『折り紙のゾウ』 # 秋ピリカ応募
封を開けると、短い手紙と折り紙のゾウがふたつ。
グレーの紙で折られていたが、かなり色褪せている。
足を広げて、立たせてみた。
大きい方が母親、小さい方が子供だ。
勝手にそう思った。
「悩みましたが、この象の折り紙をやはりあなたにお届けしたいと思います」
小学校の6年生だった。
2学期の席替えで、私は拓人と隣り合わせになった。
授業中、彼が机の下でゴソゴソしているので覗くと、折り紙を折っている。
顔は黒板に向けたまま、親指と人差し指、中指が別の生き物のように紙を折っていく。
私が見ているのに気づくと、にっと唇の幅を広げた。
「幼い頃から、折り紙が好きで、いろいろなものを折ってきました。最初は本を見ながら折っていましたが、いつの頃からか、それを折りたいと思っただけで、指が動くようになりました」
私が初めて見た時に折っていたのは、赤い紙のとんぼだった。
赤とんぼだ、と思わず声が出そうになった。
折り上げたそれを、彼は教科書の残っているページの中ほどにさっと挟み込んだ。
「母子家庭であることが影響したとは思いませんが、幼い頃から引っ込み思案でした。折ったものを誰かに見せることはなく、自分の部屋の机の上や窓際に、飾るというよりは、無造作に置いているだけでした。あなたが、声をかけるまでは」
「ねえ、あれ、赤とんぼでしょ」
拓人は黙って頷く。
そして、その赤いとんぼと同じくらい耳を真っ赤にした。
それからは、彼とは短い言葉しか交わすことはなかったが、授業のたびに何かを折って見せてくれた。
かえるやバッタなどの生き物だけではなく、自転車や飛行機なども本物そっくりに折った。
ただ、折った後は、すぐに教科書の中に挟んでしまう。
「それまでと違い、折ったものを綺麗に並べるようになりました。昆虫、動物、乗り物など、それぞれ場所を変えて飾りました。もしかすると、いつかあなたがこの部屋に来れば、そんな思いがあったのでしょうか。思春期の妄想だとお許しください」
ある日、私は拓人に言った。
「ゾウを折ってよ。お鼻が長くて、耳の大きなゾウの親子を」
次の日に、彼はグレーの折り紙で私が言った通りのゾウを折って来てくれた。
大きいのと小さいの。
「ちょうだいよ」
私が手を伸ばしても、彼は首を振って、いつもと同じように教科書に挟んでしまった。
その後、私は私立の中学校に進学して、彼と会うことはなかった。
「あの時、どうして素直にあなたにこの象を渡さなかったのか。あなたとのつながりを手放したくなかったのかもしれません」
私は、来春、都会の会社に就職が決まっている。
この折り紙はいい思い出になるだろうか。
「でも、やはりこの象の親子の折り紙はあなたに持っていて欲しい。迷惑なら、捨てていただいてもかまいません」
折り紙のゾウの親子を出窓に並べた。
小さな方のゾウが倒れて、大きな方も倒れた。
もう一度並べると、今度はしっかり並んで立った。
「それが、息子の最後の望みでした」
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