「ITニュース」|訴えた側も同じことをしているのでは——Midjourneyがスタジオに突きつけた"開示要求"
はじめに
2026年7月上旬(7/3〜7/4報道)、TechCrunchなどが、Disney・Universal・Warner Bros.から著作権侵害で訴えられている画像生成AI企業Midjourneyが、原告スタジオ自身の生成AI活用実態(社内研究・学習データ・モデル重みなど)の開示を裁判所に求める申立てを行ったと報じました。フェアユース(公正利用)抗弁を補強するための、いわば"ブーメラン"戦略です。
この記事では、①なぜMidjourneyがスタジオ側の情報開示を求めているのか、②これまでの訴訟の経緯、③今後の生成AI著作権訴訟全体への波及可能性を整理します。
※本件は係争中の訴訟であり、双方の法的主張はいずれも最終判断が下されていません。
この記事での用語

1. 何が起きたのか(結論)
2025年6月、Disney・Universalが共同で、Midjourneyが両社の著作権保護キャラクターを学習データに用い、ユーザーによる侵害画像生成を許容しているとして提訴しました。
2025年9月4〜5日には、Warner Bros.も同様の主張でほぼ同内容の訴訟を別途起こしています。
2026年6月15日、Joel Richlin治安判事は、Midjourneyによる広範な開示要求を、著作権侵害の有無という争点の判断には不要として却下しました。スタジオ側は「消費者向け(consumer-facing)」の生成AIツールに関する情報開示のみ義務付けられ、社内での非公開AI活用については開示不要と判断されました。
これを不服として、Midjourney側弁護団は2026年7月上旬、John Kronstadt地区判事に対しこの命令の見直しを求める申立てを提出し、スタジオの事業計画・研究報告・学習データセット・モデル重みなど、より広範な開示を要求しています。
忙しい方向けに一言でいうと、
「訴えた側も同じことをしているのでは」——Midjourneyがフェアユース抗弁を補強するため、原告スタジオ自身の生成AI活用実態の開示を裁判所に求めています。
2. Midjourneyが開示を求める狙い
Midjourneyの狙いは、フェアユース抗弁と「unclean hands」の抗弁を補強することにあります。原告スタジオ自身が著作権保護されたコンテンツで自社のAIモデルを学習させているのであれば、その事実自体がMidjourneyへの侵害追及の説得力を弱める、という法的戦略です。
スタジオ側は最大で著作物1件あたり15万ドルの法定損害賠償を求めており、仮に大量の侵害画像が認定されれば、企業の存続に関わる規模の賠償額になり得ると報じられています。この賠償規模の大きさが、Midjourney側の防御をより踏み込んだものにしている可能性があると見られています。
3. これまでの訴訟の経緯
訴訟は2025年6月のDisney・Universalによる共同提訴に始まり、同年9月にWarner Bros.がほぼ同内容の訴訟を別途起こす形で拡大してきました。2026年6月15日には、Richlin治安判事がMidjourneyの開示要求を一部却下し、スタジオ側の開示義務を「消費者向け」ツールの範囲に限定する判断を下しています。
Midjourneyは、この治安判事命令が争点の判断に必要な情報を過度に狭めているとして、地区判事による見直しを求めた形です。治安判事命令の見直しは通常ハードルが高く、認められるかどうかは不透明です。
4. 短期・中期・長期の整理
時間軸定義:
短期: 0〜3か月
中期: 3か月〜1年
長期: 1年以上
4-1. 短期(0〜3か月)
予想される動き: Kronstadt判事が開示範囲見直しの申立てを認めるか却下するかの判断が下される可能性があります。認められればスタジオ側の社内AI活用実態(研究データ・モデル重みなど)の一部が開示され、業界内外の注目を集める可能性があります。
不確実性: 治安判事命令の見直しは通常高いハードルがあり、却下される可能性も十分にあります。開示が認められても非公開(保護命令下)の扱いになる可能性が高く、一般に公表される保証はありません。
効果が出ない条件: 見直し申立てが却下された場合、Midjourney側の情報収集は「消費者向け」ツールの範囲にとどまり、フェアユース抗弁の補強材料は限定的なままとなります。
4-2. 中期(3か月〜1年)
予想される動き: 本件の帰趨次第で、他の生成AI訴訟(Stability AI、OpenAIなどが被告となっている著作権訴訟群)でも、同種の「原告側AI利用開示請求」戦略が広がる可能性があります。大手コンテンツ企業が自社の生成AI活用について、社内ガバナンスや記録の厳格化を進める可能性もあります。
不確実性: 米国著作権法における生成AI学習のフェアユース該当性は、複数の係争中訴訟で判断が分かれており、本件単独で業界の方向性が確定するわけではありません。
効果が出ない条件: 各訴訟が個別の事実関係に基づいて判断され、判例間の統一的な解釈が形成されない場合、この戦略が他の訴訟に波及する効果は限定的にとどまります。
4-3. 長期(1年以上)
予想される動き: 生成AIの学習データ利用に関する判例が蓄積されることで、AI企業・コンテンツ企業双方に適用される統一的なルール(学習データの透明性義務、ライセンス市場の形成など)が形成される可能性があります。
不確実性: 立法(米国著作権局のガイダンス、AI関連法案)の動向次第で、司法判断の重要性が相対的に低下する可能性もあります。
効果が出ない条件: 立法・行政のガイダンスが訴訟の進行より大幅に遅れ、かつ各巡回区の判例が矛盾したまま並立する場合、統一的なルール形成には至らない可能性があります。
5. 混同しやすい点

まとめ
生成AIの学習データを巡る著作権訴訟は、「AI企業対権利者」という単純な対立構図では捉えきれない局面に入っています。大手コンテンツ企業自身が生成AIの利用者でもあるという構図が今回の開示要求で前面化しており、他の生成AI訴訟にも同様の戦略が波及するかが今後の焦点になります。自社の生成AI活用(学習データの調達含む)が将来的に開示請求の対象になりうるリスクを認識し、社内のAI利用ガバナンスや記録管理を整備しておくことが、コンテンツ企業側にも求められそうです。
主な参照
TechCrunch: Midjourney wants Hollywood studios to reveal the details of their AI usage (2026-07-04)
Variety: Midjourney Seeks to Reveal Studios' Use of AI in High-Stakes Copyright Battle
Engadget: Midjourney wants the Hollywood studios that sued it to show the court how they use AI
ComingSoon.net: Disney, Warner Bros. & Universal Could Be Forced to Reveal Their AI Use
免責
本記事は公開されている報道をもとに構成した情報整理であり、法的助言を目的としたものではありません。本件は係争中の訴訟であり、双方の法的主張はいずれも最終判断が下されていません。記事中の「〜と主張」「〜との申立て」という表現は、確定した事実ではなく当事者の主張であることを示しています。
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