ショートショート|地獄の吸引力
深い地下壕に落ちた。助けを待ってから1時間は過ぎただろう。希望を捨てたくなかった。しかし、地下壕に現れたのは救出者ではなかった。全身の骨が剥き出しになり骨には赤い線が数本入った怪物だった。地下壕の天井は見えなかったが少なくとも地下壕以上の背丈がある。数分微動だにしなかったその怪物は突然全身を振り回し始めた。地下壕内に轟音が響き渡る。
我々は飛ばされないように必死になって耐えた。だが、その衝撃には誰も耐えることができなかった。仲間の1人が怪物の骨に当たり、地下壕の上の方まで飛ばされた。仲間は見えなくなってしまった。
更に怪物は突然根元の大きな窪みを我々に始めたのだ。それは凄まじい引力だった。
「ギュイイイイイイイイン」
一瞬にして仲間の1人が窪みの中に消えた。
生きた心地がしなかった。
仲間達が次々と窪みの中に消えていく。
仲間たちの断末魔が、地下壕に残された我々の恐怖と絶望を塗り重ねていった。
15分後、残されたのは私1人だった。
仲間は皆消えた。
怪物が残された私に照準を定める。
最も強い引力だった。
私の体は音を立て怪物の窪みの中に吸い込まれた。
「ここまでか……」そう思った瞬間、視界が一瞬だけ白く弾けた。
……気がつくと、すべてが静かだった。
重力も、怪物もなかった。
いや、そもそも——
音すら存在しない。
暗闇の中に浮かぶ、どこか温かく、ぬるい空間。
すると、突然轟音がした。これは——
声か…?
「彼氏がさ!束縛がほんとキツくて!そろそろ別れようかなって思ってるんだけど」
「てかさ、ここのタピオカ、くそうまかったくね?」
「また行こー、てかこの後カラオケ行かね?」
今、私たちは——
女子高校生の胃の中にいる。
