共生の黎明 #93 第19章 第2節:描く方向性 連続小説
庁内での検討会議は、毎週小さく続けられていた。
福祉課、市民課、公園緑地課、そして地域連携課。
互いに顔を合わせるたび、以前とはどこか空気が違うことを感じていた。
ある日、会議後の小さな打ち合わせの場に、A市とF市の職員が視察に訪れた。
以前から情報共有の一環として行われていた非公式な交流だったが、今回は少し様子が違った。
「制度を整えた私たちのまちより、ここでは“関係”が先に動き出しているように見える」
F市の男性職員はそう言って会議室を見回した。
「仕組みの完成度ではなく、人々の納得と実感。それを優先しているように感じます」
A市の女性職員も頷いた。
市民課の若手女性職員がぽつりと口を開いた。
「制度を導入するっていうより……このまちが、“どう生きたいか”を考え始めている気がするんです」
その言葉に、空気がやわらかく震えた。
福祉課の男性職員が静かに続けた。
「前は“やるかやらないか”の話だったけれど、今は“どうありたいか”が語られている。たぶん、そこが一番の変化なんじゃないでしょうか」
視察に来ていた他市の職員たちも、思わず目を細めて頷いた。
H市の変化が、形ではなく“まちの気配”として伝わっているようだった。
会議が終わる頃、市長がそっと口を開いた。
「他市の方々から、そんなふうに見えているということ……とても嬉しく、そして身の引き締まる思いです」
少し間を置いて、穏やかな声で続ける。
「このまちは今、小さな声が少しずつ重なって、一つの方向を描こうとしている。……繋がるということを、選び始めているのかもしれませんね」
その言葉に、誰かが静かに頷いた。
一人ひとりの顔に、微かな確信の色が宿っていた。
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