高校生の研究者
「対面でお時間をいただけませんでしょうか?」
高校生のAさんから届いたメールは、それだけだった。
いつもなら時候の挨拶から始めるほど、礼儀正しい生徒さんだ。
意地悪なことでも言われたのか。
私は慌てて返信し、一時間後、学会会場で会うことになった。
その学会は、今年初めて高校生を大々的に招いた。
参加費は保護者も含めて無料。高校生専用のポスター発表もある。
学会というのは、教授から大学院生まで、プロ研究者が煮詰まった場所である。そこに制服姿の高校生が二百五十人も混じると、空気は驚くほど変わった。ベテラン研究者が穏やかな表情で高校生の発表を聞く。
高校生たちは慣れない発表と答弁に懸命だ。若さと透明感のある声が会場を走り、こちらまでエネルギーを貰える。
Aさんも、その一人だった。
自分の視点でデータを再解析したいと私に連絡をくれた。
高校生を手伝っても、論文にはならない。
業績も増えない。
時間だけは、きっちり取られる。
面倒だな。
そう思いながらも、私は付き合うことにした。
「次世代育成」という大義の前に、断れるはずがない。
義務感だけがモチベーションだった。
崇高さの欠片もないが、それでも数か月、Aさんの発表準備をサポートしてきた。だから、あの短いメールが学会の最中に来た時は、悪い知らせと思った。
待ち合わせ場所へ急ぎながら、泣きべそ顔のAさんを想像した。
だが、そこに立っていた彼女は、いつも通りだった。
「突然、どうしたの?」
「私のポスターが高校生部門で一位になりました。それを直接伝えたかったのです」
なんだ、そんなことか。こっちは忙しいんだよ。
一瞬、そう思った。
けれど、Aさんの弾けるような笑顔を見ながら、瞳が輝くとはこういうことかと、表現しがたい感動が湧いてきた。
自分が面倒をみた生徒が一位になったことは、どうでもよかった。
Aさんが自分の喜びをわざわざ私に伝えに来た。
そのピュアな思いと行動が、単純に嬉しかった。
未来を育てるなどという大仕事は、もっと崇高なものだと思っていた。
実際は、面倒な時間を少し引き受け、稀にではあるが、あんな笑顔に不意打ちされることらしい。
高校生の研究者。
良い試みだ。
来年もやろう。
注記:個人の特定を避けるため、人物の属性など一部を改変しています。出来事の骨格と発言の趣旨は、実際の経験に基づいています。サムネイルは生成AIによるイメージです。
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