し高かったのですが。さっそく購入。
6号ハリスに結ぶため手にとってみると、確かに軽い。些か不正確ですが、がまかつの磯鈎が0.06グラム。チタン合金はその60%ほどなので、同寸なら0.036グラム。それでいて高炭素鋼と同等か、それ以上の比強度(重さの割に硬い)を持つという品物。軸は比強度を補うためか、やや太すぎる印象。
しかし先の理想的な方程式を打ち破る鈎です。少し高価なことを除けば、軽くて強い。つまり潮の中で軽い質量は、サシ餌の自然な動きを妨げないもの。フローティングパイプを付けなくても、鈎の質量が軽減できる。
良いことづくめのようで一度は飛びつきましたが、再びチタン合金の鈎を買うことはありませんでした。
一つは軽すぎる鈎に信頼が置けなかったこと。『もしかすると折れるのではないか』と考えながら釣るのは、精神衛生上よろしかぬもの。一つは高価に過ぎる──鈎はヒラマサとの唯一の接合点。信頼はさておき、針先に神経を尖らせていると、片っ端から新しい鈎に交換することに躊躇して、一生涯のワンチャンスを逃したのでは、後悔どころではない。
そして決定的だったのは、事後の始末。
高炭素鋼の鈎は一般的なステンレスの逆で、錆びやすく硬い金属。板前さんの出刃なども同様の素材といいます。
釣りの最中の根掛かりで仕掛けを失ったり、磯際で糸が切れて魚の口に鈎が残ったまま取り逃がしたり、つまり回収できなくなった鈎は、そのまま海中に残ります。鋼なら錆びて分解しますが、錆びにくいチタン合金は長らく海洋を汚染してしまう。
残念ながらナイロンの道糸やフロロカーボンのハリス、PEラインなども代替できる有機分解する材質が求められていますが、やはり強度など需要条件に合わず、夢の素材のまま。実際、磯や堤防でも廃棄された糸は、様々な弊害を生んでいる現状。
私が消耗する鈎の量など、社会問題の全体から見るとミジンコのレベルですが、磯で釣る者として、僅かであっても海を護りたいと思うのでした。そう云いながら道糸が高切れしたとき、糸を回収することさえ出来ないのですが。

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山口県岩国市の洋服屋フジタです。メンズファッションの創生期にVANショップとして、アイビーファッションの真ん中を歩んできました。デフレファッション、ファストファッションが主流になって久しいこの業界で生き残る本物の男ファッションとは何だろうか。たんなる昔話ではなく、温故知新の傍らでnoteを綴ってみます。高島のヒラマサカゴ釣り、ヒストリックカー道楽も。
