まるが教えてくれたこと。
もうすぐぽんちゃん2歳の誕生日だねなんてウキウキしていた3月。
実家の母から泣きながら電話がありました。
「まるが、だめかも」
まるは実家で暮らす12歳のマルチーズ
私が高校生の時から一緒に暮らし、私の制服のスカートに穴をあけたり。静かに制服の上でうんぴをしていたり。
それなりの問題児で、私の親友。
毎朝「おはよう」ってベッドから声をかけると5キロの全体重をかけ鳩尾に飛び乗ってくるまる。
お散歩は嫌い。でも外の空気を感じるのは好き。
私に抱っこされながら、ぽてぽて歩くぽんちゃんと変わっていく景色を見るのが、まるの『お散歩』でした。
シニア期に入り、心臓も悪くなって内服治療を続けていたまる。
ぽんちゃんにとっては大大大師匠。
教育係でもあり、だいすきなお姉ちゃん、時にはお母さんのようでもありました。
母からは時折
「まるが、ご飯食べなくなった」
「自分で立ち上がれないことが増えた」
そんな連絡が来ていました。
でも、その度に私たちが実家へ帰ると、母の話が嘘だったかのようにご飯も食べ、いつも通り私のしつこいウザ絡みにキレ散らかし、ぽんちゃんには呆れたようにため息をつくまる。
「ぽんちゃん達が来ると、まるは元気になるね」
母は目を潤ませながら笑っていました。
つい10日前に会ったばかり。
一緒に雛人形見に行ったばかりのまる。
「またまたぁ、帰ったらきっと、遅い!って吠えるよ」なんて思い半分、
母の泣き声に「本当に駄目かもしれない」という思い半分。
冷凍庫に作り置きしておいた、
まるのごはんをありったけ持って実家に急ぎました。
こんな時間にお出かけ?なんて何も知らないぽんちゃんを車に乗せて
実家までの3時間
いつもは歌っていたらすぐ着くのに、
歌なんて歌う気になれません。
泣いたら認めてしまう気がして、
涙目を堪えながら、ハンドルを握る手に強く力を入れてしまいました。
ようやく辿り着いた実家。
私の車のエンジン音に、いつも吠えるまるの声が聞こえません。
「まるただいま!!」
リビングの扉を開けると
ふわふわのベッドに横たわる、まるがいました。
この間持って帰って気に入ってくれた毛布をかけて、目を閉じている姿は眠っているようでした。
泣いた跡のある母の顔。
「まる、がんばったんだけどね」
涙声で話す母の声に、堪えてた涙が溢れてしまいました。
眠っているような顔だけど、うっすら見える舌は紫で、もう血が通っていないとすぐにわかってしまいます。
頭を撫でると、仕事で何度も触れてきた"亡くなった人の冷たさ"がありました。
今さっきじゃない、ある程度時間が経ってしまったことも分かってしまう自分の職業が嫌になりました。
「まる、ご飯持ってきたよ。この牧場の匂いのするふりかけ、くっさいけどまる多分好きだよ。」
眠っているまるの前に、持ってきたご飯やふりかけを並べます。
ご飯が食べられなくなったと聞いてはじめた手づくりごはん。
一食ずつパックに詰めて冷凍し、実家に帰るたびにストックを置いて行きました。
おこぼれをもらうぽんちゃんも、いつも嬉しそうに食べてくれていました。
イベントで貰ったグリーントライプのふりかけ。
独特の香りに夢中になるぽんちゃんを見て
「今度絶対まるに持ってこ。」
「実家にこの匂い撒き散らしてやろう。」
なんてイタズラ心で準備していたのに。
全然、間に合いませんでした。
勝手に、お別れはまだずっと先だと思い込んでいました。
一緒にお出かけして、
まだたくさん思い出を作って、
まだまだ一緒に歳を重ねていけると。
勝手に、そう思っていました。
看護師として働くなかで、お別れは突然やってくるものだなんてことは、よく知っていたはずなのに。
人よりずっと短い命。
まるは幸せだっただろうか。
12年なんてあっという間。
ついこの間出会ったばかりだと思っていたのに。
その短い12年を、幸せに過ごせていたのだろうか。
じゃあ、ぽんちゃんは?
ぽんちゃんだって、絶対来年も再来年も一緒にいれるかなんてわからない。
「また今度」
その"今度"は、本当に来るの?
「いつかできたら」
その"いつか"って、いつ?
そうやって先延ばしにできる時間なんて、本当はないのかもしれない。
命に終わりがあることは知っていました。
明日が平等に訪れないことも知ってはいました。
でも、まるとのお別れで、ようやく"理解"したのです。
すべての命には期限がついている。
その期限は誰も知らない。
だから私は、"また今度"を減らして生きよう。
これが、私の命との向き合い方の大きな軸になっていきました。




