「体力がない」のは心臓?筋肉?──Fickの式から考える“動ける力”の正体
第1章:はじめに──VO₂を“分解”して見てみよう
「なんだか体力がないな…」
そんなとき、私たちはその原因をどこに求めるでしょうか。心臓?筋肉?それとも年齢のせい?
心臓リハビリにおいて、「VO₂(酸素摂取量)」という指標は、運動耐容能=体がどれだけ動けるかを表す大切な数字です。
けれど、このVO₂の値を見て「この人は元気そう」「ちょっと体力が落ちてるな」と、なんとなくの印象で終わってしまうことはありませんか?
でも本当は、もう一歩踏み込んで見てみる必要があります。
たとえばVO₂が低いとき、それは心臓からの血液の送り出しが足りないのか、あるいは筋肉が酸素をうまく使えていないのか。
この違いがわからなければ、適切な運動処方やリスク評価につなげることは難しくなってしまいます。
そこで登場するのが、今回のテーマである「Fick(フィック)の式」です。
この式は、VO₂という一見抽象的な数字を、
「心拍出量」×「動静脈酸素較差」という2つの要素に“分解”してくれるもの。
とてもシンプルですが、VO₂の本質を捉えるうえで、非常に強力な原理です。
このFickの式を使えば、VO₂というひとつの数字の“内訳”が見えてきます。
つまり、「どこが弱っているのか」「どこにアプローチすべきか」を具体的に考えるための手がかりが得られるのです。
このシリーズでは、以下の3つの視点から、VO₂の中身を一緒にひもといていきます:
Fickの式ってどういう仕組み?
「心拍出量」と「動静脈酸素較差」ってなに?
それをどうやって臨床に活かすの?
VO₂を“体力の指標”で終わらせず、
「なぜ低いのか?」「どこで止まっているのか?」を一緒に見ていきましょう。
第2章:Fickの式とは何か?──VO₂を“中身”で見る
「VO₂が低い」と聞いたとき、あなたは何を思い浮かべますか?
「心臓が悪いのかな?」「体力が落ちているだけかも?」──その判断のカギを握るのが、今回ご紹介する Fick(フィック)の式です。
◆ VO₂は「心臓の力 × 筋肉の使い方」
Fickの式は、ドイツの生理学者アドルフ・フィックによって提唱された、酸素の消費量(VO₂)に関する原理です。
その基本のかたちは、たったひとつの式で表されます。
VO₂ = CO × (CaO₂ - CvO₂)
この数式が意味するのは、
「酸素の消費量(VO₂)は、心臓が送り出す血液の量(心拍出量=CO)と、血液中の酸素がどれだけ使われたか(動静脈酸素較差)を掛け合わせたもの」ということです。
◆ それぞれの言葉の意味をかみ砕くと…
CO(Cardiac Output)=心拍出量
→ 1分間に心臓が送り出せる血液の量。いわば「供給の力」CaO₂(動脈血酸素含量)
→ 肺から取り込まれた酸素をたっぷり含んだ、動脈血の中の酸素の量CvO₂(静脈血酸素含量)
→ 組織で酸素を使ったあとの、静脈血の中の酸素の量
この CaO₂とCvO₂の差(=A-V O₂ difference/動静脈酸素較差) が、
「筋肉や組織がどれだけ酸素を取り出して使えたか」を示すと同時に、
「送り出された血液の酸素の“濃さ”がどれだけあったか」という視点も含まれています。
たとえば、貧血や低酸素血症では、CaO₂そのものが低くなるため、
筋肉がしっかり酸素を使おうとしても、もともと送り込まれる酸素量が足りていない──
そんな状況では、A–V差は思ったほど開かず、VO₂が伸びないこともあるのです。
◆ VO₂は“2つの力”の掛け算で決まる
つまり、VO₂というのは:
どれだけ酸素を「運べて」(=心拍出量)
×
どれだけ酸素を「使えたか」(=動静脈酸素較差)
という、“供給力 × 利用力”の掛け算で決まっているというわけです。
◆ だからこそ、“原因”が見えてくる
VO₂というひとつの数字だけを見ていても、「どこに問題があるのか」はわかりません。
けれど、このFickの式を使えば、「心臓に問題があるのか?」「末梢(筋肉)に問題があるのか?」という視点で原因を探るヒントが得られるのです。
たとえば:
心拍出量が少ない → 心不全・不整脈・脱水など
動静脈酸素較差が小さい → ミトコンドリア機能低下・筋力低下・貧血など
このように、VO₂を“中身”で見る視点を持つことで、
ただの「体力の数字」だったVO₂が、臨床の道しるべに変わっていきます。
次章では、Fickの式の1つ目の要素「心拍出量」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
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第3章:心拍出量とは?──血液を“送り出す力”
Fickの式の1つ目の構成要素は、心拍出量(CO:Cardiac Output)です。
これは「心臓が1分間にどれだけの血液を送り出しているか」を示す指標で、
以下の式で表されます:
CO = HR × SV
(CO=心拍数 × 1回拍出量)
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