見つめる
じっと見つめる。
なにかがあるわけではない。
ただ、宙を、物質をじっと見つめる。
面白いか?
と尋ねられたら、面白くはない、と答える。
わたしが吸い込む酸素と、吐き出した二酸化炭素が混じりあっているだけ。
でも、たのしい。楽しくて、宙を舞う気持ちだ。そして物というものが身に纏う。
さて、アイスコーヒーの氷が溶けていくさまを
見つめたいのに、いつ溶けているのかわからない。しかし、氷は着実に溶けている。
コーヒーと氷の溶けた水の層が分離して留まっている。
かき回すのも手だが、どうもしっくりこない。
味もよくない。
わたしはえいやっとすべて飲み干した。
今度はねこをじっと見つめる。
気持ちよさそうに寝ているが、本当は眠ってなんかいないとわかる。
なぜなら、わたしが身動きをとると薄目を開けるからだ。
彼らは神経質だ。耳の先からヒゲの先まで、あらゆる変化を許さない。
そうして両眼をつぶり、気配をはかる。
次は醤油の瓶を見つめる。
減塩と謳われている有名な醤油だ。
裏に書いてある原材料を読んでいくと、さまざまなものが混入してある。
なんだ大豆だけじゃないのか。
今度スーパーに行ったら、できるだけ使われている材料が少ない醤油を買おう。
体はなにを食べるかで出来上がっていく。または損傷する。責任が問われる。
そして最後に己の手の甲を見つめる。
すこし焼けたかな。内腿の色と比べると、やや茶色い。
関節にシワがより、浮き出た血管が手の甲いっぱいに広がっている。
触ると血管が右に左にと逃げる。血管の感触に恐怖を覚える。生と死の狭間にあるように思えるからだ。それは呆気なく果てる。それを知ってから、わたしは自分を大切に思うようになった。
なにもかも、良くできているようで、儚くもあるようで。
これらを忘れないで生きていこう。そうすれば、すこしはしあわせと感じるだろう。
黒いテレビ画面に映る己の顔を見つめる。
ぼんやりとした眼差しの中途半端な人間がそこにあった。
