カンジダの季節
梅雨ごろから秋口にかけて、カンジダの季節である。
気温と湿気の上昇と共に、おまたが痒いマダムが五月雨式に増え、紫陽花と同程度には季節の風物詩である。痒い人が外来に溢れてくると、夏は真っ盛りと言っていい。
カンジダになりやすい人というのには皆、共通点がある。デニムのパンツを愛用しているのだ。スラリとしたおみ足をピッチピチのスキニーデニムで包み、なんなら股上がいくらか食い込んでいる。やめんか。
外来は、診察室に患者が入ったところから勝負である。頭の先からつま先までじっくりと全てを観察する。服装はいわば「自己主張」なので、初対面である程度の人柄を見破るための良いアイテムだ。真面目な銀行員がヘソ出し短パンで入ってくることはまずないし、風俗嬢がお堅いネイビーのスーツでやってくることだって、万に一つもない。
で、カンジダになりやすい人は、くどいようだがデニムでやってくる。ブカブカのオーバーオールならまだ股上が食い込んでいないのでいくらかマシだが、キツく股を割っているような、着用時に少々根性が必要なタイプのデニムマダムは、夏、大抵痒くて発狂しそうになっている。
デニムは汚れに強く、蚊やダニなどの害虫からも身を守る仕様であるため、夏の時期も愛用しているマダムは多い。そして彼女たちは大抵の場合、働き者だ。炎天下の草取りも辞さず、夏休みの子らを率先して川縁で遊ばせちゃうような、そんないじらしい大和撫子なのだ。
だが、そんな彼女たちのお股はカンジダに狙われている。
ジャパン、暑くて湿気ている。かつてインドネシア人に「センセイ、ココはインドネシアヨリアツイヨ」と言わしめたくらい暑い。そしてイギリス人が「モッテキタ皮のジャケット、ゼンブカビタヨ」と嘆くくらいは湿気ているので、カンジダも健やかに成長しやすい。デニムはやめておいた方が無難だ。
せっかくなので、腟洗浄し、カンジダ用の腟坐剤を入れて差し上げながら生活指導もする。マキシスカートがいいですよ。できるだけ涼しい格好をお勧めする。なんなら裸に近い格好が推奨だ。ちなみに洋服販売などの副業はしていない。
亜熱帯になりつつあるせいか、ジャパンの蒸し暑さを何度も乗り越えてきたはずの老マダムもカンジダになる。彼女たちくらい手練れになると、ウエストはゴムで、木綿素材の股引きスタイルもしくはミモレ丈のスカートで現れることが多いが、それでもカンジダになっている。涼しい格好のはずだが、それでもカンジダ性外陰腟炎を発症する場合、次のことをチェックせねばならない。
糖尿病薬の服用歴だ。
老マダムくらいの年齢層だと、二人に一人くらいは糖尿病で何かしらの薬を飲んでいる。全く飲んでいない人の方が珍しいので、持参されてきたお薬手帳を目を皿のようにして探す。SGLT2阻害薬である。商品名、スーグラ、フォシーガという薬は、尿に糖分を積極的に排泄する性質を持つ。これがなんとも曲者なのだ。
最近、 血管の保護作用もあるとの研究結果が世に出てしまい、糖尿病でなくても目端の利く内科医が積極的に処方している。婦人科医には注意が必要だ。
なぜなら、おしっこに糖分が大量に排泄される結果、カンジダが取り憑きやすくなるからだ!添付文書には老眼では絶対に見えない程度の小さいフォントでしか書いていない。太字で、なんなら赤字で記載して欲しいくらいだ。
SGLT2阻害薬はカンジダにならないための生活指導も必要だ。水分を多めに摂取し、排尿の後は必ずオシモを洗い流すくらいの覚悟がないとカンジダになってしまう。知り合いの賢い糖尿病内科専門医は「毎日5リットル水を飲め、と言って処方しています」と言うが、鯨じゃないんだから。やめい。
私が種明かしのように「これが原因ですよ」と指摘すると、老マダムは喜びつつも戸惑う。無理もない、かかりつけの先生から夢のような優れたお薬ですよと言われて、さっきまで真面目に飲んでいたのだから。
別に飲むなとまでは正面切って言わないが、飲むことで痒くて夜も眠れないなら、水5リットルか毎回オシモシャワーである。そう言うと、老マダムは心底情けなさそうな顔をする。「外出先では洗えないし」など不平を言う。そうだろうさ。
ちなみにウォッシュレット(ビデ)には断固反対の姿勢を貫いている。あれはトイレタンクで大腸菌を増やした水を腟内に送り込むシステムのため、肛門に使用するならいざ知らず、あの薬を飲みつつ腟を洗うのは言語道断である。
「かかりつけの先生になんて言ったらいいの」
老女が嘆くので、仕方なく私が忙しい外来の合間をぬってぽちぽちと内科医宛に手紙を書く。カンジダでご本人が困っています、治るまでお薬を変えていただくか、適切な生活指導をお願いします・・・もう二度と使うな!痒がってんだよ!!と言いたいのをグッと堪えて清楚で控えめな手紙をしたためる。私も大人になった。
下手(したて)に出ても意固地に投薬を変更しない、偏屈な内科医もいるため用心が必要だ。老マダムがかかりつけ医と婦人科医の間で板挟みにならぬよう、慎重にお願いする姿勢が要求される。
苦心した手紙の返事に「臓器保護の観点から投薬を継続いたします」などと挑戦状が届くと心の底からガッカリする。せめて痒みが収まるまで中止してやれよ・・・
そんな夏の陣は始まったばかり。毎年3ヶ月、長くて4ヶ月はこの戦いに明け暮れる。しかし、私はプロ。お薬手帳を丁寧に確認し、丁寧に撃退していくのみ。
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