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ブランドのつくりかた — 第一想起から価格戦略まで

はじめに

マーケティングとは?ブランドとはなにか?
ブランドの立ち上げ、そもそもブランドマネジメントとは何か? どうすればよいか? という問いを持ったことはないでしょうか。

特に、安易にブランドを作ったものの全然売れない、と嘆く経営者、広告費を投資して、短期の売上は取れるが継続に課題のあるブランド。ブランドビジネスの現場で、何度も耳にする課題です。
また、広告投資を行い、認知率も一定水準まで到達している。それにもかかわらず、売上が期待ほど伸びないという課題。
この原因の多くは、「認知の量」ではなく「想起の質」にあります。
生活者が何かを必要とした瞬間、真っ先に思い浮かぶブランドになれているか。私は、マーケティングの本質的なゴールはこの一点に集約されると考えています。

その状態である Top of Mind(第一想起) を起点に、これまでの実務経験も踏まえながら、ブランド戦略の全体像を整理していきたいと思います。

感覚的に語られがちなブランドの仕事を、

  • どうつくるのか

  • どう測るのか

  • どう売上につなげるのか

  • 誰が動かすのか

  • どの価格帯で戦うのか

という5つの視点から構造化して考えてみたいと思います。


本記事の構成

本記事は、以下の7つの論点を積み上げながら進めていきます。

1. マーケティングとは何か
私なりのマーケティングの定義を提示します。

2. CEP × Top of Mind
第一想起とは何か。そして、それはどのような仕組みで形成されるのかを整理します。

3. 認知率をどう考えるか
認知の「量」と想起の「質」の違い、そして想起が大きく伸びる瞬間について考察します。

4. 第一想起の測り方
感覚ではなく指標でブランドを動かすための調査設計と評価ロジックを解説します。

5. 想起だけでは足りない理由
Mental Availability(心理的入手可能性)と Physical Availability(物理的入手可能性)の両輪について整理します。

6. ブランドマネージャーとは何か
ブランド全体を動かす人の役割と、求められる能力について考えます。

7. 価格ポジションの設計
上方拡張・下方拡張を含め、ブランドにおける価格戦略の考え方を整理します。


本記事で伝えたいこと

前半では、「ブランドをどう設計し、どう定義するのか」を、
後半では、「そのブランドを誰が動かし、どの価格帯で戦うのか」を考えます。
つまり、この記事はブランド戦略から実行までを一気通貫で整理する構成になっています。
本記事で最も伝えたいのは、「ブランドには再現可能な型がある」ということです。

認知や第一想起は、よく感覚的で曖昧なものとして語られます。しかし実際には定量的に測定することができます。言い換えれば、ブランドづくりは「センスだけに依存する仕事」ではないということです。
適切な設計と測定によって、投資判断も改善も行えるようになります。そして、その瞬間からブランドマネジメントは、再現性を持った経営アクションへと変わります。
もちろん、数字だけではブランドはつくれません。
定量的な分析だけでなく、生活者の感情や課題を捉える定性的な感覚も必要です。ブランドづくりとは、まさに アートとサイエンスの融合 です。
ここから先は、その具体的な設計方法と運用の考え方について、実務に落とし込める形で順を追って考えていきたいと思います。

1. マーケティングとはなにか。


マーケティングを単に「商品やサービスを売るための活動」と定義すると、思考が戦術へと引っ張られていきます。

ブランド広告、SNS運用、店頭販促、キャンペーン施策、運用広告──。

それらは一定の成果を生みますが、全体を一貫する思想(ブランドコア)がなければ、施策効果は断片的となります。
その結果、売上だけでなくブランド資産(エクイティ)も積み上がらず、ROASやCPAは悪化し、顧客離反が増え、広告投資への依存度だけが高まっていきます。
ブランドは成長しているように見えて、実際には「広告を止めると売上も同時に落ちる現状=広告依存型」に陥ります。
こうした状況は、多くの企業で見られる典型的な課題です。

私は、マーケティングを次のように定義しています。

マーケティングとは、消費者の頭の中に想起をつくること。

視点を「売ること」から「消費者の知覚設計」へピボットすると、マーケティングの考え方は大きく変わります。
重要なのは、自社の商品をどう売るかではありません。

消費者の頭の中に、

  • どのような状況で

  • どのようなブランドとして

  • どのような価値とともに

どう記憶されるかを設計することです。
広告も、SNSも、販促も、PRも、あくまでもその知覚を形成するための手段に過ぎません。つまり、マーケティングとは各種施策の集合体ではなく、消費者の記憶と想起を設計する為の一貫した活動そのものなのです。


WHO|誰に届けるのか

最初に定めるべきは、「誰に価値を届けるのか」です。
ここはST(Strategic Target)とPP(Prime Prospect)を分けて考えると整理しやすいです。

ST(Strategic Target)
自社が中長期的にリソースを投下し、戦略的に取りにいく市場や顧客層です。
どの市場で戦うのか、どの顧客の課題を解決するのかを定義します。

PP(Prime Prospect)
STの中でも、特に購買可能性が高く、短期で投資効果を期待出来る中核顧客です。
マーケティング活動の初期成果を生み出す起点となる存在であり、戦略ターゲットのど真ん中に位置します。

ターゲットを評価する際の判断基準は、主に次の4つです。

  • 十分な市場規模が存在するか

  • ニーズ起点で定義されているか

  • 競争優位を築ける領域か

  • 自社が実行可能な領域か


INSIGHT|本音を発見する

ターゲットを定めた後に行うのが、インサイトの発見です。
インサイトとは、消費者自身も明確には言語化できていない本音や欲求のことです。簡単に言うと「指摘されて、はっ!とする」こと。
参入するカテゴリーに対する価値観と、そのブランドを受け入れる心理的背景の両面から掘り下げていきます。
良いインサイトには、次の5つの条件があります。

  • 真実(ファクト)であること

  • まだ十分に言語化されていないこと

  • 感情を動かすこと

  • 葛藤を含んでいること

  • 行動変容につながること

インサイトは、単なる課題発見ではありません。
ブランドが入り込む余白を見つける作業です。


WHAT|何を届けるのか

次に考えるのは、ブランドの提供価値の設計です。
ここでは以下の3つを整理します。

POD(Point of Difference):選ばれる理由

POP(Point of Parity):戦うカテゴリーに求められる最低条件

POF(Point of Failure):自社を選ばない理由

差別化だけを追求しても、最低条件を満たしていなければブランドは選ばれません。逆に最低条件だけでは、競争優位は生まれません。
そのため、消費者インサイト → エンドベネフィット → RTB(Reason to Believe)という流れで価値を設計します。
消費者の本音を価値へ翻訳し、その価値を信じる理由まで一貫して設計することで、はじめて競争優位が生まれます。


HOW|どう届けるのか

提供価値を定義したら、それを市場(生活者※ターゲット)へ届けなければ意味がありません。
ここで重要なのは、各メディアのチャネルを個別最適化しないことです。

Paid:広告によってリーチを拡大する。

Owned:自社メディアやCRMによって関係性を深める。

Earned:口コミ(UGC)、PR、SNSなどを通じて信頼を獲得する。

多くの企業は、この3つを別々の部署が運用していることも多いですが、
しかし本来は、ひとつの知覚を形成するための統合された手段であるべきです。
すべての消費者との接点が同じ価値を伝え、同じ記憶を強化し、同じ想起につながる状態をつくることが重要です。


Brand Building|ブランド資産を蓄積する

マーケティング活動の最終目的は、短期的な売上ではありません。
繰り返しますが、消費者の頭の中にブランドを蓄積し続けることです。

ブランドは、記憶形成 → 想起形成 → 第一想起(Top of Mind)というプロセスで育っていきます。広告も、商品開発も、PRも、販促も、すべてはこのプロセスを前進させるために存在します。


マーケティングのゴール

この一連の流れを貫くのは、施策の派手さではありません。(時にはバズも大切ですが)一貫性の積み重ねです。
戦略ターゲットを定め、消費者インサイトを理解し、価値を設計し、一貫した形で届け続ける。その結果として、消費者が何かを必要とした瞬間、真っ先に思い浮かぶブランドになる。
それこそが、マーケティングが目指すべき状態であり、ブランド戦略の究極的なゴールであると私は考えています。


2. CEP × Top of Mind — 第一想起が生まれる仕組み

当たり前ですが、第一想起(Top of Mind)は、突然生まれるものではありません。
第一想起は消費者の頭の中に蓄積された記憶が、特定の状況で呼び起こされることで生まれます。
ブランドはまず「認知」されなければなりません。しかし、認知されているだけでは売上にはつながりません。
重要なのは、そのブランドが必要になった瞬間に思い出されることです。
この「思い出される仕組み」を説明するのが、CEP(Category Entry Point:カテゴリー・エントリー・ポイント)という考え方です。


CEPとは何か

CEPとは、消費者がカテゴリーを必要とした瞬間に頭の中で発生する「購入のきっかけ」のことです。

人は常にそのブランドのことを考えているわけではありません。何らかの状況や感情が発生したときに初めてそのカテゴリーを思い出し、その後にブランドを想起します。
例えば香水カテゴリーであれば、

  • 朝の身支度をするとき

  • 仕事終わりに気分を切り替えたいとき

  • 休日にリラックスしたいとき

  • 自分へのご褒美を探しているとき

  • 大切な人と会う時、またはギフトを探しているとき

などがCEPになります。


CEPがブランド想起を生み出す

ここに重要な法則があります。
ブランドは、CEPと結びつくことで初めて想起されます。
つまり、CEP → ブランド想起という順番です。

そして、

  • 多くのCEPと結びついているブランドほど

  • 強くCEPと結びついているブランドほど

思い出される確率が高くなります。
結果として、想起集合(Evoked Set)に入りやすくなり、その中で最初に思い浮かぶブランド、すなわち第一想起へと近づいていきます。


第一想起が持つ価値

第一想起には大きく3つの価値があります。

1. 選ばれる確率が高まる

消費者は購入時にすべての同カテゴリーブランドを比較しているわけではありません。
まず思い浮かんだ数ブランドの中から選びます。
第一想起は、その消費者の比較対象の最前列に立てる状態です。


2. 指名買いとロイヤルティが高まる

真っ先に思い出されるブランドは、比較検討の負荷が小さくなります。結果として、

  • 指名買い

  • リピート購入

  • 推奨行動

が発生しやすくなります。


3. ブランド成長を加速させる

第一想起は単なる認知指標ではありません。
ブランドの成長そのものに直結します。
想起される機会が増えれば、

  • 新規顧客が増える

  • 購買頻度が高まる

  • 価格プレミアム化が許容される

という好循環が生まれます。


ブランド成長の構造

ブランド成長をシンプルに表現すると、

浸透率 × 購買頻度 × 購買単価

という式になります。
第一想起は、この3つすべてに影響を与えます。だからこそブランドは、単に認知を広げるのではなく、「どのCEPで思い出されるか」を設計しなければなりません。


第一想起は偶然ではなく設計できる

繰り返しますが、マーケティングの仕事は、広告を出すことでも、SNSを運用することでもありません。
消費者がカテゴリーを必要とした瞬間に、「あ、それならこのブランドだ」と思い出してもらう記憶をつくることです。
CEPを増やし、その結びつきを強化する。その積み重ねによって想起集合への入り口が広がり、やがて第一想起へと到達する。
私は、このプロセスこそがブランドづくりの中核であり、マーケティングの本質だと考えています。


3. 認知率を考える —「量」と「質」、そして想起が一気に伸びる瞬間

ここで一度、認知ということをもう少し深く考えてみます。
なぜなら、「知られていること」と「選ばれること」の間には、いくつもの大きな壁が存在するからです。
大前提、多くの企業は認知向上を目標にします。
しかし、認知があることと、購買の瞬間に思い出されることは同じではありません。
生活者の頭の中には、認知の階層があります。

まずは「聞いたことがある」という助成想起
次に、ヒントがなくても自分から思い出せる純粋想起
そして、その頂点にあるのが、真っ先に頭に浮かぶ第一想起(Top of Mind)です。
ブランドの競争は、単なる認知の競争ではありません。限られた記憶の中の限られた席を巡る競争(席取りゲーム)です。

市場には数多くのブランドが存在します。
人間の脳の構造的に、仮に100ブランドを認知していたとしても、実際に購買の瞬間に思い浮かぶブランドは平均して2〜3ブランド程度と言われています。そして、
最初に浮かぶブランドは通常1つだけです。
頭の中の置き場所は限られている。これがエボークトセットです。

牛丼と聞いて思い浮かぶブランドは?
→大体、頭の中でパッと想像出来た数は2~3個くらいかと思います。

この前提に立たなければ、ブランド戦略を見誤ります。では、なぜ認知されているのに第一想起になれないのでしょうか。
その理由は3つの壁で整理出来ます。

記憶の壁(Memory Wall)

そもそも記憶に残っていない状態です。
広告を見ても、商品を見ても、生活者の記憶に定着しなければ想起は起こりません。大量の情報の中に埋もれ、自社ブランドが記憶資産=生活者の価値として認識されず蓄積もされていない状態です。

文脈の壁(Context Wall)

記憶には残っているものの、必要な状況で思い出されない状態です。
例えば香水であれば、「朝の身支度」「気分転換」「ギフト選び」といったCEP(Category Entry Point)と結びついていなければ、購買機会は生まれません。
覚えられていることと、必要な時に思い出される、ということは違います。

入手可能性の壁(Availability Wall)

思い出されても、購入できない状態です。
店頭で見つからない。
検索しても出てこない。
比較検討の場に存在しない。
これらは、ブランドが候補に入る前に脱落してしまう状態です。
これは後ほど触れる Physical Availability(物理的入手可能性)の問題でもあります。
(※ラグジュアリーブランドはここの仕組みを上手く使い、需要と供給のバランスをうまく使います。)

そして、もうひとつ見落とせないデータがあります。

ある調査データでは、知名度が60〜70%前後に到達したあたりから、自発的に思い出す人が急増し、純粋想起率が非連続に伸びるケースが多く見られる、と報告があります。
いわば、想起形成におけるティッピングポイントです。
もちろんカテゴリーによって差はあります。
しかし重要なのは、認知は一定量を超えると質へ転換し始めるということです。
ここでマーケティングの打ち手も変わります。
この水準に到達するまでは、「認知の量」を広げるフェーズです。
一方で一定水準を超えた後は、「どの状況で思い出されるか」を強化するフェーズへ移行します。CEPを拡張し、CEPとの結びつきを強化する段階です。
つまり、ブランド成長の流れを整理すると、次のようになります。

認知獲得 → 想起形成 → CEP占有 → 第一想起 → 習慣的購買 → ブランド成長

認知は出発点に過ぎません。
本当に重要なのは、その認知が想起へ変わり、やがて第一想起へと育っていくことです。認知の「量」を増やし、想起の「質」を高める。
これが、選ばれ続けるブランドへの最短ルートだと考えています。


4. 第一想起は「測れる」 — 指標でブランドを動かす


ここまでの話を、感覚論で終わらせるつもりはありません。
結論から言えば、第一想起は定量的に測れます。
そして、指標化出来るからこそ改善できます。
ブランドづくりは感覚やセンスの世界と思われがちですが、実際には定量的に診断し、投資判断につなげることができます。
目的は明確です。生活者の頭の中で、下記4つを把握し、次の打ち手につなげることです。

  • どれだけ認知されているのか

  • 購入候補として想起されているのか

  • 真っ先に思い出されているのか

  • なぜ購買につながらないのか


調査設計の考え方

調査対象は、その自社が参入するカテゴリーに関与する生活者です。
サンプル数は統計的な安定性を担保できる水準を確保し、四半期または半期ごとの定点観測を基本とします。
※サンプル数は、最低でも200件程度が推奨です。
全体傾向を見るだけであれば200件でも一定の示唆は得られますが、性別・年代・購入経験の有無などで分けて見る場合は、各セグメントで100件以上を確保できるよう、全体では400〜600件程度を目安にします。
ブランドの成熟度や投資規模が大きい場合は、1,000件以上で設計することもあります。
重要なのは、一度設計した調査票を大きく変えないことです。
設問が変わると時系列比較ができなくなり、改善状況が追えなくなります。
また、質問順序にも注意が必要です。
推奨する順番は以下です。

純粋想起 → 第一想起 → 助成想起 → CEP → 配荷・購入経路 → ロイヤルティ → 属性

この順番には意味があります。
先にブランド名を見せてしまうと、純粋想起が測れなくなるからです。
最初に自発的に回答されたブランド群が想起集合(Evoked Set)であり、その中で最初に挙げられたブランドが第一想起(Top of Mind)になります。


想起の階層を測る

生活者の頭の中では、ブランドは次のような階層で存在しています。
ブランドの課題は、このどこかで発生しています。そのため、それぞれを分解して測定します。

認知集合(Awareness Set)

想起集合(Evoked Set)

第一想起(Top of Mind)

購買


助成想起率

ブランド名を見て、「知っている」と回答した人の割合です。
認知集合の大きさを示します。


純粋想起率

ヒントなしでブランド名を挙げた人の割合です。
記憶への定着度を示します。


想起集合率(Evoked Set Rate)

購入を検討するときの候補ブランド群に、自社ブランドが含まれた割合です。
単なる認知ではなく、「比較検討の土俵に乗れているか」を把握する指標です。


第一想起率(Top of Mind)

最初に挙げられたブランドの割合です。
ブランド想起競争における順位を示します。


CEP占有率

特定の状況において、自社ブランドが想起された割合です。
文脈との結びつきの強さを示します。


配荷接触率

店頭やECでブランドを見かけた経験がある人の割合です。
Physical Availabilityを示します。


継続意向率

今後も購入し続けたいと回答した人の割合です。


NPS

推奨者比率から批判者比率を差し引いた指標です。
推奨意向の強さを示します。


診断の考え方

ここからが本質です。重要なのは指標単体ではなく、指標同士の落差を見ることです。ブランドの課題は、数字の絶対値ではなく、どこで漏れているかに現れます。


Memory Wall(記憶の壁)

助成想起率 ≫ 純粋想起率
認知はされているものの、自発的には思い出されていない状態です。
差別化された記憶資産が不足しています。


Consideration Wall(検討の壁)

純粋想起率 ≫ 想起集合率
思い出されてはいるものの、購入候補には入っていない状態です。
ブランドの価値提案や競争優位性が弱い可能性があります。


Top of Mind Wall(第一想起の壁)

想起集合率 ≫ 第一想起率
候補には入っているものの、真っ先には思い出されていません。
CEPとの結びつきや記憶の強度が不足しています。


Context Wall(文脈の壁)

第一想起率 ≫ CEP占有率
ブランド認知はあるものの、特定の状況との結びつきが弱い状態です。


Availability Wall(配荷の壁)

第一想起率・CEP占有率 ≫ 配荷接触率
想起はされているのに、購入機会が不足しています。
流通や検索環境に課題があります。


Experience Wall(体験の壁)

第一想起率 ≫ 継続意向率・NPS

期待はされているものの、体験が期待を超えていません。
製品品質やCRM体験の改善が必要です。


指標聴取から打ち手(戦術)へ

診断の目的は分析ではありません。
投資判断です。
落差の大きい壁から優先的に改善していきます。

  • Memory Wall → Paid投資

  • Consideration Wall → ブランド価値・商品設計

  • Top of Mind Wall → CEP拡張

  • Context Wall → Owned施策

  • Availability Wall → 流通・EC投資

  • Experience Wall → 製品体験・CRM投資

という考え方です。
指標で測れないものにはそもそも改善アクションもできません。
第一想起は感覚ではなく重要KPIとなる指標です。
そしてブランドは、経験や勘だけで動かすものではなく、計器盤を見ながら操縦する経営活動でもあります。
私は、その状態になって初めてブランドマネジメントが再現可能になると考えています。


5. 想起で勝っても、負ける要因 — Mental と Physical の両輪


ここで、ひとつ見落とされがちな論点があります。
それは、第一想起は売上の必要条件であって、十分条件ではない。ということです。
これまで見てきたように、ブランドは認知され、想起され、第一想起へと育っていきます。しかし、消費者の頭の中で自社ブランドが選ばれても、現実世界で買えなければ売上にはなりません。当たり前のことです。ブランド成長には、二つのAvailabilityが必要です。

ひとつは、Mental Availability(心理的入手可能性)
生活者がカテゴリーを必要とした瞬間に、そのブランドを思い出せる状態です。
もうひとつは、Physical Availability(物理的入手可能性)
生活者が買いたいと思ったときに、実際に購入できる状態です。
ブランドは、この両輪によって成長します。頭の中で選ばれること。現実世界で買えること。この掛け算が、売上・指名買い・継続購入を生み出します。


なぜAvailability Wallが起きるのか

Availability Wallとは、「買いたいのに買えない」状態です。
頭の中ではブランドが第一想起されている。それにもかかわらず、下記の理由でで購買機会を失います。

  • 店頭に置いていない&見つけられない

  • EC検索で表示されない

  • 在庫がない

  • 購入条件が悪い

この状態が続くと、生活者は代替ブランドへ流れます。結果として、負の循環が生まれます。

  • 指名買いが減る

  • 購入習慣が定着しない

  • 想起も弱くなる

  • 広告投資効率も悪化する


Physical Availabilityを構成する6つの要素

Physical Availabilityは単なる配荷率ではありません。
私は主に6つの要素で構成されると考えています。

1. 配荷:

生活者がブランドに出会える販売チャネルや接点(タッチポイント)が、適切に設計されているか。
量販店、専門店、百貨店、自社EC、モール、直営店など、ブランドのポジションに応じた販売流通網を構築することが重要です。
マスブランドでは配荷の最大化が成長につながりますが、ラグジュアリーブランドでは希少性を維持するために流通を限定することもあります。
重要なのは、単純な配荷率ではなく、ブランド価値に合った入手可能性を設計することです。

2. 商品棚の存在感:

生活者が商品を発見し、比較検討できる状態になっているか。
実店舗では棚割、フェイス数、陳列位置、視認性などが該当します。(特に消費財)
一方で百貨店やラグジュアリーブランドであれば、直営店舗立地、店舗体験、接客品質、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)が重要になります。
同じ配荷率でも、どのように見せるかによって重要KPIは変化し売上は大きく変わります。

3. ECでの見つけやすさ

検索順位、SEO、カテゴリ表示、レコメンドなど。
デジタル時代における棚取りです。これは実店舗における棚割やフェイス数に相当する概念であり、近年では「デジタルシェルフ(Digital Shelf)」と呼ばれています。

4. 在庫と供給の安定性

生活者が購入を決めたときに、適切な形で商品を入手できる状態が維持されているか。マスブランドでは欠品は大きな機会損失になります。一方でラグジュアリーブランドでは、供給量そのものをコントロールし、希少性を維持することもあります。
重要なのは供給量の最大化ではなく、ブランドのポジションに適した需給バランスを設計することです。

5. 価格と購入条件

生活者がブランド価値と価格のバランスに納得できる状態になっているか。価格(プライスプロモーション)、送料、プロモーション、ポイント還元などはもちろん、ラグジュアリー領域では「値引きをしないこと」自体がブランド価値になる場合もあります。
価格は単なる販売条件ではなく、そのブランドの価値とポジションを伝える重要なシグナルでもあります。

6. 体験の一貫性

どの接点(タッチポイント)でブランドと出会っても、そのブランドらしさが感じられるか。実店舗、EC、SNS、接客、梱包、アフターサービスなど、あらゆる接点がブランド体験を構成します。
チャネルごとに表現方法は異なっても、ブランドが約束する価値は一貫している必要があります。
ブランディングとはブランド運営に関わる全てのことに通じます。
重要なのは「どれだけ多く売るか」ではなく、「ブランドのポジションに対して適切な入手可能性を設計すること」です。
マスブランドはPhysical Availabilityの最大化を目指し、ラグジュアリーブランドは希少性と入手可能性の最適なバランスを目指す。
この違いは理解しておく必要があります。


MentalとPhysicalをつなげる

ここで重要なのは、Mental AvailabilityとPhysical Availabilityは別々の概念でありながら、互いに強く影響し合っているということです。

消費者の頭の中で思い出されることと、現実の世界で購入できること。
ブランド成長は、この両方が揃って初めて実現します。
例えば、広告やPRによって第一想起が高まったとしても、購入したいタイミングで商品が見つからなければ、その需要は競合ブランドへ流れてしまいます。
逆に、流通やEC接点をどれだけ拡大しても、そもそも生活者の頭の中に記憶が存在しなければ、選ばれる確率は高まりません。
だからこそブランド成長は、Mental Availability × Physical Availabilityという掛け算で考えることができます。


ブランド成長を診断する

ブランドは定期的に診断しなければなりません。

  • Memory Wall(記憶の壁)

  • Context Wall(文脈の壁)

  • Availability Wall(入手可能性の壁)

  • Experience Wall(体験の壁)

のどこに課題があるのかを特定し、
調査データと行動データを組み合わせながら改善を続けていく必要があります。ブランドマネジメントとは、定点観測 → 分析 → 課題特定 → 施策実行 → 検証を繰り返す営みです。


6. ブランドマネージャーとは何か — この全体を動かす人


ここまで、下記の流れで、ブランド成長の構造を整理してきました。

  • 誰に届けるのか(WHO)

  • 何を届けるのか(WHAT)

  • どう届けるのか(HOW)

  • どう記憶をつくるのか(CEP)

  • どう測るのか(Top of Mind)

  • どう売上につなげるのか(Mental Availability × Physical Availability)

しかし、どれだけ優れた戦略も、概念は理解しても実行されること難しいものです。
現実の組織には開発(生産管理)、営業、EC運用、広告担当(プロモーション・コミュニケーション)、CRM、広報(PR)、店舗(店長やSV)など、多くの関係者が存在します。それぞれの立場には、それぞれの目標があります。だからこそ必要になるのが、ブランド全体を統合する役割です。

それがブランドマネージャーだと私は考えています。


ブランドマネージャーの定義

ブランドマネージャーという言葉は、実は曖昧です。
企業によって役割が大きく異なります。
海外では、ブランド価値を守り育て、長期的な成長を実現する責任者=経営者に近いという意味合いが強く、日本では、販促や広告、流通を動かす実行責任者として置かれるケースが多くあります。
どちらが正しいという話ではありません。
市場環境や組織構造によって求められる役割が変わるからです。


ブランドマネージャーの4つの型

実務上、ブランドマネージャーは主に4つのタイプに整理できると思っています。

プロダクト型(Product Brand Manager)

ひとつの商品を横断的に担当する、最も一般的なタイプ。
企画、開発、営業、販促を束ねながら、市場ニーズを商品へ翻訳します。
生活者のインサイトを起点に、売れる商品とブランド体験を設計する役割です。


コーポレート型(Corporate Brand Manager)

企業全体のブランド価値を担当するタイプ。
採用、広報、IR、店舗、広告などを横断し、一貫した企業イメージを構築します。商品ではなく、「企業そのもの」をブランドとして育てる役割です。


ポートフォリオ型(Portfolio Brand Manager)

複数ブランドを束ねるタイプ。
投資配分やブランド間の役割整理を行い、全体最適を実現します。
どのブランドを伸ばし、どのブランドを諦めるのかの選択と集中の舵取り役。
経営に近い視点でブランド群をマネジメントします。


グローバル型(Global Brand Manager)

複数の国や地域にまたがるブランドを統括するタイプ。
共通するブランド資産を守りながら、各市場への適応を進めます。
「グローバルでの一貫性」と「ローカルでの最適化」を両立させることが求められます。


現実の現場は型では動かない

ただし、実際の現場ではこれらの型がきれいに分かれているわけではありません。
ブランドは常にプロジェクトによって動きます。まるで生き物です。
新ブランドの立ち上げ。リブランディング。海外展開。大型の商品リニューアル。こうした様々なプロジェクトが発生するたびに、複数の役割が重なり合います。

重要なのは肩書きではありません。ブランド全体を成長させる責任を持つことです。


ブランドマネージャーの本質

ここまで本稿では、下記の流れでブランド成長の構造を整理してきました。

WHO
INSIGHT
WHAT
HOW
CEP
Top of Mind
Mental Availability
Physical Availability
価格ポジション


ブランドマネージャーとは、このすべてを統合する存在です。
開発には開発の論理があります。
営業には営業の考えがありロジックがあります。ECにはECの、各セクション別に考えがありロジックがあります。
しかし生活者は、それらを別々には見ていません。社内のことなんてどうでも良い事です。
生活者から見えるのは、ひとつのブランドだけです。
だからこそブランドマネージャーは、経営の意図を、生活者が受け取れる価値へ翻訳しなければなりません。私は、ブランドマネージャーの本質を、「戦略と現場をつなぐ翻訳者」だと考えています。

数字の合理性と、人の感情。短期成果と、長期のブランド資産。その両方を行き来しながら、一貫した知覚をつくり続けること。それがブランドマネージャーという仕事の本質です。


ブランドマネージャーに必要な二つの視点

ブランドマネージャーには、常に二つの視点が求められます。

経営の視点(ロジカル)

ブランドは事業である以上、成果を出さなければなりません。
売上、利益、市場シェア、ROAS、LTV、投資対効果。
限られた経営資源をどこに投下し、どのように成長させるのか。
数字を読み解き、合理的に意思決定する力が求められます。


消費者の視点(感性)

一方で、ブランドは数字だけでは動きません。
人が商品を選ぶ理由は、必ずしも合理的ではないからです。
消費者のインサイト・ペインは何か。社会や文化の変化。感情。共感。
消費者が何を感じ、何を求め、なぜ行動するのか。人の心を理解する力が求められます。

数字だけを見れば、ブランドは機械的になります。
感性だけを見れば、事業は持続しません。
ブランドマネージャーの仕事は、この二つの世界を行き来することがとても重要と痛感しています。


ブランドマネージャーの本質

私は、ブランドマネージャーの本質をこう考えています。

経営の意図を、生活者が受け取れる価値へ翻訳する存在。

ブランドとは、企業と消費者の接点です。
経営が描く成長戦略も、商品開発が生み出す機能価値も販売チームが求める売上も。そのままでは消費者には伝わりません。それらをひとつの価値として統合し、市場へ届ける。
ブランドマネージャーとは、その翻訳者です。
決まった成功法則はありません。数字の合理性と、人の感情。戦略と実行。短期成果と長期資産。その間に立ち続けながら、消費者の一貫した知覚をつくり続けること。それが、ブランドマネージャーという仕事の本質だと考えています。


7. 価格のポジション ― ブランドはどこで戦うのか


最後に、ブランドが動かせるもう一つの重要な軸について触れたいと思います。
価格戦略についてです。
多くの人は価格を、「高いか安いか」という経済的な問題として捉えます。
しかしブランドにおいて価格は、単なる値付けではありません。消費者にとって価格は、そのブランドを理解するための重要な情報です。そのことを説明する代表的な概念が、ヴェブレン効果(Veblen Effect)です。


ヴェブレン効果とは何か

一般的な経済学では、価格が上がれば需要は下がると考えます。
しかし一部の商品では、逆の現象が起こります。価格が高いほど欲しくなる。価格が高いほど価値があるように感じる。
これをヴェブレン効果と呼びます。
高級時計、高級車、ラグジュアリーブランドなどが代表例です。
生活者は商品そのものだけでなく、

  • 希少性

  • 社会的地位

  • 象徴性

  • 憧れ

にも価値を感じています。
つまり価格は、商品の価値を伝えるシグナルとして機能しているのです。


価格はブランドの知覚をつくる

これは本稿で繰り返し述べてきた「知覚設計」の考え方と同じです。
ブランドは人の頭の中に存在します。そのため価格もまた、「このブランドはどんなブランドなのか」を伝える重要なメッセージになります。

安い価格は、

  • 手軽

  • 親しみやすい

  • コストパフォーマンスが高い

という知覚を生みます。

高い価格は、

  • 品質が高い

  • 特別感がある

  • ステータスがある

という知覚を生みます。
つまり価格とは、利益を決める数字であると同時に、ブランドポジションを決めるシグナルでもあるのです。


価格拡張という考え方

自社ブランドの価格レンジを広げる取り組みを、価格拡張(Price Extension)と呼びます。大きく二つの方向があります。

上方拡張(Upward Extension)

現在より高い価格帯へ進むこと。

下方拡張(Downward Extension)

現在より低い価格帯へ進むこと。

一見すると、「高い商品を出すか、安い商品を出すか」という単純な話に見えます。しかし実際には、難易度もリスクも大きく異なります。


なぜ上方拡張は難しいのか

私は上方拡張には、大きく三つの壁があると考えています。

1. 記憶のアンカー

ブランドは、最初に形成された印象によって強く規定されます。
「若者向け」
「コストパフォーマンスが高い」
「手頃で買いやすい」

こうした記憶は消費者の頭の中にアンカーとして固定されます。
一度固定されたポジションを動かすことは容易ではありません。


2. 知覚品質の壁

多くのカテゴリーでは、高いものほど良いという認識が存在します。
そのため、安さを武器に成長してきたブランドが高価格商品を投入すると、本当にその価格に見合うのか、という疑念が生まれます。


3. 競争アリーナの変化

高価格帯へ移行すると、競争相手も変わります。
そこでは機能差だけではなく、

  • 歴史

  • 象徴性

  • 世界観

  • 美意識

といったブランドエクイティが勝負を決めます。
これまでの成功要因が、そのまま通用するとは限りません。


下方拡張はなぜ起こるのか

一方で、プレミアムブランドが下位価格帯へ進出する事例も数多く存在します。これは簡単だからではありません。既に持っているブランド資産を活用できるからです。
例えば、「憧れのブランドを、手の届く価格で体験できる」という期待は、生活者にとって魅力的な価値になります。

また、

  • 若年層との接点形成

  • 新規顧客獲得

  • 上位ラインへの送客

という役割も担えます。
ただし、やり過ぎればブランド毀損につながります。下方拡張もまた、決して安全な戦略ではありません。


なぜ価格戦略は難しいのか

価格戦略が難しい理由は、市場構造と認知構造の両方にあります。
市場構造で見ると、下記の二極化が進んでいます。

  • 中価格帯の縮小

  • 高価格帯の成長

  • 低価格帯のボリューム維持

背景には、

  • 人口減少

  • 高齢化

  • 所得格差

  • 情報の透明化

  • インフレ環境

などがあります。しかし、私はより本質的な理由は認知構造にあると考えています。


価格はポジションである

何度も繰り返していますが、ブランドは生活者の頭の中に「記憶のアンカー」を打ち込みます。
そのアンカーは、

  • 安いブランド

  • 高級ブランド

  • 革新的なブランド

  • 信頼できるブランド

といったポジションを形成します。価格とは、そのポジションの一部です。だからこそ、安価なブランドとして定着した記憶を、高級ブランドへ移行させることは極めて難しいのです。


まとめ ― ブランドを構造で動かす

ここまで述べてきた内容は、すべて一つの考え方に集約されます。
ブランドとは、偶然選ばれる存在ではなく、消費者から意図的に選ばれる確率を高める仕組みです。
そのために、マーケティングを「知覚の設計」として捉える。
CEP(Category Entry Point)を定義し、消費者がブランドを思い出すきっかけを増やす。
認知の量を広げながら、第一想起の質を高める。
そして、その状態を指標で測定し、どこに課題があるのかを診断し、優先順位をつけて改善していく。
さらに、Mental Availability(思い出されやすさ)とPhysical Availability(買いやすさ)を両輪で高めることで、ブランドは初めて継続的な成長を実現できる。
その全体設計を担うのがブランドマネージャーの役割です。
そして最終的に問われるのは、「どの市場で、どの価格帯で、どのポジションを取りにいくのか」という戦略的な選択です。

すべての活動が目指すゴールはただ一つ。

消費者にニーズが生まれた瞬間、真っ先に思い浮かぶブランドになること。
本稿で最も伝えたかったのも、その一点です。
ブランドは感覚やセンスだけでつくるものではありません。
もちろん創造性や感性は重要です。
しかし、それだけでは再現性のある成長は生まれません。ブランドは、認知・想起・配荷・体験・ロイヤルティといった要素を構造的に設計し、定量で測定し、改善することで育てることができます。なぜなら、測定できないものは改善できないからです。

ブランドを構造として捉え、共通言語と指標で管理できるようになった瞬間、ブランドづくりは属人的な職人技から、再現可能な経営技術へと変わります。

本稿で紹介したフレームワークや指標が、ブランドをより論理的に理解し、より確実に成長させるための一助となれば幸いです。


Valeur.inc|代表 安部 匡史(Masafumi Abe)

ブランド戦略家。マーケティングと経営の実務を軸に、ブランドが選ばれる仕組みと思想を発信しています。
戦略と実行をつなぐ構造をデザインすること——それがValeur.incのアプローチです。

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