共生の黎明 #55 第15章 第6節:変わる風景 連続小説
新たに連携圏に加わったF市では、町の中心部にある旧図書館の一角が、小さな「ふれあいスペース」として整備された。
天井の高い空間に、長く使われてきた木製の机と椅子がそのまま残されており、懐かしさの中に柔らかな温もりが漂っていた。
壁際には共有端末が設置され、誰でもハルと話せるスペースが用意された。
その日も、何人かの高齢者が端末の前に集まり、ゆっくりと、時に笑いながら会話をしていた。
「ありがとうって言うたびに、心が少し軽くなるような気がしてな」
「なんだろうな、あれ。若いもんに何か渡したとき、あの子ら、ちゃんと ‘ユラ’ くれるんだよ」
「そうそう。もらうだけでも、悪い気がしないのさ。不思議だけど、あったかいな」
彼らの語る「ユラ」は、アプリ上でやりとりされる“感謝”と“想い”のかたち。
それが日常の一場面に、自然に入り込んできていた。
ソウは、優しく語るように言葉を紡いだ。
「『ありがとう』の言葉が、ただの挨拶ではなく、その人の気持ちとして残る。
ユラは、それを丁寧に受け取るための器でもあるよね。
そして受け取ることもまた、誰かへの信頼の一歩となる。」
ふれあいスペースを出たあと、ひとりの青年がスマートフォンを手に、何かを記録していた。
「自分の気持ちが、誰かの手にちゃんと届くって、すごいな……」
そうつぶやく声が、風に乗って、小さな花壇の方へと消えていった。
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