「“簡単でしょ?”が現場を止める|薬局の紙削減が終わった日」
薬局というものは、紙を大量に消費する。
薬情、薬情薬袋、領収書、調剤録、お薬手帳。
入力を一文字でも間違えれば、全部出し直し。
プリンターは一日中働きっぱなしだ。
紙、もったいないな〜と、ずっと思っていた。
薬情薬袋を出しているのだから、薬情はいらないのではないか。
そう提案してみたけれど、あっさり却下された。
「一枚で説明できる紙があると投薬が楽だから」
……知らんがな。
それならせめて、領収書と明細書。
別々に出すのではなく、領収書兼明細書にすれば一枚で済むのではないか。
こちらの案は採用された。
毎日200人ほど来る薬局で、
一人一枚減るだけでも、紙もインクも時間も変わる。
小さいけれど、確実な効率化だった。
――はずだった。
ある日、患者のお婆さんが騒ぎ出した。
「こんなの年寄りはみんな読めないよ。小さくて」
……“みんな”って便利な言葉だ。
自分ひとりの不満でも、急に正義みたいな顔をする。
投薬していた薬剤師は
「そうですよね〜、じゃあ戻してもらいますね」と、領収書を私のところへ持ってきた。
……え?この忙しいのに?
うまくかわしてくれない?
「受けちゃったんですか?」と聞くと、
「はい、見えにくいから」と。
私は個別対応はしない主義だ。
けれど薬局長に言われ、
結局その人のためだけに設定を戻し、領収書を出し直した。
紙は二枚。
手間も二倍。
その後、事務同士で相談した。
やっぱり個別対応はやめよう、という結論になった。
手数が増えるし、運用がぶれる。
字が見えにくいなら、大きく書いてあげればいい。
ゆっくり読み上げればいい。
……だいたい、スーパーでレシートもらって
「小さいから形式変えて」なんて言わないよね?
そして次回来局時。
別の事務が丁寧に説明した。
「前回は形式を変えてお渡ししましたが、設定変更に手間がかかるため、申し訳ありませんが今後は個別対応できません。」
すると――
「何が手間だ。簡単なことじゃないか!」
案の定、怒り出した。
……知らんがな。
その場でひたすら謝りながら、
それでも領収書は一枚でお渡しするという方針だけは崩さなかった。
“簡単なこと”って、だいたい現場じゃない人が言う。
クリック一回に見える作業の裏で、
設定を戻して、確認して、出し直して、また説明して、
その時間を誰かが黙って引き受けている。
優しさと個別対応は、似ているけれど別物だ。
ひとりに合わせ続ければ、
いつか現場そのものが回らなくなる。
だから今日も私は、
「申し訳ありません」と頭を下げながら、
心の中では思っている。
――薬局はコンビニじゃないし、
カスタムオーダーの店でもないんだけどな。
紙は減った。
でも「簡単でしょ?」って言う人は減らない。
たぶん現場って、そういう場所なんだと思う。
