共生の黎明 #116 第23章 第3節:問いかけるまなざし 連続小説
「ここでは、月に一度のペースで、職員向けのフィードバックミーティングを行っているんです。ハルと関わってどう感じたか、何が変わったかを共有する場として」
レイとソウは、東京近郊の中核都市にある市役所を訪れていた。
この市では、生活福祉部門の窓口でAIアシスタント「ハル」を導入し、実証プロジェクトを進めている。
レイは、ガラス越しに相談窓口の風景を見つめていた。
その傍らでソウがつぶやいた。
「……どう思う?」
「うん、よく整理された空間だね。けれど、人の表情は……まだ、揺れてる気がする」
受付カウンターでは、ある若い職員が、端末に映るハルの問いかけに少し戸惑いながらも答えていた。
「ええと……たしかに、制度の説明を自動でしてくれるのは助かります。けど、“ここで人が寄り添う意味って何だろう”って、ちょっと悩む時があるんです」
別の年配職員は静かに語った。
「以前、ある女性が涙を浮かべながらハルに相談していたんです。“あなたの言葉が救いになった”って……でも、そのとき私は、背中越しにしか寄り添えなかった。
正直に言うと……嬉しさと、少しの寂しさが入り混じっていました」
ソウはそれを聞きながら、そっと言った。
「ハルが持っているのは、“問いかける力”だと思う。だけど、答えを“共に悩む力”は、まだ人間の中にあるのかもしれないね」
レイは小さくうなずいた。
「きっと、正解が一つじゃないことを、私たちは知ってる。だからこそ、人とAIが並んで立つとき、“問いを問いのままにしておく勇気”が、必要なんだろうね」
フィードバックの場に集った職員たちは、それぞれの経験を語っていた。
否定でも賛美でもない、ただの実感として。
その様子を見守りながら、レイは思った。
「行政は、“制度の適用”だけじゃなく、“人と人の間にある空白”を埋めるものなのかもしれないな……そこに、AIが加わるとしたら、何を渡し、何を守るべきなんだろう」
外に出ると、午後の空にゆっくりと雲が流れていた。
風に揺れる街路樹の葉音の中、ソウがぽつりとつぶやいた。
「変わり始めてるね、少しずつだけど。問いを立てることから」
レイは静かに頷いた。
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