鬼の顔、兎の心-シーズン3

# 鬼の顔、兎の心 ―シーズン3:悠人と陽菜、そして双子―

## 目次

**第七部:結婚、そして新しい家族**
1. 二つの誓い
2. 新しい二人の日々
3. 双子の光

**第八部:三代目、それぞれの道(小学生編)**
4. もう一つの道
5. 白帯からの一歩
6. 小さなコートで

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# 二つの誓い

## 一

海外での挑戦を経て、悠人と陽菜は、それぞれの国での契約を終え、日本に帰国することを決めていた。二人の間には、いつしか自然と、次の人生のステージへ進む話が交わされるようになっていた。

「日本に戻ったら、ちゃんと、けじめつけたいことがあるんです」

パリでの最後の試合を終えた夜、悠人はビデオ通話越しに、そう切り出した。陽菜は少し驚いた顔をした後、静かに微笑んだ。

「けじめって、もしかして……」

「はい。帰国したら、ちゃんと、直接伝えたいことがあります」

## 二

帰国後、悠人は真っ先に、陸のもとを訪れた。かつて指導者として自分を育ててくれた恩師であり、そして今、大切な想い人の父親でもある陸に、悠人は深く頭を下げた。

「陸さん、陽菜さんと、結婚させてください」

緊張のあまり震える声で、悠人はそう告げた。陸はしばらく黙り込んだ後、静かに頷いた。

「……お前になら、任せられる。今まで、本当にありがとうな」

短いやり取りだったが、そこには、長年積み重ねてきた師弟としての、そして家族としての、確かな信頼が込められていた。

## 三

その週末、悠人は陽菜を、かつて全国優勝を果たした、あの体育館に呼び出した。夕暮れの光が差し込む、静かなコートの中央で、悠人は膝をついた。

「陽菜さん、これまで、色んなことを一緒に乗り越えてきました。バレーボールのことも、それ以外のことも」

「うん」

「これからも、ずっと、隣で支え合っていきたいです。結婚してください」

差し出された小さな箱を見て、陽菜の目には、みるみる涙が浮かんだ。

「……うん。よろしくお願いします」

体育館の中に、静かな喜びが満ちていった。かつて父が母に、そして自分たちが、それぞれの形で紡いできた約束が、ここでまた一つ、確かなものになった瞬間だった。

## 四

結婚式は、陸と茜が式を挙げたのと同じ、地元の会場で行われた。友人代表のスピーチには、聡と福井、そして高校時代の恩師である桐生や澪の姿もあった。

「田村、まさかお前が、陸の娘と結ばれるとはな」

聡がそう言って笑うと、会場は温かい笑いに包まれた。福井もまた、感慨深そうに二人を見つめていた。

「田村と陽菜ちゃんのコンビネーション、俺と陸の阿吽の呼吸に負けないくらいだったな」

新郎新婦の入場、誓いの言葉。悠人はこれまでの人生を振り返りながら、深い感慨に包まれていた。いじめられていた幼い日々、テレビで見た憧れの選手、そしてその選手の娘との、確かな絆。全てが、この瞬間に繋がっていた。

## 五

披露宴の終盤、陸と茜が、新郎新婦に向けて、短い挨拶をすることになった。

「悠人、陽菜を、よろしく頼む」

陸の短い言葉に、悠人は深く頭を下げた。

「はい、必ず、大切にします」

茜は、娘の晴れ姿を見つめながら、静かに涙を拭っていた。

「陽菜、幸せにね」

「うん、ありがとう、ママ」

臆病な少年から始まった陸の物語は、こうして、次の世代の確かな幸せへと、繋がっていった。会場に響く拍手の中、悠人と陽菜は、これからの人生を、共に歩んでいく決意を、改めて胸に刻んでいた。

夕暮れの空に浮かぶ雲が、まるで祝福するかのように、優しい茜色に染まっていた。二つの家族が、こうして一つになった日。それは、長い年月をかけて紡がれてきた物語の、また新しい始まりでもあった。

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*了*
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# 新しい二人の日々

## 一

結婚式から一週間後、悠人と陽菜は、二人だけの新婚旅行に出発した。行き先は、二人にとって思い出深い、イタリアの小さな海辺の町だった。悠人がプロ生活を送った土地の近く、かつて陽菜が試合の合間に訪れ、二人で静かな時間を過ごした場所だった。

「懐かしいね、ここ」

海を眺めながら陽菜がそう呟くと、悠人も頷いた。

「陽菜さんが、俺の試合を見に来てくれた時、よく散歩した道ですよね」

「うん。あの頃から、もう長い付き合いになったね」

## 二

新婚旅行から帰ると、二人は近くのマンションで、新しい生活を始めることになった。悠人は地元の実業団チームのコーチとして、陽菜も女子バレーの指導者として、それぞれ新しいキャリアを歩み始めていた。

「なんか、コーチって、意外と大変ですね」

慣れない指導業務に、悠人が疲れた様子でそう漏らすと、陽菜はくすりと笑った。

「田村くんも、パパの気持ち、少しわかってきたんじゃない?」

「本当に。陸さんの偉大さ、今更ながら実感してます」

## 三

新婚生活が始まってしばらく経ったある日、実家に顔を出すと、陸と茜が、それとなく話を切り出してきた。

「そういえば、そろそろ、孫の顔とか見たいなって、思ったりもするけど……」

茜が控えめにそう言うと、陽菜は苦笑いを浮かべた。

「ママ、気が早いよ。まだ結婚したばっかりなのに」

「悪い悪い、つい」

茜が慌てて言葉を引っ込めると、陸も横から口を挟んだ。

「まあ、俺たちも、焦らせるつもりはないからな。二人のペースで、ゆっくりでいい」

そう言いつつも、その表情には、隠しきれない期待が滲んでいた。

## 四

「じいじとばあば、張り切ってますね」

帰り道、悠人が苦笑いを浮かべながらそう言うと、陽菜も笑った。

「うん、でも、気持ちはわかるかな。私も、いつか子供欲しいなとは思ってるし」

「俺も、同じです。でも、今は、二人だけの時間も、大切にしたいですね」

新婚としての穏やかな日々、それぞれの新しいキャリア、そして少しずつ育っていく将来への展望。悠人と陽菜は、焦ることなく、自分たちのペースで、これからの人生を歩んでいくことを、改めて確認し合っていた。

## 五

ある週末、二人は久しぶりに、思い出の体育館を訪れた。悠人がかつて指導を受けた、あの場所だった。

「私たちも、いつか、ここで教える側になるのかな」

陽菜がそう言うと、悠人は頷いた。

「なれたら、いいですね。陸さんや、コーチたちみたいに」

夕暮れの体育館、静かに響く二人の足音。臆病な少年から始まった物語は、こうして、次の世代の穏やかな日常の中にも、確かに息づいていた。

「私たちらしいペースで、これからも、色んなこと積み重ねていこうね」

陽菜のその言葉に、悠人は深く頷いた。急がず、焦らず、それでも確かな幸せを紡いでいく。新しい二人の物語は、こうして、静かに、けれど着実に続いていく。

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*了*
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# 双子の光

## 一

結婚から三年目の春、陽菜のもとに、双子を授かったという知らせが届いた。男の子と女の子、それぞれ一人ずつという、賑やかな未来が約束された瞬間だった。

「双子って、まさか俺たちに……」

悠人は驚きのあまり、しばらく言葉を失っていた。陽菜も同じように、実感の湧かない様子で、そっとお腹に手を当てていた。

「二人分、ちゃんと守っていかないとね」

「はい。俺、精一杯頑張ります」

その日から、悠人は今まで以上に、陽菜と生まれてくる命を、大切に見守るようになった。

## 二

出産予定日を迎えたその日、悠人は分娩室の外で、これまでのどんな試合よりも落ち着かない時間を過ごしていた。かつて陸がそうだったように、悠人もまた、未知の感情に押し潰されそうになっていた。

「田村さん、生まれましたよ。男の子と、女の子です」

助産師の声に、悠人は弾かれるように分娩室に駆け込んだ。腕の中の二つの小さな命を見た瞬間、これまで経験してきたどんな勝利の瞬間とも違う、深い感動が胸に広がった。

「二人とも、元気そうだね」

汗だくながらも満面の笑みを浮かべる陽菜の隣で、悠人は震える手で、そっと二人の小さな手に触れた。

## 三

男の子には「悠斗」、女の子には「陽葵」という名前がつけられた。それぞれ両親の名前から一文字ずつ受け継いだ、大切な名前だった。

「じいじとばあば、大喜びだろうな」

悠人がそう言うと、陽菜も笑った。実際、陸と茜は、双子の誕生を誰よりも喜び、頻繁に顔を出すようになっていた。

「これで、本当にじいじとばあばになったな」

陸が感慨深そうにそう呟くと、茜も目を細めて頷いた。

## 四

双子の成長は、賑やかで、目まぐるしいものだった。悠斗は活発で、家の中を所狭しと走り回る元気な男の子に育っていった。一方、陽葵は落ち着いた性格で、絵本を静かに眺めるのが好きな女の子だった。

「悠斗は田村くん似、陽葵は私似かもね」

陽菜がそう言うと、悠人は苦笑した。

「性格は逆かもしれないですよ。悠斗の方が、意外と繊細なところあるし」

三歳になった頃、悠斗は初めて、体育館で行われていた両親の練習を見学に来た。ボールを追いかける両親の姿に、目を輝かせながら見入っていた。

「ぼくも、ぼーるやりたい!」

小さな手でそう主張する悠斗を見て、悠人と陽菜は顔を見合わせて笑った。

## 五

五歳になる頃には、悠斗と陽葵、それぞれの個性がさらにはっきりしてきていた。悠斗はボールを追いかけることに夢中になり、休みの日には必ず、父にキャッチボールをせがむようになっていた。陽葵は、母の落ち着いた雰囲気を受け継ぎながらも、時折見せる負けん気の強さが、祖父・陸を彷彿とさせた。

「陽葵、さっき、悠斗とのボール遊び、負けたくないって、すごい顔してたよ」

陽菜がそう報告すると、悠人は驚いた顔をした。

「まさか、コーチの鬼の顔、こんなところで受け継がれてるとは」

小学校に上がる頃、二人の性格の違いは、より一層明確になっていった。悠斗は活発で人懐っこく、友達も多い。陽葵は物静かで思慮深く、じっくりと物事を観察するタイプに育っていた。

「二人とも、それぞれの良さがあって、見ていて飽きないですね」

悠人がそう言うと、陽菜も深く頷いた。

「うん。この子たちが、どんな道を歩んでいくのか、楽しみだね」

夕暮れの公園で、元気に走り回る悠斗と、静かにその様子を見守る陽葵。二人の姿を眺めながら、悠人と陽菜は、また新しい世代の物語が、静かに紡がれ始めていることを、確かに感じ取っていた。

臆病な少年から始まった物語は、こうして、また新しい命へと、確かに受け継がれていく。

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*了*
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# もう一つの道

## 一

小学三年生になったある日、陽葵は近所の柔道場の前で、じっと稽古の様子を見つめていた。悠斗がバレーボールクラブに夢中になる一方、陽葵はスポーツへの興味を示しながらも、なかなかこれといった競技に出会えずにいた。

「陽葵、柔道、興味あるの?」

迎えに来た陽菜がそう尋ねると、陽葵は真剣な眼差しのまま頷いた。

「うん。あの人たちの動き、すごく綺麗だった」

道場の中で、相手を投げ飛ばす選手たちの動きに、陽葵は強く惹きつけられていた。

## 二

「柔道か……バレーとは、また違う世界だな」

夕食の席でその話を聞いた悠人は、驚きながらも、娘の意思を尊重する姿勢を見せた。

「陽葵がやりたいなら、応援するよ」

陽菜も頷きながら、少し誇らしげに笑った。

「陽葵、体幹はしっかりしてるし、足腰も強いから、きっと向いてると思う」

祖父・陸から受け継いだ強靭な足腰は、バレーボールだけでなく、柔道の世界でも、確かな武器になりそうだった。

## 三

柔道を始めた陽葵は、めきめきと才能を開花させていった。持ち前の負けん気と、冷静に相手の動きを見極める観察力が、組み手の駆け引きにおいて、大きな強みとなっていた。

「陽葵ちゃん、覚えが早いね。この調子なら、初段も夢じゃないよ」

道場の先生からそう褒められるたび、陽葵は控えめながらも、確かな手応えを感じていた。

「私、黒帯、目指したい」

ある日、陽葵が静かにそう宣言すると、家族全員が驚きながらも、温かく見守る姿勢を見せた。

「陽葵なら、二、三年もあれば、いけるんじゃないか」

祖父の陸がそう言うと、陽葵は少し照れくさそうに、けれど確かな決意を滲ませて頷いた。

## 四

一方、悠斗は父と同じバレーボールの道を、迷いなく突き進んでいた。父譲りの跳躍力と、祖父から受け継いだ大柄な体格を活かし、地元のジュニアクラブでは、既に注目の存在になっていた。

「兄ちゃんはバレー、私は柔道。全然違う道だけど、なんか、それぞれ頑張ってる感じがいいよね」

陽葵がそう言うと、悠斗も笑いながら頷いた。

「陽葵の柔道、めちゃくちゃかっこいいと思う。今度、試合見に行くから」

兄妹それぞれが、違う競技で、違う形の「鬼の顔」を育みつつあった。悠斗はコートに立つ瞬間、父や祖父と同じような、鋭い眼差しを見せるようになっていた。一方、陽葵は畳の上で対戦相手と組み合う瞬間、これまでの物静かな雰囲気とは打って変わって、強い闘志を漲らせていた。

## 五

「二人とも、それぞれの場所で、ちゃんと自分の武器を見つけてるんだな」

ある日の家族団らんで、陸がしみじみとそう漏らした。

「バレーと柔道、全然違う競技だけど、二人とも、ちゃんと自分の言葉を持ってるみたいだね」

茜がそう続けると、悠人と陽菜も、深く頷いた。

「二人が、それぞれの道で輝いてくれるなら、それが一番だと思います」

悠人の言葉に、家族全員が温かく同意した。臆病な少年から始まった物語は、こうして、次の世代それぞれの、全く違う輝き方へと、確かに広がっていった。

バレーボールと柔道、それぞれ異なる舞台で、悠斗と陽葵は、これからも自分たちだけの物語を紡いでいく。祖父から続く「臆病なままでいい、コートに立つ瞬間だけは、誰よりも強くあればいい」という言葉は、形を変えながらも、確かに次の世代へと受け継がれていた。

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*了*
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# 白帯からの一歩

## 一

柔道を始めて半年、陽葵は初めての昇級審査に挑んでいた。白帯から一歩ずつ、色帯を重ねていくことが、今の目標だった。

「陽葵、緊張してる?」

道場に向かう車の中、陽菜がそう尋ねると、陽葵は静かに首を振った。

「緊張はしてる。でも、怖くはないよ」

普段は物静かな陽葵だったが、審査を前にした横顔には、確かな闘志が宿っていた。

## 二

審査当日、同学年の子供たちが集まる中、陽葵は自分の番を静かに待っていた。組み手の型、そして実戦形式の練習試合。これまで積み重ねてきた練習の成果を、丁寧に発揮していく。

「陽葵ちゃん、動きが綺麗だね」

審査後、道場の先生からそう褒められ、陽葵は控えめに微笑んだ。結果は見事、次の級への昇級だった。

「やったね、陽葵!」

観客席で見守っていた悠斗が、真っ先に駆け寄ってきた。兄妹二人、それぞれ違う競技に打ち込みながらも、互いの成長を喜び合える関係は、変わらず続いていた。

## 三

小学四年生になった陽葵は、初めての大会に出場することになった。相手は、同じ道場の中でも実力者として知られる、一学年上の少女だった。

「勝てるかな」

試合前、陽葵がぽつりと弱音を漏らすと、悠人が優しく声をかけた。

「勝ち負けだけじゃなくて、自分の柔道が出せたかどうか、それが大事だと思うよ」

かつて陸が、悠人自身に伝えてくれた言葉と、どこか似た響きだった。悠人自身も、その言葉が、いつの間にか自分の中に根付いていたことに、改めて気づかされていた。

## 四

試合当日、陽葵は緊張を隠せない様子で畳に立ったが、組み合った瞬間、その表情は一変した。物静かな普段の様子からは想像もできない、鋭い眼差し。祖父・陸が見せる「鬼の顔」とはまた違う、静かで研ぎ澄まされた闘志が、そこにはあった。

一進一退の攻防の末、陽葵は渾身の内股で、見事に一本を奪った。

「一本!」

審判の声に、観客席が沸き立った。悠斗が誰よりも大きな声で、妹の名前を叫んでいた。

## 五

「陽葵、すごかったな!」

試合後、悠斗が興奮気味に駆け寄ってきた。陽葵は少し照れくさそうに微笑んだ。

「ありがとう、悠斗も、今度の試合、頑張ってね」

「もちろん! 負けないから」

兄妹それぞれ、違う舞台で、それぞれの武器を磨きながら、成長を続けていた。観客席で見守っていた陸と茜、そして悠人と陽菜は、その光景を、温かく見つめていた。

「まだまだ、これからだな」

陸がそう呟くと、悠人も深く頷いた。

「はい。二人とも、これから、もっと大きく成長していくと思います」

臆病な少年から始まった物語は、こうして、次の世代それぞれの、小さくも確かな一歩を重ねながら、これからも続いていく。バレーボールと柔道、異なる舞台に立つ二人の子供たちの物語は、まだ始まったばかりだった。

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*了*
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# 小さなコートで

## 一

陽葵が柔道の道を歩み始めた頃、悠斗もまた、地元のミニバレークラブで、本格的に練習に打ち込むようになっていた。父・悠人譲りの跳躍力、そして祖父・陸から受け継いだ体格の良さは、同学年の中でもひときわ目立っていた。

「悠斗、お前、そのジャンプ力、どこで身につけたんだ」

コーチからそう驚かれるたび、悠斗は誇らしげに胸を張った。

「パパとじいじが、すごい選手だったから!」

まだ幼さの残る自慢げな声に、周囲の大人たちは、思わず微笑ましい顔をしていた。

## 二

だが、実際のプレーでは、悠斗もまた、多くの壁にぶつかっていた。体格に頼った力任せのスパイクは、練習試合ではことごとく相手のブロックに阻まれてしまう。

「悠斗、力だけじゃダメだぞ。コースとタイミング、もっと意識してみろ」

悠人が自ら指導に乗り出すと、悠斗は悔しそうな顔をしながらも、真剣に耳を傾けていた。

「パパは、どうやって強くなったの?」

ある日の練習後、悠斗がそう尋ねると、悠人は少し考えてから答えた。

「俺は、独自の技を編み出したんだ。二段跳びっていう」

「それ、俺にも教えて!」

目を輝かせる息子を見て、悠人は嬉しそうに笑った。

## 三

その日から、悠斗は父直伝の「二段跳び」を、少しずつ練習に取り入れるようになった。最初はうまくタイミングが掴めず、何度も失敗を重ねたが、悠斗は諦めなかった。

「もう一回!」

何度失敗しても、悠斗はすぐに立ち上がり、再び挑戦を続けた。その粘り強さは、祖父・陸が幼い頃に見せていた性質とも、どこか重なるものがあった。

「悠斗、諦めない心、大森家の血筋だな」

練習を見守っていた陸が、そう漏らすと、悠人も苦笑しながら頷いた。

「そうかもしれませんね」

## 四

数ヶ月後の練習試合、悠斗は初めて、父直伝の「二段跳び」を、実戦の中で成功させた。相手ブロッカーのタイミングを見事に外し、渾身のスパイクがコートに突き刺さる。

「決まった!」

チームメイトたちが沸き立つ中、悠斗は興奮を隠しきれない様子で、ガッツポーズを見せた。観客席で見守っていた陽葵が、真っ先に駆け寄ってきた。

「悠斗、すごかったよ!」

「陽葵の柔道も、今度見に行くから!」

兄妹それぞれ、違う舞台で成長を重ねながら、互いの挑戦を、誰よりも近くで応援し合っていた。

## 五

「悠斗も、少しずつ、自分の武器を見つけ始めてるみたいだな」

その夜、陸がしみじみとそう漏らすと、悠人も深く頷いた。

「はい。俺の技をそのまま真似るんじゃなくて、悠斗なりのアレンジも加えてきてます」

「そうか。それでいい。俺の教えも、お前の技も、そうやって、少しずつ形を変えながら、受け継がれていくんだろうな」

臆病な少年から始まった物語は、こうして、また新しい世代の小さな挑戦の中に、確かに息づいていた。バレーボールのコートで、柔道の畳の上で、悠斗と陽葵、それぞれの物語が、これからも静かに、着実に紡がれていく。

小さなコートに立つ悠斗の目には、いつしか、父や祖父と同じような、真剣な光が宿るようになっていた。

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*了*
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