【怨】
「雛川凪沙のお見舞いなんですが」
受付に声を掛ける。すると私と同年代位の看護師が、書き物の手を止めて、対応してくれた。
「こちらにご記入ください」
貰った用紙に必要事項を書き込んでいただけなのに、涙が込み上げてきた。去年のはあんなに元気だったのに。凪沙の口を大きく開けて笑う姿を思い出す。
いつも何かと弱音ばかりの駄目な私を助けてくれる、私の親友。
受付を済ませ、病室へと向かう。病室は廊下の奥の方だそうだ。
病院は苦手だ。温く湿度の高い室温。消毒液の匂い。死のにおい。
病室に近づくにつれて、私は怖くなってきた。弱々しくなった凪沙を見るのが怖い。共通の友達の亜美は、会いに行かない方がいい、と言っていた。理由は聞けなかった。私が怒って電話を切ってしまったから。
どんな顔をして凪沙に会えばいいのだろうか。明るくいつも通り? それとも悲しみを隠さずに? わからない。
悩んでいると病室の前に着いてしまった。私は、深呼吸し、病室の中に入った。
中に入ると、ベッドに座って、何かを書いていた凪沙が顔を上げた。
私は、凪沙の顔を見た途端、涙がボロボロと流れ落ちた。
「なんであんたが泣くのよ」
凪沙は力なく笑った。目の下に濃いくまができている。頬が、げっそりとこけている。ペンを握る手や腕が、ポキンと折れそうなほどに細くなっている。
死が近い。私は、そう思った。
「ごめん、ごめんね」
堪らえようとするも涙は、次から次へと流れて、床を濡らす。
ようやく落ち着き、少しだけ凪沙と話すと、凪沙は検査で連れて行かれてしまった。
ベッドの上に、凪沙が書いていたノートが残されていた。私は、それを手に取り開く。
“なんで私が”
“殺意に悩まされている”
“痛みが治まらない”
“この終わらない苦痛をあいつにも”
“あいつも死ね”
そんな呪いの言葉でノートは埋め尽くされていた。歪んでいるが、力強く刻まれた文字で。
