共生の黎明 #99 第20章 第2節:小さな循環、大きな変化 連続小説
「最近、窓口で怒鳴る人、減ったよね」
昼休み、職員食堂で交わされたそんな一言に、彼はふと顔を上げた。
福祉課に配属されて三年目。
目の前の業務に追われる日々の中で、その小さな変化に明確な理由を見出せないまま、けれどどこかでそれを感じていた。
「確かに……。この前も、受付でちょっと書類に戸惑ってたお年寄りに、後ろに並んでた人が自然と声かけてくれてたんです。しかも、そのお礼にってユラを渡してて。なんか、あの光景、じんと来ました」
同僚の言葉に、彼は思わず頷いた。
街の中に、確かに何かが広がっている。
それは見えるものではない。
けれど、感じる。
確かに、あったかさがある。
アヤ/ユラの仕組みが始まってから、制度としての導入はもちろん、市全体が「助け合いは誰かの得になる」という柔らかな前提を受け入れ始めているようだった。
その夜、彼は日報にこう書いた。
「支援を必要とする人と、それに気づいて手を差し伸べる人。その間にある“ためらい”が、ほんの少し軽くなったように思う。
今日一日で、受付で見た微笑みは、少なくとも五回。
そのすべてが、制度の力だけじゃなく、人の気持ちから始まっていた。
アヤやユラは、それをそっと後押ししているようだった。」
日報を読んだ上司は、その一文をそっとコピーし、市長宛の週報資料の端に添えた。
週明け、静かにそれを読み終えた市長は、書類を閉じて、深く頷いた。
「目に見える変化だけじゃない。
心の中に芽生えたものこそが、この街の未来をつくるんだ」
その言葉は誰に語られたものでもなかったが、部屋に漂う空気に、確かな決意が宿っていた。
⬇️続き
