共生の黎明 #125 第25章 第2節:家庭と日常と 連続小説
梅雨の晴れ間に顔を出した朝日が、街を柔らかく照らしていた。
風がゆっくりと抜けていく。
夏を迎える少し前のある土曜日、A市の住宅街。
レイたち家族の暮らす小さな家には、今日も穏やかな朝が流れていた。
「ママー、アサガオ咲いてたよ! ほら、見て見て!」
庭先から、ユイの声がはずむ。
9歳になったばかりの少女は、毎朝欠かさず花の様子をチェックしては、アヤ/ユラのアプリに“きろく”をつけていた。
カメラで花を撮り、「今日もきれいに咲いてくれてありがとう」と小さな声でつぶやく。
その音声が、アプリを通して一枚の記録として残る。
自然や命への感謝もまた、彼女の中では当たり前のものだった。
ユミはキッチンで朝食の準備をしながら、その様子を見守っていた。
ふとスマホに通知が届く。
ユイから届いたユラだった。
「ママがつくるたまごやき、だいすき。ありがとう♡」
昨日の夜、台所で一緒にお弁当の準備をした時のことだ。
“お手伝い”というほどでもない些細な時間だったが、ユイの中では、ちゃんと心に残っていたのだろう。
ユミは、ほほえみながらユラの記録をそっと保存する。
アヤ/ユラの記録画面には、これまでにもたくさんの家族の「ありがとう」が残っている。
レイが送ってきたメッセージ、ユイの成長の足跡……画面をスクロールするたびに、言葉にしきれない時間がよみがえってくる。
食卓に並んだ朝ごはんを前に、三人は揃って手を合わせる。
「いただきます」
レイが箸を取りながら、何気なくユイに問いかける。
「学校の夏祭り、準備どう? 楽しみ?」
「うんっ! 今日、ポスター作るの。みんなで“ありがとうの木”っていうの、描くんだよ」
「ありがとうの木?」ユミが優しく聞き返す。
「うん。いろんな人からもらった“ありがとう”の言葉を、葉っぱに書いて、木にいっぱい貼るの!
わたしね、たくさんの葉っぱ作りたいから、クラスのみんなにも“ありがとう”いっぱい見つけようねって言ったの」
レイとユミは目を合わせ、微笑んだ。
家の中でも、外でも、“ありがとう”は空気のように流れていた。
ただの言葉ではなく、日々の中で、心から生まれ、受けとめられるものとして。
家族の会話の端々には、それがしっかりと息づいていた。
ふと、レイは窓の外に視線をやる。
朝日を受けてきらめく街の風景。
A市の、かつてとは少し違う、でも確かに“やさしくなった”日常がそこにあった。
静かに、静かに、変化は進んでいた。
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