共生の黎明 #111 第22章 第4節:静かに寄り添う声 連続小説
その日、レイとソウは都内のある区役所に来ていた。
生活支援課の一角に設けられた相談窓口。
そこに、少し変わった“職員”がいる、とまちの環関係者から連絡があり、訪問したのだ。
「お入りください。お困りのことを、よければお話しくださいね」
淡く青みがかった光をまとう対話端末。
画面の中で穏やかに話しかけるのは、AIアシスタント「ハル」だった。
この自治体では、生活支援の実証実験として、数ヶ月前から相談窓口にハルを導入していた。
正式な制度ではないが、職員の負担軽減と相談者への心理的支援を兼ねて、静かに運用が始まっていた。
窓口の隅では、中年の男性が椅子に座り、ハルと対話をしていた。
「……収入が不安定で、家賃ももうすぐ滞納になりそうで……でも、家を失ったら娘を育てられない」
男性の声は低く、震えていた。
だが、ハルはすぐに解決策を提示することはしなかった。
代わりに、こう言った。
「あなたが、これまで必死にがんばってきたこと、私にも伝わってきます。支援制度について、一緒に整理していきましょう。ひとりではありません」
その静かな言葉に、男性の目が潤んだように見えた。
職員が隣に座り、ハルの提示する内容を確認しながら、具体的な対応に移っていく。
レイはそっとソウに耳打ちした。
「……すごいね。技術って、本当に“心に触れる”ところまで来てるんだ」
ソウは言った。
「そうだね。制度や金額の話だけじゃなくて、“誰かが理解しようとしてくれている”と感じられること。それが今、一番必要なのかもしれない」
ふたりが窓口を後にしようとしたとき、支援課の職員が声をかけてきた。
「今はあくまで試験的な導入ですが、来年度には正式採用の可能性も出てきました。現場からの声は、予想以上に前向きです」
窓口の外では、相談を終えた男性が娘と手をつないで歩き出していた。
ぎこちない笑顔ながらも、どこか安心したような表情だった。
「静かに、でも確かに。“ありがとう”の循環は、行政の現場にも生まれ始めてる」
レイのその言葉に、ソウは穏やかにうなずいた。
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