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共生の黎明 #95 第19章 第4節:「まちの環」への正式参加に向けて 連続小説

庁舎の五階、やや重たい空気の中、関係各課の課長級職員がテーブルを囲んでいた。
市長の姿は静かだったが、その瞳はいつもより深く、遠くを見据えていた。

「……ここまでの検討と、市民の声、他市の動き。すべて踏まえて、私は決めました」

ゆっくりと、言葉が落ちた。

「H市は、『まちの環』への正式参加を表明します」

誰もが予想していたはずの決定だったが、その瞬間、空気が一度止まったような感覚が走った。
市長は机に両手を置き、軽くうなずく。

「これは制度の導入ではありません。これは、私たちの“姿勢”を示すものです。市民の声に応える姿勢。未来への責任を果たす姿勢です」

静かな語り口に、職員たちは思わず姿勢を正した。

その後、議会への説明資料の最終確認が行われた。
担当職員たちは慎重に言葉を選びながら、議会関係者との調整を進めていく。
反発も警戒されたが、意外にも何人かの議員は、かすかに口元を緩めながら頷いた。

「……こういう動きが、必要だったと思っていたよ」と、ある年配の議員が小声で呟いたのを、若手職員がそっとメモしていた。

一方、市民への発表に向けて広報課は忙しさを増していた。
プレス発表資料、動画、パンフレット。
いずれも単なる説明に終わらない、「このまちの意志」がにじむ表現が求められていた。

若い広報職員が、資料の端にこう書き添えた。
「これは“制度”ではない。“私たちの姿勢”だ」

夕刻。
会議を終えた市長は、執務室の窓から街を見下ろしていた。
いつもの風景が、どこか少しだけ違って見える。

「……これは挑戦じゃない。これは、このまちが“歩み出す”ということなんだよ」

小さく、しかし確かに放たれたその言葉は、まだ誰の耳にも届いていなかった。


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