心エコーを系統的に読む:全31指標を使いこなす超実践ガイド
こんにちは、心リハ太郎です。
心エコーレポートを開いた瞬間、あまりの情報の多さに目が泳ぐ。
そんな経験ありませんか?
LVDd、LVDs、EF、SVI、LAVI、E/A、E/e’、TRPG、TAPSE、LVMI、RWT、IVC径、弁膜症評価……
知っている指標を見つけるとホッとする。
EF、E/e’を見て、弁膜症をざっと確認して、
TRPGや左房径をなんとなく見て……。
でも、それ以外の指標は、正直あまり深く読めていない。
そもそもどこから読めばいいのか。
EFが保たれているから大丈夫、と思っていいのか。
E/e’が高いと言われても、それをどう臨床につなげればいいのか。
右心系や肺高血圧の指標は、なんとなく大事そうだけど、意味がわからずに実際には読み飛ばしてしまう。
これでいいのかな……
と思いながら、今日も心エコーレポートを閉じる。
この記事はそんな人のために書かれた
「超実践版心エコーレポートの読み方ガイド」です。
✅ 心エコーレポートが呪文か暗号にしか見えない人
✅ 知らない指標がたくさんあって、いつも同じところばかり見ている人
✅ EFやE/e’以外も、もう少し自信を持って読めるようになりたい人
✅ 心エコー結果を、日常臨床の判断につなげたい人
✅ 指標を組み合わせて「この心臓はどんな心臓か」を考えたい人
心エコーが読めない原因は、
①「知識不足」 だけではなく、
②「読む順番」
③「指標同士のつなげ方」
を教わる機会が少ないことにもあります。
私自身、最初から心エコーが読めたわけではありません。
レポートを開いても、EFやE/e’など知っている指標だけを拾い、それ以外は十分に読めていない時期がありました。
指標同士をどうつなげて解釈すればよいかもわかりませんでした。
だからこそ、最初からこのようなガイドがあれば、あれほど悩み、遠回りしなかったと思っています。
このガイドの特徴
✅その1 指標を厳選
心エコーは、見るべき指標が多く、
独学で全体像を整理するのは簡単ではありません。
そこで、数多くある心エコー指標の中から、
「これだけ読めれば、患者さんがどんな心臓かを考える土台になる」
と考えた31の指標を厳選しました。
✅その2 指標をつなげて読む
大事なのは、指標を単独で覚えることではなく、
複数の指標を組み合わせて、心臓の状態を立体的に読むことです。
このガイドでは、単に指標の定義を並べるだけではなく、
① 心エコーレポートをどの順番で読めばよいか
② 重要な31指標の意味・意義・基準値をどう理解するか
③ それぞれの数値を、心臓の構造・機能・負荷・履歴とどう結びつけるか
④ 複数の指標を組み合わせて、患者さんの心臓像をどう考えるか
まで踏み込んで解説しています。
✅その3 初級者から中級者まで
各指標の定義や基本的な見方から解説しているため、
初級者でも通読できます。
初級者には遠回りを減らす地図として、
中級者には何となく見ていた指標を整理し直す教材として使えるはずです。
このガイドの使い方
ただし、一つ知っておいていただきたいことがあります。
この記事は、一度読んだだけで、いきなり心エコーが自在に読めるようになる記事ではありません。
心エコーレポートは、指標の意味を知ったうえで、
実際のレポートを何度も読み、
患者さんの病態と照らし合わせながら考えることで、
少しずつ読めるようになっていくものです。
だからこそ、「読むための教材」ではなく、日々の臨床で開きながら使うためのガイドとして作っています。
今日出会った心エコーレポートを、この順番で読んでみる。
分からない指標が出てきたら、このガイドで確認する。
EFだけでなく、拡張機能、左房、右心系、肺循環、弁膜症、容量負荷、圧負荷まで少しずつ見ていく。
そして、「この患者さんの心臓は、今どういう状態なのか」を考えてみる。
その繰り返しの中で、心エコーを見る目は確実に変わっていくはずです。
心エコーレポートを「なんとなく眺める」段階から、
「順番に読み、意味を考え、臨床につなげる」段階へ進んでください。
どうしてこの価格にしたのか
価格は2,500円に設定しました。
7万字を超える内容量の、
実際の臨床で開きながら使えるガイドです。
読むだけで満足するためのガイドではありません。
心エコーレポートを前に、何度も開き、考え、
少しずつ自分の読み方を作っていくためのガイドです。
「心エコーをちゃんと読めるようになりたい」
「EFだけで終わらず、もう少し深く心臓を見られるようになりたい」
「心リハや日常臨床の判断に、心エコー情報をもっと活かしたい」
という方に、何度も使っていただきたいと思っています。
1回読んで終わりではなく、心エコーレポートを見るたびに戻ってくる
そんなガイドとして使っていただければ、
2,500円はかなりお値打ちだと思います。
そして、このガイドが最終的に目指すのは、
「この心臓はどういう心臓か」
を自分の言葉で説明できるようになることです。
このガイドに沿って心エコーレポートを読み、
日々の臨床で考え続ければ、
心エコーレポートを前にしたときの見え方は
今とはかなり変わっているはずです。
日常臨床でこのガイドを使いながら、
心エコーから心臓を読み解けるようになりましょう。
※このガイドは、今後も内容を追加・更新していく予定です。更新内容に応じて、価格を見直す可能性があります。
Chapter 1 大きさの指標——内腔の広がりを読む
心エコーを読む最初のステップは、「内腔の大きさ」の確認です。
大きさの変化は心臓が受けてきた負荷の履歴を語っています。
「なぜこの部位が大きいのか」
「なぜ正常なのに症状があるのか」
——まず大きさの指標を確認することで、心臓の辿ってきた負荷の履歴を掴めるようになります。
1-1 LVDd(左室拡張末期径)
LVDd(Left Ventricular Diastolic Diameter)は、左心室が最も拡がった時の内腔の大きさの指標です。
専門的に言えば、心臓が最も弛緩した瞬間(拡張末期)の左室内腔の直径です。傍胸骨長軸像でMモードまたは2Dガイドで僧帽弁尖先端レベルを計測するのが標準です。
正常値
私が使ってきたLVDdの基準値は55 mm以上で拡大というものでしたが、ASE/EACVI 2015ガイドラインでは男女別の基準が示されています。

異常値の意味
LVDd拡大(容量負荷のサイン)
左室が大きくなるとき、その多くは「余分な血液が左室に残り続けている」状態——容量負荷です。代表的な原因は以下の通りです。
AR(大動脈弁逆流):収縮期に駆出した血液が逆流して左室に戻る。左室は「余分な仕事」を引き受け続けた結果、拡大する。
拡張型心筋症(DCM):心筋自体の機能が落ちた結果、収縮不全→残余血液増加→腔拡大というサイクル。
左→右短絡(ASD, VSD):肺循環から余分な血液が左心系に流れ込む。
LVDd正常〜縮小
必ずしも「良い心臓」ではないことに注意が必要です。
高度左室肥大(求心性肥大):壁が厚くなった分、内腔が相対的に縮小することがある。EFが「正常」に見えても、実際のSV(一回拍出量)は少ない。
高度脱水・低循環血漿量:preload(前負荷)の低下でLVDdが小さく見える。
臨床的な読み方のコツ
LVDd単体では「大きい・小さい」しかわかりません。重要なのはEF(Chapter 3)との組み合わせです。

💡 Clinical Pearl
「LVDdが正常なのにEFが低い」という組み合わせは非典型的で要注意。急性心筋炎、Takotsubo心筋症(たこつぼ症候群)、または後負荷不整合(afterload mismatch)を疑う。循環器専門医へのコンサルトトリガーとして意識する。
1-2 LVDs(左室収縮末期径)
LVDs(Left Ventricular Systolic Diameter)は、左心室が最も縮んだときの内腔の大きさの指標です。
専門的にいうと、左室が最も収縮した瞬間(収縮末期)の内腔直径です。LVDdと同じ断面・同じレベルで計測します。
正常値
私が使ってきたLVDsの基準値は45mm以上で拡大というものですが、ASE/EACVI 2015ガイドラインでは男女別の基準値が設定されています。

LVDsが教えてくれること
LVDsは単独で大きさを判断することもできますが、LVDdと組み合わせてFS(Fractional Shortening:短縮率)を計算するためにも使います。
FS = (LVDd − LVDs) / LVDd × 100 (%)
正常値は25〜45%。
EFよりも古典的な指標ですが、壁運動が均一な場合は十分な代替指標になります。壁運動異常(局所壁運動低下)がある場合はFSの信頼性が下がるため、Simpson法によるEFが優先されます。
LVDs拡大の臨床的意味
LVDsが拡大している
=収縮後も左室に血液が大量に残っている
=収縮機能が落ちているか、容量負荷が大きいかのどちらかです。
ARの重症度評価では、LVDs > 50 mmが手術適応基準の一つに含まれており(AHAガイドライン)、LVDsが「外科的タイミング」の指標としても使われます。
💡 Clinical Pearl
ARやMRで「EFが保たれている」としても、LVDsが50mm以上に近づいていれば介入のタイミングを検討するサインです。EFだけを見てスルーしないことが重要です。
1-3 LAD(左房径)
LAD(Left Atrial Diameter)は、最も古典的で簡便な左心房の大きさの指標です。
専門的にいうと、傍胸骨長軸像で大動脈後壁から左房後壁までを計測した、左房の前後径です。
正常値
私が使ってきた基準値は42mm以上で左房拡大というものですが、男女別に以下のような基準値が提唱されています。

LADが伝えてくれること
左房は「左室の充満圧をずっと受け止めてきたバッファ(緩衝)」です。
左室が十分に弛緩できず充満圧が上昇し続けると、左房はその圧に抗いながら血液を送り込むために拡大します。
もう少し簡単にいうと、左心室がうまく血液を送り出せないことが続くと、左心房の圧力も上がり、徐々に大きくなっていく、ということです。
つまりLAD拡大は慢性的な左室充満圧上昇→左房圧上昇の形態学的証拠(大きいということは長く負荷がかかってきたということ)です。
主な原因:
慢性的な拡張機能障害(HFpEF、高血圧性心臓病)
慢性MR・MS(左房への圧・容量負荷)
心房細動(AFそのものが左房拡大を促進し、拡大がAFを維持させてしまうという悪循環が起きる)
LADの限界
LADは一方向(前後径)の計測であり、左房の実際の形状を反映しません。左房は上下・左右・前後と三次元的に拡大するため、前後径だけでは過小評価になることがあります。より正確な評価には次のLAVI(左房容積係数)が必要です。
💡 Clinical Pearl
「LAD正常なのにLAVI拡大」というケースが存在します。特に前後径は正常でも左右径・上下径が拡大しているタイプの左房は注意が必要です。LADだけで「左房正常」と結論づけないことが重要です。
1-4 LAVI(左房容積係数)
LAVI(Left Atrial Volume Index)は、左房の三次元的なサイズ(容積)を体表面積で補正した指標です。
簡単にいうと、左房の大きさが、体格に対して大きすぎないかをみています。
四腔像・二腔像の両断面でSimpson法(ディスク積算法)により左房容積を算出し、BSAで割って算出しています。

正常値と重症度分類

LAVIが示すこと:充満圧上昇の「積分値」
LAVIはLADより優れた指標です。理由は明快で、体積は面積より実態に近く、かつBSA(体表面積)によって体格による左房の大きさの差を補正しているからです。
LAVIは「今この瞬間の充満圧」ではなく、「過去にわたる充満圧上昇の蓄積」を反映します。
LAVIが大きければ左心房に長らく負荷がかかってきたということです。
E/e'高値(現在の充満圧上昇)に加えてLAVIが拡大(慢性的な負荷)
→ HFpEFや高度拡張障害を強く示唆E/e'は軽度上昇だがLAVIが高度拡大
→ 過去の充満圧上昇、現在は比較的代償されている可能性E/e'高値だがLAVI正常
→ 比較的短期の充満圧上昇(急性心不全の増悪初期など)
この「急性 vs 慢性」の読み分けは、Chapter 5(充満圧の統合評価)で詳しく扱います。
心房細動(AF)での注意点
AFがあると、左房は弁膜症や充満圧とは独立して拡大します。
(AF自体が左房を傷め、拡大させる)
単純に「LAVIが拡大しているから左室充満圧上昇がある」とは言えません。
AFによる左房への長期の負荷があったことを考慮する必要があります。
💡 Clinical Pearl
ASE 2016の拡張機能グレード分類では、LAVI > 34 mL/m²が4つの判定基準の1つです(AF例では除外)。AFのある患者でLAVIを使う際は、「AF自体による拡大」と「充満圧上昇による拡大」を分離できないことに気をつけましょう。
1-5 RVDd(右室拡張末期径)
RVDd(Right Ventricular Diastolic Diameter)は、四腔像で右室の直径を計測した指標です。
左室と異なり、右室は三日月形をしているため、一箇所の直径だけでは形状を捉えきれません。
標準的には以下の3点を計測します。

基部径については2025年のASE右心ガイドラインで以下の重症度分類が追加されています。
軽度拡大:4.1〜4.4cm
中等度拡大:4.4〜4.9cm
重度拡大:4.9cm超
RV/LV比:最も使いやすい右室拡大の判断基準
四腔像でRV基部径とLV基部径を比較し、RV/LV比 > 1.0(右室が左室より大きい)を右室拡大の目安とする方法もよく使われます。
急性肺塞栓症の評価では特に有用とされます。
RVDd拡大が示すこと
右室は低圧系であり、圧に弱く、容量には強い。
この基本的な性質を押さえておくことが重要です。
💡 Clinical Pearl 右室の圧負荷と容量負荷
圧負荷(pressure overload)は、右室が血液を送り出す際の後負荷(肺動脈圧または右室流出路抵抗)が慢性的に高い状態です。収縮期に圧負荷がかかるため、初期には求心性肥大(壁厚増加)で代償し、進行すると拡張に転じます。
容量負荷(volume overload)は、右室に流入する血液量そのものが慢性的に増加する状態です。拡張期に容量が増えるため、右室は遠心性(eccentric)に拡大し、拡張末期容積(EDV)の増大が主体になります。
圧負荷による右室拡大(圧→肥大→拡大):
肺動脈性肺高血圧(PAH)
慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)
左心性肺高血圧(HFpEF、MSなどによる)
容量負荷による右室拡大:
重症TR(三尖弁逆流)
ASD(心房中隔欠損)
重症PR(肺動脈弁逆流)
急性右室拡大:
大量肺塞栓症:急激な後負荷上昇で右室は急速に拡大。
「D-sign」(左室が右室に圧排されて奇異性中隔運動が起きる所見)との組み合わせが診断的に重要とされます。
右室は「左室の鏡」ではない
右室の評価で犯しやすいミスは、「右室が大きい=右室が悪い」という単純な解釈です。
右室は左心系からの影響を受けます。
左心不全(左室充満圧上昇→肺静脈圧上昇→肺動脈圧上昇→右室後負荷上昇)によって右室が拡大しているケースでは、根本病態は左心にあります。
右室を孤立して評価せず、必ず左心系の評価(EF、E/e'、PASP)と統合して読むことが重要です。
Chapter 1 まとめ

大きさの指標が問いかけること: 「なぜこの大きさなのか?」
心臓の内腔が大きくなったり、小さくなったりしているのには必ず理由があります。
しかしChapter1の指標だけを見ていても、それはわかりません。
答えは、この先の指標を読みながら考えるプロセスから徐々に得られていきます。
圧負荷か容量負荷か。
急性変化か慢性変化か。
左心由来か右心由来か。
これを読み解いていくのが、心エコーの面白いところです。
さあ、心エコーの世界の扉を開け、新しい視界を手にしていきましょう。
Chapter 2 厚さの指標——履歴と壁の質を読む
「大きさ」がこれまでの履歴を物語るように、「厚さ」もまたこれまでの履歴を語ります。
同じ「心肥大(心臓の筋肉が厚くなること)」でも、壁が厚くなった理由が高血圧なのか、肥大型心筋症なのか、容量負荷への代償なのかによって、意味や今後の経過はまったく異なります。
また、厚いということは硬く広がりにくい、ということでもあります。
そのとき心臓の筋肉がどのように変わっているのか。
心臓の壁の「質」を類推できると、心臓内部で起こっている血行動態の理解も進みます。
2-1 IVST(心室中隔厚)
IVST(Interventricular Septal Thickness)は、
拡張末期における心室中隔の厚みです。
傍胸骨長軸像でMモードまたは2Dガイドにより、僧帽弁尖先端レベルで計測します。
正常値
私が使ってきた基準値は12mm以上で肥大、7mm未満で菲薄化というものでした。現在は以下のように男女別の基準値が提案されています。

IVSTが増加するとき
中隔が厚くなる主な原因は以下の3つです。
①圧負荷(最多)
高血圧性心臓病の典型です。
長期にわたる体血圧上昇に対して左室は壁を厚くすることで対抗します
(ラプラスの法則:壁応力 ∝ 圧力 × 半径 / 壁厚。壁を厚くすることで応力を下げる)。
IVSTとPWTH(次項参照)がともに増加し、対称的な肥大(同心性/求心性肥大)を呈します。
②肥大型心筋症(HCM)
IVST ≥ 15 mm かつ他の原因が除外された場合、HCMが強く疑われます。
HCMでは中隔が不均一に肥厚し、特に基部中隔が著明に厚くなる非対称性中隔肥厚(ASH:Asymmetric Septal Hypertrophy)が典型です。
IVST/PWT比 > 1.3〜1.5がASHの目安です。
③アミロイドーシス(浸潤性心筋症)
心アミロイドーシスではIVSTとPWTHがともに高度に増厚し(しばしば15 mm超)、「granular sparkling(顆粒状輝度上昇)」という特徴的なエコー輝度変化を伴います。
EFが保たれているにもかかわらず症状が重いという乖離が典型的で、近年ATTR型心アミロイドーシスへの注目が高まっています。
💡 Clinical Pearl
IVSTが15 mm以上あり、かつEFが保たれているのに心不全症状が強い高齢者では、「心アミロイドーシス」が鑑別に上がります。心電図での低電位(特にV1–V3)との組み合わせがポイントとされます。
2-2 PWTH(後壁厚)
PWTH(Posterior Wall Thickness)は、
拡張末期における左室後壁の厚みです。
IVSTと同じ断面・同じ時相で計測します。
正常値
私が使ってきた基準値はIVSTと同様に12mm以上で肥大、7mm未満で菲薄化というものでしたが、現在は男女別の基準値が推奨されています。

IVSTとほぼ同じ正常値・異常値の基準です。
IVSTとPWTHをセットで読む
IVSTとPWTH、それぞれを単独で見るだけでは不十分です。
2つの指標の関係性が「肥大のパターン」を教えてくれます。

菲薄化も重要
壁が「薄い」ことにも重要な意義があります。
IVST、PWTH < 6~7 mm の局所的菲薄化は、陳旧性心筋梗塞後の瘢痕(transmural infarction)などを示唆します。
また、拡張型心筋症(DCM)の末期でも全周性の壁運動低下を伴う菲薄化が起きます。
高血圧性心不全の急性期では、心拡大があるが菲薄化は起きていない場合もあり、DCMと異なる所見といえます。
菲薄化した壁は壁運動異常(asynergy)を伴うことが多く、壁運動との統合評価が重要です。
💡 Clinical Pearl
IVST、PWTHの局所的菲薄化を見つけたら、「この部位を支配する冠動脈はどこか」を考えてください。後壁・下壁の菲薄化ならRCA(右冠動脈)、前壁・中隔ならLAD(左前下行枝)の陳旧性梗塞が疑われます。心室瘤やポンプ機能への影響も含めて考慮が必要です。
2-3 LVMI(左室心筋重量係数)
LVMI(Left Ventricular Mass Index)は、
「左心室の心筋が体格に対してマッチョになりすぎていないか」
を定量化する指標です。
左室肥大かどうかを判断します。
左室心筋の総重量を体表面積(BSA)で補正して算出しています。
算出式(Devereux式):

LVDd・IVST(心室中隔厚)・PWT(後壁厚)の3計測値が必要です。
正常値
男女で正常値・異常値の基準が違います。
男性は115、 女性は95を超えると左室肥大、と覚えておくとよいでしょう。

なぜLVMIが重要か
LVMIは心臓の「仕事量の積分値」です。
長年にわたる圧負荷(高血圧、AS)や容量負荷(AR、MR)の影響が、壁厚と腔径の両方を通じてLVMIの増加という形で現れます。
簡単に言えば、たくさん頑張ってきた心臓ほどLVMIが高くなる、ということです。
心臓の筋肉が多いのはいいことじゃない?
と考えてしまいそうですが、分厚く筋肉質な心臓は、中が狭く、硬くなってしまいます。
するとうまく血液を溜められず、しっかりと血液が出せない心臓になってしまうのです。
LVMI増大(左室肥大:LVH)は、それ自体が心血管イベントの独立した危険因子です。
💡 Clinical Pearl
LVHがある患者は、同程度の血圧や他のリスク因子を持つ非LVH患者と比べて、心筋梗塞・心不全・不整脈・突然死のリスクが有意に高いことが複数の大規模研究(Framingham研究など)で示されています。
2-4 RWT(相対的壁厚)
RWT(Relative Wall Thickness)は、左室の内腔の大きさに対して壁がどれだけ厚いかという、
「相対的な」壁の厚みを表す指標です。
✅求心性肥大があり、
✅内腔が狭くなっているかどうか
を判断するのに使います。

あるいはシンプルに:

(ASE推奨式)
正常値とカットオフ
正常:RWT ≤ 0.42
増加(求心性肥大):RWT > 0.42
内腔の大きさに対して壁の厚みがあるほどRWTは大きくなります。
RWTが教えてくれること:求心性肥大による影響
求心性に肥大した心臓は、内腔が狭く硬い心臓です。

RWTの高い、求心性肥大した心臓は、血液をあまり溜められず、一度に多くの血液を送り出すのが苦手です。
次節のLVジオメトリー分類では前項のLVMIとRWTを使います。
💡 Clinical Pearl LVジオメトリー分類
RWTは単独でも重要ですが、LVMIと組み合わせて使うことでさらに得られる情報が増えます。RWT単体では「壁が求心性に厚い」かどうかがわかるだけですが、LVMIと組み合わせると「心筋量は正常なのに求心性肥大」か「心筋量も増えている」かが区別できます。
2-5 LVジオメトリー4分類——LVMI × RWTで心臓の「型」を決める
LVMI(心筋重量)と、RWT(壁の相対的厚さ)が分かると
左室の幾何学的形状を4つのパターンに分類できます。
これをLVジオメトリー分類と呼びます。
4分類の定義
RWT ≤ 0.42 RWT > 0.42
┌───────────────────┬────────────────────┐
LVMI 正常 │ 正常ジオメトリー │ 求心性リモデリング │
│ (Normal Geometry) │ (Concentric │
│ │ Remodeling) │
├────────────────── ┼────────────────────┤
LVMI 増大 │ 遠心性肥大 │ 求心性肥大 │
│ (Eccentric │ (Concentric │
│ Hypertrophy) │ Hypertrophy) │
└───────────────────┴────────────────────┘
各パターンの臨床的意味
①正常ジオメトリー(LVMI正常 + RWT ≤ 0.42)
心筋量も形状も正常。形状的な問題が少ないことを示します。ただし「正常ジオメトリー=正常心臓」ではありません。
拡張機能障害や弁膜症はこのパターンでも存在します。
②求心性リモデリング(LVMI正常 + RWT > 0.42)
心筋量は大きく増えていないが、形状が「求心性に厚く」なっている状態。
高血圧性変化の初期段階でしばしば見られます。
内腔の狭さが問題になっていないかが重要です。
SVI(一回拍出量係数:後述)などが小さくなっていないかも確認しておくとよいでしょう。
心血管死・心不全入院のリスク:正常の1.5〜2倍程度。
高血圧の早期段階に多く、放置すると求心性肥大へ進行する可能性があります。「予兆のジオメトリー」と位置づけられるでしょう。
予後の観点では正常ジオメトリーよりやや悪いとされますが、次の2つよりは良好です。
③遠心性肥大(LVMI増大 + RWT ≤ 0.42)
心筋量が増えているが、内腔は狭くなく、遠心性に肥大しているパターン。
容量負荷(AR、MR)や収縮不全(拡張型心筋症、心筋梗塞後)に典型的です。壁は分厚くしながら、内腔を「大きく」広げることで容量を処理しようとしている状態です。
心血管死リスク:正常の約2倍。HFrEFへの移行リスクが特に高いパターンです。
心血管リスクは求心性肥大より低めですが、EFが低下しやすいという特徴があります。腔が大きくなるにつれて壁応力(Laplace則:σ ∝ P×r/2h)が上昇し、収縮機能障害に移行しやすいからです。
④求心性肥大(LVMI増大 + RWT > 0.42)
心筋量が増え、かつ壁が求心性に厚いパターン。
高血圧性心臓病・大動脈弁狭窄症の進行例で見られます。
4パターン中、心血管イベントリスクが最も高いとされています。
心血管死・心筋梗塞・脳卒中・心不全の複合エンドポイントで正常の2.5〜4倍のリスク(LIFE試験・Framingham研究など)。
圧負荷(高血圧・AS)に長年さらされ、壁が厚くなりながら腔も縮小した状態。弛緩障害・充満圧上昇・冠血流予備能の低下が重なります。
4パターンの予後比較
複数の疫学研究(Framingham Heart Studyなど)により、LVジオメトリーと予後の関係が示されています。
予後良好 ←────────────────────────────→ 予後不良
正常 ─ 求心性リモデリング ─ 遠心性肥大 ─ 求心性肥大💡 Clinical Pearl
「高血圧治療の効果判定」にLVジオメトリーが使える可能性があります。降圧治療前に求心性リモデリングであった患者が、治療後に正常ジオメトリーへと改善すれば、「心臓への負担が実際に軽減した」ことの客観的証拠になりえます。
Chapter 2 まとめ

厚さと大きさの指標からの問いかけ: 「この心臓は何に抗ってきた心臓か」
圧に抗って壁を厚くしてきたのか(高血圧、AS)。
容量に抗って腔を広げてきたのか(AR、MR、心筋梗塞後)。
あるいは心筋そのものの病気なのか(HCM、アミロイドーシス)。
この問いに対する答えは、厚さの指標と大きさの指標の組み合わせから浮かび上がってくることがあります。
Chapter 3 収縮機能の指標:ポンプの動きはどうか
「EFはいくつ?」
これは心エコーで最も多く問われてきた質問ではないでしょうか?
EFは今も変わらず非常に重要な指標であることは間違いありません。
しかし、EFが正常でも収縮機能が障害されていることがあります。
EFが低下していても実質的な拍出量が維持されていることもあります。
EFは万能な収縮能の指標ではなくなりつつあります。
このChapterでは、EFを基点としながら、より精密な収縮機能の読み方を習得します。
3-1 EF(左室駆出率)
EF(Ejection Fraction:左室駆出率)は、
拡張末期に左室に充満した血液のうち、1回の収縮で拍出される割合です。
簡単にいえば、「左心室が一番拡がったときと、一番縮んだ時で、容積が何%変化したか」です。


EDV:拡張末期容積、ESV:収縮末期容積、SV:一回拍出量
計測法
EFの計測法は複数あります。
現在の標準はバイプレーン法(Modified Simpson法:修正シンプソン法)です。
四腔像・二腔像の2断面から左室容積を積算することで、壁運動異常の影響を受けにくい正確な計測が可能です。

Teichholz法(ティーショルズ法:Mモードから直径を用いて計算する旧来の方法)は計測が簡便ですが、心筋梗塞後など局所壁運動異常があると著しく誤差が生じます。

エコーレポートでは、
壁運動異常あり →Modified Simpson法
壁運動異常なし →Teichholz法
が計測されているはずです。(施設によってはどちらも計測されているかも)
EFを評価する際は、
壁運動異常の有無を確認し、
どの計測法によるEFか を確認するようにしましょう。
正常値
EFは近年、以下の表のような男女別の重症度分類が提唱されていますが、男女共通の数値を提示するガイドライン(英国)もあります。

心不全分類
心不全をEFで分類する場合、以下の3分類が用いられます。
HFpEF(EF保持型心不全)
HFmrEF (EF軽度低下型心不全)
HFrEF(EF低下型心不全)

この3分類は、2021年のESC心不全ガイドラインで定義されたものです。
心不全の分類ではEF 50%、40%が区切りになっていることに注意してください。
EFの長所と限界
長所:
簡便で再現性が高い
予後との相関が明確(EFが低いほど予後が悪い)
治療適応・効果判定の基準として広く確立されている(CRT、ARNI、ICD植込み基準など)
心不全の表現型分類(HFrEF/HFmrEF/HFpEF)の根幹
限界(ここが重要):
① 前負荷・後負荷依存性
EFは「心筋の真の収縮力」ではなく「心筋収縮力 × 負荷条件」の結果です。脱水でpreloadが下がればEFは見かけ上上がり(下のColumn参照)、高血圧クリーゼなどでafterloadが急上昇すればEFは急落します。
② EF正常でも収縮障害が潜む(HFpEF問題)
EFが50%以上でも、GLS(後述)が低下していることがあります。特に高血圧・糖尿病・肥満を複数持つ患者では要注意です。
③ MR・ARでのEF過大評価
MRでは逆流分が低抵抗の左房へ排出されるため、EFが見かけ上高く計測されます。「EF 60%のMR患者」が実は収縮機能が障害されているという逆説が起きます。MRではEF ≥ 60%が正常とする基準が使われます。
💡 Clinical Pearl
MRの手術タイミング評価では、「EF < 60%」または「LVDs > 40 mm(一部のガイドラインでは45mm)」が無症候性でも介入を検討するサインです。「EF 55%だから大丈夫」とスルーしないこと。
📖 Column|「脱水でEFが上がる」のはなぜか——前負荷依存性の本質
EFが前負荷に依存するとはいっても、その方向は「単純に下がる」ではありません。 PVループの原則から考えると: 収縮末期容積(ESV)は心筋の収縮力と後負荷によって決まり、理論上は前負荷の変化に依存しません。脱水でEDVが下がってもESVはほぼ固定されるため、EF=(EDV−ESV)/EDVは本来は低下する方向です。
では「上がる」ケースはどんなときでしょうか:
① ラプラス効果:壁応力(後負荷)= 圧力 × 半径 ÷(2 × 壁厚)。
脱水で左室が小さくなると半径が減り、後負荷が下がる。これにより収縮がより完全になりESVが予想より下がる。慢性的に拡大した心臓(DCM・高度AR)では特に顕著。
② 交感神経亢進:脱水の代償として交感神経が活性化し、収縮力が増す(ESPVRが急峻になる)。これはpreload効果ではなく神経体液性の応答です。
正確には「脱水でEFが上がる場合も下がる場合もある」です。重要なのは、EFは前負荷・後負荷・収縮力の三者の合成結果であり、心筋収縮力そのものの指標ではないという点です。「EFが改善した=心筋が回復した」と単純に考えず、「EFが変化した=何かが変わった」と読む習慣を持つことが大切です。
3-2 SVI(一回拍出量係数)
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