NEAR Protocol Chain Abstraction 地味だが有能なインフラ屋
現在のWeb3や暗号資産のユーザー体験に、ストレスを感じたことはないでしょうか。
dAppを使いたいだけなのに、まずはメタマスクをインストールして、ETHをガス代として用意する必要がある
SolanaのNFTを買いたいから、別のウォレットを作って、取引所でSOLを買って送金しないといけない
L2チェーンが乱立しすぎて、自分の資産が今どこにあるのか、どのブリッジを使えば安全に移動できるのか分からない
これらはWeb3に触れていると当たり前のイライラ体験です。
現在のブロックチェーンの世界は、国ごとに通貨もパスポートも法律も異なっている状態です。
一般のユーザーが日常的に使うには、あまりにもハードルが高すぎます。
このWeb3の課題である分断と複雑すぎるUXを、バックエンドの技術力で根本から破壊しようとしているプロジェクトがあります。
それがNEAR Protocol(ニア・プロトコル) です。
彼らが現在掲げているコンセプトに
Chain Abstraction
と呼ばれる仕組みがあります。
本記事では、NEAR Protocolの基本から、Chain Abstractionがもたらすパラダイムシフト、それを支える技術力、そしてAI時代において最強のインフラになり得る可能性までを解説します。
NEAR Protocolとは
NEARは2020年にメインネットをローンチしたレイヤー1ブロックチェーンです。SolanaやSuiなどと同様に高速・低コストを売りにしていますが、開発思想の根底にあるのは、徹底的なエンジニアリングファーストと分散システムの最適化です。
それもそのはずで、共同創業者のイリヤ・ポロシュキン(Illia Polosukhin)をはじめ、NEARの初期メンバーにはGoogleやMemSQLの出身者、世界的なプログラミングコンテストのメダリストといった、世界のトップクラスのシステムインフラ・エンジニアが名を連ねています。
彼らのアプローチは、Web3にありがちな理想主義的な分散思想というよりも、GoogleなどのBig Techが大規模システムを組むときのクラウドアプローチに近いです。
Solanaのように1台の超高性能マシンでゴリ押すのではなく、ネットワークを細切れにして(シャーディング)、並列処理で無限にスケールさせるという独自の技術Nightshade(ナイトシェード)を開発し、Web2並みのUXをブロックチェーンで実現しました。
しかし、NEARの本領は単に速いL1チェーンではありません。
彼らの真の狙いは、Web3全体の裏の王になることです。
その鍵を握るのがChain Abstractionです。
Chain Abstractionとは
抽象化というと難しく聞こえるので、身近な例で考えてみましょう。
私たちが普段、スマートフォンでYouTubeを見たり、Amazonで買い物をしたりするとき
これはAWSのサーバーで動いているのか
通信プロトコルはTCP/IPのどのバージョンだろう
とは一切考えません。
ただアプリを開いてボタンを押すだけです。
裏側の複雑な技術は、すべてシステムが隠蔽してくれているからです。
Chain Abstractionとは、まさにこれをブロックチェーンの世界で実現しようという試みです。
ユーザーにどのチェーン(Ethereum、Solana、Bitcoin、Arbitrumなど)を使っているかを一切意識させず、単一のアカウント(NEARアカウント)と1つの画面だけで、すべてのブロックチェーンのアプリケーションをシームレスに操作できるようにする技術思想がChain Abstractionです。
ユーザー体験の変化
Chain Abstractionが実現すると、ユーザーはシードフレーズの管理やチェーンの切り替えといった作業から解放されます。
ユーザーは、おなじみのGoogleログインやLINEログイン、あるいは生体認証(Passkey)を使って、裏側でNEARのアカウントを自動生成します。そこから先は、Ethereum上のDeFiで運用しようが、Solana上のゲームを遊ぼうが、Bitcoinを動かそうが、ユーザーからは1つのアプリを触っているようにしか見えません。ブリッジの手続きも、ウォレットの切り替えも不要になります。
各チェーンのガス代
現在のWeb3の最悪なUXの筆頭がガス代です。
Ethereum上のアプリを触るにはETHが必要、SolanaならSOLが必要、PolygonならPOLが必要です。
これを現実世界で例えるなら、アメリカのECサイト(米ドル圏)で買い物をしたいのに、手数料として「日本円」と「ユーロ」を別々に数セント分ずつ財布に入れておかなければ支払いが承認されないという状態です。
NEARのChain Abstractionは、この不条理を解決します。
裏側で動くマルチチェーン・ガスリレイヤーという仕組みにより、ユーザーは手元にある任意のトークン(例えばステーブルコインのUSDCや、NEARトークン、将来的にはクレジットカード決済による法定通貨)で一括して手数料を支払うことができます。
ユーザーが日本円で決済のボタンを押せば、システムが裏側で自動的にそれを米ドルやユーロに両替し、目的のチェーンのガス代を代わりに支払ってくれるのです。
アプリケーションによっては、運営企業がガス代を全額肩代わりすることで、ユーザーからは手数料無料に見せることも可能になります。
NEARのChain Abstractionが利用されている理由
一見すると理想論に見えるChain Abstractionですが、現在Web3のインフラ領域でNEARの存在感は急速に高まっています。なぜNEARのアプローチがこれほど選ばれているのでしょうか
理由は
既存のプレイヤーを敵に回さないエコシステム
にあります。
多くの新興L1(SuiやAptos、あるいはEVM互換チェーンなど)は、Ethereumからユーザーと流動性(お金)を奪い取るという、パイの奪い合いをしています。
そして、開発者に私たちの優れた言語(Moveなど)で1からアプリを書き直してくださいと要求しています。
しかし、NEARのアプローチは異なります。
Ethereumも、Solanaも、Bitcoinも、今あるコミュニティやアプリはそのままでいい。ただ、裏側の面倒な配管や、ユーザーを呼び込むためのUXの部分だけ、NEARのインフラをプラグイン感覚で追加して使ってください
というスタンスなのです。
すでに、世界中で乱立するEthereumのレイヤー2(L2)のデータ保管コストを最大8,000倍削減するNEAR DA(Data Availability)というサービスは、PolygonやOptimism、Arbitrumといった主要なL2開発フレームワークに標準装備されています。
他のチェーンがカルチャーやミームコインでお祭り騒ぎをしている横でNEARは
みんなが一番困っているコストとUXの課題を、うちの分散システムで解決してあげますよ
と、インフラのシェアを獲得しています。
これが、NEARがブロックチェーン界のGoogleと呼ばれる所以です。
Chain Abstractionを可能にするコア技術
フロントエンドの見た目だけを綺麗にする簡易的な抽象化なら、どのプロジェクトでも可能です。
しかしNEARは、これをプロトコル(暗号技術とバックエンドシステム)のレベルで実装しています。
これを支える2つのコア技術を紹介します。
Chain Signatures
これが最もコアの技術です。
NEARのスマートコントラクトが、閾値暗号(MPC:マルチパーティ計算)という高度な暗号数学を用いて
BitcoinやEthereum、Solanaなどの他のブロックチェーンの署名を、直接生成・実行できる
仕組みです。
従来のクロスチェーン取引は、資産を別のチェーンに無理やり移動させるブリッジという非常に危険でハッキングされやすい橋を渡る必要がありました。
しかしチェーン署名があれば、資産を移動させる必要がありません。
NEAR上のアカウントから、BitcoinブロックチェーンにあるBTCを直接動かす命令に署名するといったことが可能になります。
これにより、安全性を極限まで高めつつ、マルチチェーンの一元管理を実現しています。
Stateless Validation
2024年後半のNightshade 2.0アップグレードで導入された、NEARの処理速度を数倍に跳ね上げた技術です。
従来のバリデータは、過去の膨大なデータをローカルのストレージに保存し、それを読み書きしながら検証していました。
しかしステートレス化により、検証に必要なデータ(State Witness)だけをネットワークから受け取り、すべての検証をメモリ(RAM)上だけで処理できるようになりました。
ストレージの読み書きという最大のボトルネックが消滅したため、他チェーンから大量のトランザクション要求が大量に送られてきても、スピードが落ちません。
AI
ここまでChain Abstractionの素晴らしさを語ってきましたが、この技術が真に優れているのは、実は人間が使うためだけではありません。
AI(自律型AIエージェント)が経済活動を始める時代において、NEARが唯一無二の絶対条件になります。
これからの未来、AIエージェントが
SolanaのDeFiで一番利回りが良いプールに資金を投じ、Bitcoinで決済し、EthereumのNFTを買う
といったタスクを人間の代わりに自動実行する世界がやってきます。
そのとき、AIエージェントに
チェーンごとにウォレットを分けて、それぞれのガス代SOL、BTC、ETHを個別に管理して、スマートコントラクトの互換性を考慮するなんて面倒なことをやらせるのは非効率です。
AIにとっても
1つのNEARアカウント、1つのAPI、1種類の手数料支払いで、全チェーンを裏から操れる環境(Chain Abstraction)が圧倒的に合理的なのです。
まとめ
今回は
NEAR Protocol Chain Abstraction 地味だが有能なインフラ屋
という記事を記載しました。
まとめると
様々なプロジェクトでChain Abstractionが利用されている
他のブロックチェーンとの競争ではなく共存を選択している
AI対応が最も進んでいるブロックチェーンである
です。
インターネットの黎明期(1990年代後半)、世間はYahoo!やExciteといった、華やかでコンテンツが盛りだくさんのポータルサイトに熱狂していました。
その中で、Googleはデザインも素っ気ない、白い画面に検索窓が1つあるだけの地味な検索屋でした。
当時はビジネスモデルがない、ただの技術オタクのツールだと冷ややかに見られていた時代がありました。
しかし、インターネット上の情報量が爆発し、ポータルサイトの人力リンク集がパンクした瞬間、裏側の分散システム(MapReduceなど)を黙々と磨き上げていたGoogleが、圧倒的な処理能力で世界を塗り替え、覇権を握りました。
現在のWeb3は、ミームコインの熱狂や華やかなDAppの数字で競い合う、まさにポータルサイト全盛期のようなフェーズです。
しかし、ブロックチェーンが真に社会のインフラとなり、
AIエージェントが何億回もトランザクションを叩く、Web2の数千万人が裏側でチェーンを意識せず使うという、データ量とトラフィックの爆発が起きたとき、既存のチェーンだけでは対応できません。
その時、誰もが使わざるを得ない、最も安くて頑丈なバックエンドとして、NEARが選ばれる可能性が高いです。
技術的に優れた製品がマーケットで勝つわけではありません。
しかし、NEARはイーサリアムやsolanaと真っ向から勝負せずに、裏方に回るという市場のポジション取りでもうまく立ちまわっています。
今後数年でNo1になるブロックチェーンではありませんが、5年後、もしくは10年後に評価されるブロックチェーンになりつつあります。
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