「ITニュース」|ChatGPTを初めて逆転した国で何が起きているか——韓国大手がアジア最大規模のClaude Code投資を決めた理由
はじめに
2026年6月17日、Anthropic(アンソロピック)が韓国・ソウルに APAC(アジア太平洋)3か所目となるオフィスを開設しました。同日、NAVER(ネイバー)・Samsung SDS(サムスン SDS)・LG CNS・Nexon(ネクソン)・Hanwha Solutions(ハンファ ソリューションズ)・Channel Corp(チャンネルコープ)との大型エンタープライズ契約が発表され、韓国が「アジア最大規模の Claude Code(クロードコード)採用国」として注目されています。
この記事では、(1) なぜ輸出規制下でも韓国の大企業が Claude Code への投資を止めないのか、(2) NAVER・Samsung・LG がそれぞれ何を目的に採用しているのか——という2点を整理します。
※ 本記事は2026年6月22日時点の公開情報に基づきます。輸出規制の状況は変動する場合があります。
この記事での用語

1. 何が起きたのか(結論)
2026年4月に韓国の有料生成 AI 市場で Claude が ChatGPT を初めて逆転した(KED Global 報道)
2026年6月17日、Anthropic が Seoul office を正式開設。NAVER・Samsung SDS・LG CNS・Nexon・Hanwha Solutions・Channel Corp との複数のエンタープライズ契約を同日発表
NAVER は「アジア単体で最大規模の Claude Code 採用」とされ、数千人規模のエンジニアが対象
韓国の Claude の週次 MAU は過去4か月で6倍成長(Anthropic 公式)
同時期に Fable 5・Mythos 5 が輸出規制で停止中だが、Claude Code(Opus 4.8 ベース)への投資は継続
韓国政府(MSIT)は Anthropic との MOU を締結し、AI 安全・サイバーセキュリティ分野での協力を合意
KiYoung Choi(元 Snowflake Korea GM・Microsoft Korea COO)が Representative Director(代表取締役)に就任(2026-05-26)
忙しい方向けに一言でいうと、
「輸出規制で最先端モデルが使えない状況でも、韓国の大企業は Claude Code への投資を増やしている——その理由は Opus 4.8 ベースのコーディング性能が実務基準を十分に満たしており、ban 解除時の即時スケールアップを想定した先行投資と見られるため」——NAVER・Samsung SDS ら韓国大手がアジア最大規模の Claude Code 採用を決定
2. なぜ韓国で、なぜ今なのか
2-1. 4か月で市場シェアが逆転した背景
2026年4月、韓国の有料生成 AI 市場で Claude のシェアが ChatGPT を初めて上回りました(KED Global 調査)。韓国の Claude 利用率は人口比の期待値の3.5倍以上とされており、これは単なる流行ではなく、エンジニアリング用途での実用性評価が背景にあると公開情報から読み取れます。
Claude Code のコーディング支援能力が、韓国のソフトウェア企業や IT 部門で実用水準に達しているという判断が先行した形です。
2-2. Anthropic の IPO 戦略との重なり
Anthropic は2026年6月1日に S-1(IPO 申請書類)の機密提出を行い、最短で2026年10月の IPO が想定されています。NAVER・Samsung SDS という高い認知度を持つアジア大手企業との採用事例は、IPO 前に投資家へ示すリファレンスとして大きな価値を持ちます。
Seoul office の物理的開設は「地政学リスク下での現地対応能力を持つ企業」という印象を投資家に与える効果もあります。
2-3. 韓国政府との連携
MSIT(科学技術情報通信部)との MOU 締結、および韓国 AI Safety Institute(AI 安全性研究院)との安全評価協力が同日に発表されました。韓国政府は外資 AI の活用と国産 AI(国内投資 3900 億ウォン相当)の育成を「両立」させる方針を維持しており、Anthropic はその枠組みの中に入った形です。
3. NAVER・Samsung SDS・LG CNS——採用企業の実態
3-1. NAVER
NAVER は自社で HyperCLOVA X(韓国語特化の大規模言語モデル)を保有していますが、Claude Code を採用しています。公式な理由の説明はありませんが、用途の分担として、HyperCLOVA X は韓国語検索・チャットに特化しており、Claude Code はエンジニアリング支援という別の役割を担う可能性が高いと考えられます。
採用規模は Anthropic 公式が「数千人のエンジニア(thousands of engineers)」と表現しており、具体的な人数は公開されていません。
3-2. Samsung SDS と Samsung Electronics の違い
「Samsung が Claude Code を採用した」という報道は正確には Samsung SDS(IT サービス部門)が主体です。Samsung Electronics(家電・半導体部門)は同時期に OpenAI の ChatGPT Enterprise および Codex の全社展開を別途発表しており(OpenAI 公式)、マルチベンダー戦略をとっています。
Samsung グループとしては、Claude Code と GPT 系の両方を使い分ける構成になっています。
3-3. LG CNS・Nexon・Hanwha Solutions・Channel Corp
LG CNS は LG グループの IT サービスアームです。Nexon はゲーム大手でコーディング業務での活用が想定されます。Hanwha Solutions は素材・化学系エンジニアリング、Channel Corp はカスタマーサポート SaaS 企業です。
いずれも Claude Code の「コーディング精度」を評価したと見られますが、各社の具体的な活用範囲は2026年6月時点で公開情報として確認できていません。
4. 輸出規制下でも投資が続く理由
2026年6月12日、米商務省が Fable 5・Mythos 5 に対して輸出規制指令を発令し、Anthropic は全世界でのアクセスを停止しました(6/13)。
ただし、この規制の対象は Fable 5・Mythos 5 のみ です。Claude Code が基盤とする Opus 4.8 は引き続き利用可能であり、韓国企業への実質的な影響は「最先端モデルが使えない」という制約にとどまっています。
また、ライセンスを維持したまま ban 解除を待つ構造が形成されており、規制が解除された時点で即座に Fable 5 以降のモデルへスケールアップできる環境を先に整えているという側面もあります。
5. 短期・中期・長期の整理
時間軸定義:
短期: 0〜3か月
中期: 3か月〜1年
長期: 1年以上
5-1. 短期(0〜3か月)
予想される動き: Seoul office の KiYoung Choi 代表取締役のもとで現地エンタープライズ営業が本格化。NAVER・Samsung SDS の事例が業界内で拡散し、後続の採用検討が進む。Claude Code の週次 MAU は引き続き成長する可能性が高い
不確実性: Fable 5 の輸出規制が9月以降も継続した場合、Opus 4.8 ベースの限定的な機能での契約継続に対して、一部企業が不満を示す可能性。GPT-5.6 や Gemini 3.5 Pro が Opus 4.8 に対して明確な性能優位を示した場合、新規顧客の選択が競合に傾く可能性
効果が出にくい条件: 輸出規制が長引き、かつ競合モデルが Claude Code と同等以上のコーディング精度を達成した場合
5-2. 中期(3か月〜1年)
予想される動き: Anthropic の IPO 申請(S-1)が正式提出された場合、韓国顧客の ARR(年間経常収益)貢献が投資家向け資料に反映される。Korea AI Safety Institute との安全評価協力が進み、韓国語対応の精度向上が具体化する。日本・東南アジアの同業他社が韓国大手の採用実績を参考に評価を開始する
不確実性: Anthropic が IPO 後の株主圧力により APAC 展開コストを圧縮するシナリオ。韓国の国産 AI(LG AI Research・SK Telecom 系)が政府案件で優遇されるシナリオ
効果が出ない条件: Anthropic が IPO 準備を優先し、APAC でのオペレーション拡大を意図的に抑制した場合
5-3. 長期(1年以上)
予想される動き: 東京・ソウル・ベンガルール の3拠点体制が APAC における法人 AI インフラとして定着し、OpenAI・Google と並ぶ選択肢として認知される。韓国の大手採用事例がアジア全体の「基準」として機能し、韓国がアジア AI 活用の先進事例国として評価される
不確実性: 韓国の AI Basic Act(2026年1月施行)が強化され、国外モデルへのデータ移転規制が厳格化するリスク。DeepSeek など中国 AI モデルが韓国市場でコスト優位を持って普及した場合のシェア圧迫
効果が出ない条件: 輸出規制が恒久化し、Anthropic の最先端モデルが韓国市場で永続的に利用不可となった場合
6. 混同しやすい点

7. まとめ
韓国の Claude Code 採用は、「最先端モデルが使えない状況」でも Opus 4.8 ベースで十分な実用水準に達しているという判断が根拠です。NAVER・Samsung SDS・LG CNS が先行し、規制解除時に即スケールアップできる体制を先に整えている構図です。
NAVER が HyperCLOVA X を捨てたわけではなく、用途別の使い分けが進んでいる点は重要です。Samsung についても、Samsung SDS と Samsung Electronics を区別して読む必要があります。
韓国の動向は、AI ツール選定において「最先端モデルを常に使う」ではなく「実務精度と継続利用可能性」を重視する指針として参考になります。特に Claude Code のコーディング支援精度を実務基準で評価している企業は、韓国市場の先行事例を参照する価値があります。
主な参照
Anthropic — Seoul office + Korean AI ecosystem partnerships(2026-06-17)
TechTimes — Korea Makes Largest Claude Code Bet in Asia(2026-06-21)
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免責
本記事は公開情報をもとに執筆したものであり、特定企業の株式購入・売却、投資判断を推奨するものではありません。輸出規制の状況・企業の採用詳細は今後変動する可能性があります。AI ツールの導入判断は各組織のセキュリティポリシーおよびベンダーとの契約内容を必ずご確認ください。
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