文鳥みたいになった父の話㉜ニューヨークで運転免許を取る①
ニューヨークで運転免許を取るには、まず英語の筆記試験に合格する。
合格すると、
Learner Permit(ラーナーパーミット―仮免許)が取得できる。
その後、5時間講習を受ける。
実技ではなく、交通ルールなどを学ぶ座学だけだ。
講習を終えると、免許を持っている人を助手席に乗せ、公道で運転の練習ができる。
日本のように教習所へ通うことは必須ではない。
車が生活必需品の国だからこそ、日本とは違う仕組みなのかもしれない。
そして、実地試験に合格すれば晴れて運転免許取得である。
私はHicksville(ヒックスヴィル)で英語の筆記試験を受けた。
受付で、何語で受けるのか聞かれた。
日本語はないと言われたので、
「English, OK.」
と答えた。
すると受付の人は、
「本当に?大丈夫?」
とでも言いたげな顔をしたのを覚えている。
後になって知ったのだが、駐在員の奥さんたちは、遠くまで行って、日本語で筆記試験や実地試験を受けるのが普通だったらしい。
「英語で受けたの?」
そう聞かれて、逆に私の方が驚いた。
「えっ、日本語で受けられる場所があったの?」
夫は、そのことを一度も教えてくれなかった。
ヒックスヴィルで受けられるのだから、わざわざ遠くまで行くのが面倒だったのだろう。
その代わり、夫は筆記試験の問題集を一冊貸してくれた。
「君ならできる。」
夫は昔から、そう言っていた。
学生時代、英語はかなり勉強した。話すのは苦手だったが、読むことにはそれほど困らなかった。
日本人あるあるである。
私は問題集を何度も繰り返し解き、ほとんど丸暗記して筆記試験に臨んだ。
結果は満点。
ラーナーパーミットを取得したあと、マンハッタンで5時間講習を受けた。

そして、実地試験に向けて公道での練習が始まった。
当時、駐在員の間では、「実地試験は一度ではなかなか受からない」と言われていた。
ラーナーパーミットを取得してからは、夫を助手席に乗せ、週末になると公道で練習した。
子どもを後部座席に乗せ、家族総出の運転練習である。
夫は教えるとなると、とにかく厳しかった。
「もっと左。」
「今のは遅い。」
ダメ出しが続き、毎回のように口げんかになった。
助手席に座る夫の顔は、いつも無表情。
怒っているのか、真剣なのか、それすら分からない。
まるで岩のような顔だったので、私は夫を「イワオ」と呼んでいた。
試験内容は日本とは少し違う。
S字やクランクはない。
確か、縦列駐車とスリーポイントターン、それに公道での走行が試験だったと思う。
そして、いよいよ実地試験の日。
朝から雨だった。
夫と子どもにヒックスヴィルまで送ってもらう。
どの試験官に当たるかは……運である。
当時、駐在員の間では、
「黒人のおばちゃんの試験官に当たると厳しい」
という噂が、まことしやかにささやかれていた。
もちろん、本当かどうかは分からない。
今思えば、厳しい試験官の印象が、そんな噂になって広まっただけだったのかもしれない。
それでも、受験する側にとっては気になる話だった。
雨の中、夫と子どもは濡れながら待っていた。
そして、ついに私の名前が呼ばれた。
噂が頭をよぎる。
試験官は……
黒人のおばちゃんだった。
正直、「終わった」と思った。
――つづく。
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