小説や映画が生活に必要な理由
現状を打破したいと感じたり、何かを変えたいと漠然と思うような時期には、つい実践的な内容を求めたり、何かに具体的に役に立ちそうなことに触れたくなったりする。ビジネス系の書籍を読んだり、ウェブ上でも簡単に試せそうなものの情報をかき集めたりしがちであり、私も最近そんな時期がちょっとだけあった。
もちろんビジネス系書籍や情報にも意味はあるし、役立つことも多く、気付かされることや新しい発見につながることもあって、それらを否定する気は全くない。適宜取り入れていけばいいものだし、迷える心に光を差してくれたり、ちょっと背中を押してくれたりもする。
では、フィクションである物語、つまり小説や映画は、実際の人生を動かして変化させていきたいと願う時、全くの役立たずなのだろうか。お話の中の展開はあくまでも物語の中の話であり、現実にはあり得ないので、ファンタジーでしかなく、小説や映画は夢の世界に逃避させてくれるだけのものでしかないのだろうか。
以前は私もそう感じることもあった。小説や映画は大好きなのだが、迷うことが多くなると、結局そんなフィクションの話に時間を費やしている場合ではないのだ、現実を見るのだ、と思い詰めてしまったりする。小説や映画に時間とお金と労力を費やすことを、極端な場合は贅沢で無駄遣いであると、心のどこかで感じて後ろめたく思ったりもしてしまう。
けれど最近、ちょっと待てよ、それは違うかもしれないと、感じるようになった。
もしもこの世に素敵な小説や映画が存在しなかったら、一体私たちはどうやって自分の理想の生き方や状況を想像したらいいのだろうか。
人は自分が思い描けた未来しか手に入れられないらしい。
憧れのライフスタイルや人生での出来事、置かれた状況や心の変化について、自分の中からしか情報が得られなければ、新しい自分へと変わっていくことが難しくなるかもしれない。
小説や映画が描いてくれた世界がこの世にたくさんあるからこそ、憧れについて具体的に思い描くことができるのかもしれない。
昔はハラハラドキドキするようなスリリングでスピード感がある小説や映画が好きだった。その方が面白いと感じるし、オチもちゃんとあってわかりやすかったり、長い物語の中に緩急があって楽しめるような気がしていた。
今は、何事もなく平和に淡々と話が進み、大きな事件はないが小さな毎日の幸せがじわじわ続くような話を読んだり観たりしたいと感じている。それは自分の脳内がハラハラドキドキするような状況に浸されたくないと思っているからであり、つまりそんな現実はもういらないかなと思っているからなのだ。私は影響を受けやすいタチだから、そんな急転直下のドラマチックな物語ばかり触れていたら、現実もそっちに引っ張られてしまいそうで、今はなんだかそれが落ち着かないのだ。
しかし小説も映画も資本主義経済の中で拡散されているものであり、どうしたって展開が大きい物語やわかりやすく派手な話の方が、売れやすいのだろう。そういうものの方が数は多いようにも思う。まあそれはそうだろう。冒頭から2時間後まで、ただ淡々と誰かの穏やかな暮らしが語られる映画なんて、大部分の人が寝てしまうかもしれないし、映画レビューは酷評されるかもしれない。XやInstagramでも、全く話題に登らず「バズり」ようがないことになるだろう。
私はもう、苦労に苦労を重ねて成功したぞみたいな、昭和の根性論のようなな話にはもう疲れてしまったし、ギリギリで危機を脱出して最後は愛で終わるみたいなハリウッド映画的スピード感にもなんだか胃もたれ気味なので、なるべく起承転結が激しくわかりやすく展開されずに、全体がふわっとしていて、最後の最後までふわっとしたまま、ジワジワくる足るを知る的な満足感と幸福感があるような小説や映画を求めているのだけれど、実際そんなものはなかなかなくて、まあそりゃそうだよねそんな作品じゃ儲からないもんね、と思う。
それでも時代が変化して、これからはもしかしたら、ふわっとした幸福を描いた静かな作品がヒットするようになるのじゃないか、と勝手に妄想している。妄想というより、勝手な希望であり、「昔はさあ、殴り合ったり奪い合ったり危機一髪で逃げ切ったりするような映画が流行ってたんだよね」と遠い目で言う時代が来ないかなと思っている。
何も事件が起こらない誰かの日記を、淡々と読んでいくことがとても魅力的に感じるような時代。どこかの誰かの平穏に触れて、自分の世界にも似たような穏やかさを投影していく時代。
お気に入りの物語に触れるのは、自分の理想の世界を生み出していくための、トレーニングの一環かもしれない。
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温かいサポートに感謝いたします。身近な人に「一般的な考えではない」と言われても自分の心を信じられるようになりたくて書き続けている気がします。文章がお互いの前進する勇気になれば嬉しいです。