覚えているフランス語は「ケスキルフェ」だけ
「ケスキルフェ」
大学時代に習ったフランス語で、今も覚えているのは、たったこれだけである。
大学では第二外国語として、ドイツ語、スペイン語、中国語、フランス語の中から、一つを選ばなければならなかった。
今の私なら、中国語を選ぶと思う。
しかし、当時はフランス語一択だった。
なぜなら私は『ベルサイユのばら』が好き……もとい、フランス革命に興味があり、当時のフランスについて書かれた本を何冊も読んでいたからだ。
当然、フランス語にも憧れがあった。
だが、フランス語は難しかった。
名詞には男性名詞と女性名詞があり、その前につく冠詞まで変わる。
ただし、最大の問題はフランス語の難しさではなかった。
フランス語の教授が、おっそろしく厳しかったのである。
最初の授業の日。
まあ、初回なのだから、教授の自己紹介や授業の説明くらいだろう。
私はそんな軽い気持ちで教室に入った。
おそらく、クラス全員がそう思っていたはずだ。
普通はそうである。
ところが、教室に現れたのは、まるで博士のような風貌の教授だった。
そして授業が始まるやいなや、教授はフランス語の辞書を用意していない学生たちに憤慨した。
初回の授業で辞書を持ってきていないとは何事か。
教授は、恐ろしい勢いで私たちを怒鳴りつけたのである。
そして、テキストを出席番号順に音読させた。
まだ習ってもいないのだから、当然すらすら読めるはずもない。
読めない。
声が小さい。
発音が違う。
そのたびに、教授の怒りはどんどん大きくなっていく。
怒鳴られるから、声が震える。
声が震えるから、さらに声が小さくなる。
もともと声の小さな女の子は、毎回のように怒鳴られていた。
少し泣いていたかもしれない。
音読で当てられる順番は、出席番号順だった。
つまり、自分が当てられる日は大体分かっている。
その日が近づくにつれて緊張は高まり、自分の番になるとピークに達した。
教授が話すフランス語は、とにかく声が大きかった。
そして、ものすごい巻き舌だった。
何を言っているのか分からなくても、怒っていることだけはよく分かった。
そんな授業が何度か続くうちに、クラスから一人、また一人と学生が消えていった。
第二外国語は必修科目だった。
それでも、
「あんなイカれた教授、相手にしていられない」
そう言って、授業を捨てる男子学生まで現れた。
最終的には、クラスの半分以上が離脱した。
一方、中国語を選んだ友人は、
「マー、マァ、マァ〜、マー!」
などと、四声の練習を楽しそうにしていた。
ドイツ語を選んだ友人は、
「英語に似ているから、意外と楽だよ」
と言っていた。
楽しそうな中国語。
意外と楽なドイツ語。
そして、毎回誰かが怒鳴られているフランス語。
私は思った。
やっちまったな……。
私は、フランス語を楽しく学びたかったのだ。
それなのに実際にやっていたのは、自分が当てられる日をひたすら耐え、試験の前だけ必死に勉強することだった。
そして私は、無事に「A」を取った。
後になって、教授が言った。
「評価は、ほとんどがCです。Aを取った学生は一人だけでした」
一人だけ?
私じゃん。
しかし、これは自分の成績を褒める記事ではない。
むしろ、当時の自分の要領の悪さに、今さら呆れているのである。
多くの友人は、早々にこの教授を見限った。
さっさと単位を落とすことを決め、次の年に別の教授のもとで、楽しく語学を学ぶ道を選んだのだ。
一方の私は、その授業にしがみついた。
当時は、単位が取れたことがうれしかった。
Aまで取れたのだから、大成功だと思っていた。
しかし、今になって考える。
私はフランスに興味があった。
フランス革命について何冊も本を読み、フランス語を学ぶことを楽しみにしていた。
それなのに、大学の授業を終えた私が覚えているフランス語は、
「ケスキルフェ」
たった、それだけである。
ちなみに意味は、
「彼は何をしていますか?」である。
Aを取って、覚えた言葉が一つ。
なんという機会損失だ!!
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