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3.22ラジオ放送百年─「昭和八十年のラヂオ少年」

2025年3月22日、ラジオ放送が百年を迎える。
2025年は昭和百年。ラジオ放送と昭和は同じ年に始まっている。


昭和八十年のラヂオ作家から20年

昭和八十年だった2005年。ラジオ放送80年を記念したオーディオドラマの脚本を書いた。

タイトルを「昭和八十年のラヂオ少年」という。NHKのFMシアター枠で放送された。

『昭和八十年のラヂオ少年』
【放送日】2005年3月19日(土曜日)22:00-22:50
作:今井雅子
音楽:中村勝彦
演出:保科義久
技術:糸林薫
音響効果:西ノ宮金之助
出演:内山昂輝 田谷隼 加藤武 二木てるみ 増子倭文江 林次樹
あらすじ:中学生の元気君は春休み暇を持て余していた。物置蔵に入り、今では使わなくなったラジオのスイッチをひねると、なんだか違う世界に来てしまったようだ。元気君の冒険が始まる・・・。ラジオが家族団欒の中心にあった時代を背景に、ラジオ放送開始の日に生まれた少年と現代の少年が時空を超えて出会い、ラジオドラマへの夢を育む。二人の友情が家族の絆を結び直す、ファンタジーSF物語。

NHKオーディオドラマ

演出は青春アドベンチャー『アクアリウムの夜』、FMシアター『夢の波間』をご一緒したオーディオドラマ職人、保科義久さん。

保科さんと手がけた『夢の波間』『昭和八十年のラヂオ少年』と札幌放送局で制作した『友子とモコ』(演出は家富未央さん。最新プロデュース作はNHK総合『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』)をあわせて「タイムスリップ3部作」と呼んでいる。時空を超えるのはお手のもののラジオドラマはタイムスリップと相性が良い。

NHKを退職された保科さんとはその後、山梨学院大学内にあるコミュニティFM「エフエム甲府」で放送する連続ラジオドラマ「甲府広告」(全10話)を制作した。1話約10分の人情劇。主演は神部冬馬さん。音楽は宇津本直紀さん。神部さんの歌唱を活かせるよう、舞台を「ラジオCMのジングルを作る小さな広告代理店」にし、各話で歌ってもらった。元はバーだったというスタジオで2話ずつ収録。プロ集団のインディーズ作品。好き勝手書かせてもらえて無茶苦茶楽しかった。

ラジオドラマを書き続けているうちに、ラジオ放送80年から20年。昭和八十年のラヂオ作家は、昭和百年のラヂオ作家になった。

『昭和八十年のラヂオ少年』の脚本を読み返すと、本作りの日々が思い返された。愛宕山のNHK放送博物館を訪ね、ラジオドラマの歴史を学ぶところから始め、物語を膨らませるなかでラジオ愛と脚本愛が深まった。

昭和百年。ラジオ放送百年。

20年前の『昭和八十年のラヂオ少年』の脚本をnoteに公開する。20年後も、その後もラジオ放送が続くことを願って。

タイトル画像は「昭和14年のラジオ受信機」がなく、ラジオといえばのカセットテープ。丸文字にも時代を感じさせる。たぶん1980年代の始めあたり。同時録音できるラジカセがわが家に来るまでは、ラジオのスピーカーと録音機を向かい合わせ、雑音が入らないよう細心の注意を払い、家族に「シーッ」と目で合図をし、ガチャッと録音ボタンを押していた。なんてアナログ。

脚本の使用について

✔︎脚本を入手された方を把握できるよう、有料エリアにて完結する形で公開します。価格は3月22日にちなんで322円。
✔︎有料エリアにて、現代に戻ってからのラスト(約3900字 本編の約4分の1)をお読みいただけます。また、縦書きのpdf版を埋め込んでいます。加筆変更がある場合、差し替え版を公開し、購入され方にnoteを通じてお知らせします。
✔︎無料公開部分はclubhouse内にてお読みいただけます。購入された方は有料公開部分もお読みいただけます。事前申請は必要ありません。ルームにこちらのnoteのURLを貼っていただけるとありがたいです。
✔︎clubhouse外での使用については許諾を申請してください。「営利を目的としない」「無料上演」「無報酬」を満たさない場合は著作物使用料がかかります。
✔︎印刷した原稿の複製・配布、ダウンロードしたファイルの共有はお控えください。
✔︎劇中に登場する楽曲「チョコレートと兵隊」については、clubhouseでの使用においてもJASRACの許諾が必要になります(著作権の管理状況についてはJASRACの作品データベース検索サービスで調べられます)。JASRACの許諾を取得しない場合、他の楽曲に差し替えず、「チョコレートと兵隊」が歌われる旨のト書きを読み上げてください。

「チョコレートと兵隊」、こちらで出だしを聴くことができます。

今井雅子作「昭和八十年のラヂオ少年」 

登場人物

只野元気(14)    中学二年生
只野洋一(46)    元気の父
只野春子(44)    元気の母
安井フヂオ(80)   元気の祖父
医師
看護師

〔昭和十四年〕
フーちゃん(14)   昭和十四年のラジオ少年
安井礼子(40)    フーちゃんの母

〔劇中ラジオ〕
男性アナウンサー 歌謡曲 戦況 ドラマ
女性アナウンサー コドモの新聞ナレーター
語り       竹取物語
かぐや姫     竹取物語
おじいさん    竹取物語
おばあさん    竹取物語
天人       竹取物語
ナレーター    炭坑の中
ジャック     炭坑の中
メリイ      炭坑の中

本編

      ゲームの電子音。

春子    元気、晩ごはんできたって何度言わせるの!
元気    すぐ行くー。
春子    その生返事は聞き飽きたの!

      ゲームオーバーの音。

元気    ああっ、最高得点出るとこだったのにぃ。
春子    勉強もしない、手伝いもしない、友達とも遊ばない。朝から晩までゲームばっかり。
元気    いいだろ、春休みなんだし。
春子    口ごたえばっかり元気なんだから!
元気    元気って名前つけたの誰だよ。  

元気M   苗字が只野で名前が元気。つなげて読むとタダノゲンキ。変な名前。

洋一    (近づきながら)元気に八つ当たりすることないだろ。
春子    当たってないじゃない!
洋一    いい加減にしてくれよ。こっちは、会社からクタクタになって帰ってきてるんだ。
春子    他人事ひとごとみたいに言わないでよ! 私のお父さんは、あなたのお父さんでもあるんだから!
洋一    わかったから、大声出すなよ! 

元気M   お母さんのイライラの原因は、おじいちゃんだ。十年間、音信不通だったおじいちゃんが、突然、この家に帰ってくる。

春子    ちょっと元気、どこ行くの!
元気    こんな家、いたくないよ!

      乱暴にドアを開け、閉める。
      雨。

元気M   飛び出した外は、雨だった。

元気    ついてねー。しばらく、蔵で雨宿りするか。

      ギイと重い戸を開け、入る。

元気M   家の裏に建っているオンボロの蔵は、ガラクタ置き場になっている。

元気    わ! カビくせ……。真っ暗でよく見えないや。

      数歩あるいて、何かにつまずく。
      鈍い音を立て、床に倒れる固い物。

元気    イッテー。なんだよ、これ?

      雷が近づいてくる。
      ピカッと光る稲妻のイメージ。

元気M   明り取りの窓から差し込む稲光が、蔵の中を照らした。僕がつまずいたのは古ぼけたラジオだった。縦長でどっしりしていて、真ん中に丸いダイヤルがある。

元気M   僕が四歳のとき、家を出て行ったおじいちゃんは、ラジオが好きだった。おじいちゃんのひざの上で聴いたラジオは、横長だったっけ。

      雷が鳴り、蔵がビリビリ震える。

元気    うわっ、雷!

      プン、と電源が入る。

元気    あ、勝手に電源が入った。

      ザーザーとホワイトノイズ。

元気    周波数はこのダイヤルで合わせるのかな……。

      ホワイトノイズの調子は微妙に変わるが、音は入らない。
      ラジオをたたいたり、スイッチを入れたり切ったり。

元気    壊れてんのかな。年季入ってるし。この蔵とどっちが古いんだろ。

      雷が鳴り、蔵がビリビリ震える。

元気    うわっ!……また来た!

      と、雑音に混じって、音楽(『チョコレートと兵隊』前奏)が聞こえ、次第に鮮明になる。

男性アナウンサー (ラジオ)続いてお送りします曲は、サトウ八チロー作詞、竹岡信幸作曲『チョコレートと兵隊』、歌は霧島昇です。

元気    お、ラジオが生き返った。

     (ラジオ 『チョコレートと兵隊』冒頭)

元気    聞いたことない曲だ。ラジオって変なのやってるな。あれ、雨、止んだのかな。

      ギイと重い戸を開け、外に出る。
      『チョコレートと兵隊』FO。

元気    え? ええっ? マジ? 家が消えてる!

元気M   正確には、蔵の後ろにあるはずの二階建ての僕の家が……瓦屋根の平屋に変わっていた。

フーちゃん 君、見かけない顔だね。
元気    わ!

元気M   平屋の窓から、ボウズ頭の男の子が顔を出していた。

フーちゃん 勝手に人の敷地に入っちゃいけないよ。
元気    ここが……君んち?
フーちゃん そうだよ。君、どこから入って来たんだい?
元気    あの蔵から出てきた。
フーちゃん あれも、うちの蔵だけど。
元気    蔵から出たら……景色が変わってた。
フーちゃん 景色が変わっていた?(吹き出し)君も空想科学小説が好きなんだ。
元気    マジだって。
フーちゃん 君、面白いや。僕は安井フヂオ。フーちゃんでいいよ。君は?
元気    ……教えない。
フーちゃん 待ってて。今、勝手口を開けるよ。

元気M   わけがわからないまま、瓦屋根の平屋に足を踏み入れた。

      柱時計がボーンと鳴る。

元気    なんか博物館みたいな家だな。
フーちゃん そう?
元気    これ、何?
フーちゃん 蓄音機、知らないの? 僕のお父さんは音楽が好きでね、ラヂオも最新式さ。ほら。

元気M   神棚の横に置かれた縦長のラジオ。真ん中には、丸いダイヤル……さっき蔵にあったのと同じ型だ! だけど、こっちはまだピカピカの新品だ。

フーちゃん 今日はラヂオの誕生日なんだよ。
元気    このラジオの?
フーちゃん 受信機のことじゃないよ。十四年前の三月二十二日、芝浦の東京放送局でラヂオの放送が始まったんだ。僕の生まれた日でもあるけどね。
元気    十四年前? なんだ、同い年か。
フーちゃん へーえ。君も大正十四年生まれ?
元気    た、大正? 今って大正時代?
フーちゃん バカ言うなよ。大正時代は十五年で終わって、今は昭和十四年だろ。
元気    マジ?

元気M   僕のお父さんは昭和三十四年生まれで今年四十六才。昭和十四年はその二十年前だから……ええっ、六十六年前!

      玄関の戸がガラガラと開く。

礼子の声  (OFF)フーちゃん、ただいまー。

元気M   僕のお母さんの声じゃない。

礼子    (近づきながら)寄り合いが長引いちゃって……すぐ夕飯の支度するわね。……あら?
フーちゃん お母さん、紹介するね。こちら……(耳打ち)名前は?
元気    ……元気。

元気M   上の名前は言わなかった。

フーちゃん こちら、ゲンちゃん。
元気    なれなれしいよ。
フーちゃん 僕の誕生日を一緒に祝ってくれるって。
元気    勝手に決めんなって。
礼子    ゲンちゃん、お父さんとお母さんは?
フーちゃん 親戚に不幸があって、田舎に行ったんだよね?
礼子    そう。mm9757619674

元気    話作るなよ。
フーちゃん あ、六時二十五分! 『コドモの新聞』がはじまる。お母さん、ラヂオつけて。
礼子    はーい。

      ポチッとスイッチをつけると、ラジオが流れる。

女性アナウンサー (ラジオ)こんばんは。コドモの新聞の時間です。まず最初に、九州の海で迷子のワニが見つかったというニュースです。迷子といっても、身の丈は三メートル余り、目方は二十五キロ余り。寒い寒いという様子をしていたようです。

元気    なんで、神棚拝んでんの? 
フーちゃん 神棚の隣のラジオを見ているんだよ。
元気    (独り言)変なの、テレビじゃないのに。

女性アナウンサー (ラジオ)さて、続いて今夜は、いま注目のテレヴィジョンのお話をしましょう。コドモの新聞でもたびたび伝えてきましたが、わが国のテレヴィジョンの開発は着々と進み、その輝かしい進歩には世界も目を見張るほどです。これまで課題となっていた映像の不明瞭さや画面のちらつきなどもずいぶん改善されてまいりました。世田谷の日本放送協会技術研究所では、近日中に有線による国産テレヴィジョンの初実験を行う予定です。楽しみですね。

元気    テレヴィジョンってテレビのこと?
フーちゃん テレヴィジョンはテレヴィジョンだよ。
元気    げ、この時代はまだ……テレビないのかよ。
礼子    さ、夕飯を済ませて、ゲンちゃんも一緒にお風呂に行きましょう。  

      近所の犬が吠える。
      市電の踏み切りの音。走る電車の音。

元気M   門を出て左に曲がると市電の線路がある。そういえば、家の近くを市電が走ってたって聞いた気がする。電柱の住所は……やっぱりここは僕の町だ。

フーちゃん (OFF)ゲンちゃん。
礼子    (OFF)銭湯はこっちよ。

      家の中から聞こえてくるラジオ放送、近づいてくる。

元気M   見覚えのない近所の建物からはテレビじゃなくてラジオの声が聞こえる。

男性アナウンサー (ラジオ)事変勃発以来、わが皇軍の勇戦奮闘は堂々たる戦果を大陸に輝かしております。

礼子    待って。戦況放送がはじまる。

      ラジオの音、大きくなる。(耳を澄ます)

男性アナウンサー (ラジオ)二十二日は好天に恵まれ、戦況は著しく進展しました。西へ西へと快進撃を続けるわが津田部隊は、今朝未明、敵の本拠地近くにある要塞を突破いたしました。さらに西南に向かって突進中で、これに策応して西方の各部隊も援軍に馳せ参じ、敵前上陸は最早時間の問題と思われます。勇敢な津田部隊の隊員たちは、一日も早く敵陣に日の丸を打ち立てる、と意気盛んであります。

フーちゃん 僕のお父さんは、津田部隊の隊員なんだ。
元気    ふーん。
礼子    先月徴兵されたばかりなの。
元気    徴兵……? え、今って戦争中なの? 
フーちゃん・礼子 (吹き出し)ゲンちゃん……!
元気    ぼ、防空壕どこ? あ、あの穴かな。

      と駆け寄る。
      ラジオの音、遠ざかる。

フーちゃん これは井戸だけど。
元気    爆弾が降ってきたら、どこに逃げ込むんだよ。
フーちゃん 大丈夫だよ。戦地は海の向こうなんだから。
元気    じゃあ、まだ空襲は始まってないのか。あれ? このタイル張りの建物は……。
礼子    フーちゃん、ゲンちゃん、後でね。

      カラカラと戸を開け、閉める。

元気M   友だちが通っている学習塾は、六十六年前は銭湯だった。

      風呂。お湯がチャプチャプはねる。

フーちゃん 人の裸をじろじろ見ていると、気味悪がられるよ。
元気    こんなとこ来たの、はじめてだからさ。
フーちゃん え、お風呂入ったことないの?
元気    なわけないだろ。うちに風呂あるから。
フーちゃん ゲンちゃんちはお金持ちなんだ。言葉遣いもどことなく変わっているし。
元気    マジ?
フーちゃん ほら、その言葉。
元気    え? マジって言わない?
フーちゃん どういう意味?
元気    「本当?」って聞き返すときに使う。
フーちゃん (語尾を下げて)マジ。
元気    そうやって下げると、「本当」って意味になる。
フーちゃん ふーん。やっぱり品があるね。
元気    (吹き出し)平成の人間は、みんな使ってるよ。
フーちゃん 平成ってどこにある町? 
元気    実はね、(声をひそめ)僕は未来から来たんだ。
フーちゃん あはは。ゲンちゃんは面白いや。そうだ、後で面白いものを見せてあげるよ。

      襖をサーッと開ける。

フーちゃん ここが僕の秘密基地、お父さんの書斎さ。
元気    うわっ、本ばっか……。
フーちゃん お父さんも僕も本とラヂオの虫さ。今読んでいるのは、これ。
元気    (興味なさそうに)五百円ドラマ脚本集……?
フーちゃん 僕らが小さい頃に有名な作家がこぞってラジオドラマの脚本を書いたんだって。その報酬がなんと五百円!
元気    たった? 
フーちゃん 五百円もあれば、ちょっとした家が建ったよ。
元気    マジ?
フーちゃん 僕も書こうと思ってさ。この週刊誌を読んで、ひらめいたんだ。
元気    これ……見たことない漢字だらけなんだけど。
フーちゃん ゲンちゃんって、つくづく面白いね。じゃあ説明するよ。これは去年の秋、アメリカで起こった火星妖怪軍事件の記事なんだ。
元気    火星妖怪軍?
フーちゃん そう。ニューヨーク市の郊外に巨大な隕石が落ちて、中から大勢の火星人が飛び出したんだ。
元気    マジ?
フーちゃん ラジオでニュースが放送されると、アメリカはもう大騒ぎさ。警察の電話は鳴りっぱなし、火星人と戦う義勇兵には志願者が殺到、挙句の果てには火星人対地球人の宇宙戦争がはじまるんだ。
元気    宇宙戦争? で、どうなった?
フーちゃん 火星人なんて、いなかった。
元気    え?
フーちゃん すべては作り話、ラヂオドラマだったのさ。あまりによく出来た脚本だったから、誰もが本物の緊急放送だと思い込んだんだ。
元気    なぁんだ。
フーちゃん 同じことを日本のラヂオでもやろうと思って、書いてみたんだ。読んでみて。

元気M   原稿用紙二十枚分読むのに、一時間もかかった。

フーちゃん どう?
元気    はっきり言っていい?
フーちゃん どうぞ。
元気    つまんない。
フーちゃん え? どこが?
元気    これ、さっき聞いた話のまんま。舞台がアメリカから日本になっただけでさ。
フーちゃん そうだよ。
元気    それって、単なるパクリだよね。
フーちゃん パクリって何?
元気    パクリってのは、ドロボーだよ。
フーちゃん (怒り爆発)何だとぉー! 
元気    はっきり言えって言うから。
フーちゃん 言っていいことと悪いことがあるよ!
元気    何熱くなってんだよ。
フーちゃん 僕はね、この脚本に賭けてるんだ! 懸賞に応募して、賞をもらって、この世に生きた証を残すんだ!
元気    (吹き出し)大げさ。

      ドン、と突き倒す。

元気    イッテー。何するんだよ!
フーちゃん 僕は……僕は……長くは生きられないんだ!
元気    そのでかい体でよく言うよ。
フーちゃん 信じろよ!
元気    やったな!
フーちゃん イッテー。この無神経野郎!
元気    嘘つき!
フーちゃん 何だとぉ!

      殴り合いの喧嘩。
      襖がバンと開き、

礼子    二人とも何やってんの!
元気    そっちが先に手を出したんだからな。
フーちゃん 人のことドロボー呼ばわりするからだ!
礼子    フーちゃん、もういいから。また友達なくすわよ。
フーちゃん だって……。
礼子    今日はもう寝なさい。

元気M   フヂオ君の部屋に布団を並べ、僕らは背中を向けあって寝た。

      朝。鶏が鳴く。

元気M   朝起きると、隣にフヂオ君の姿はなかった。

礼子    すねると、書斎にこもっちゃうのよ。さめちゃうから、先に食べましょう。
元気    いただきます。
礼子    どうぞ。    

      朝食。味噌汁をすする。たくあんを噛む。

礼子    後で、おつかいにつきあってくれる?
元気    あ……はい。

      のどかな警笛を鳴らし、市電が走る。

礼子    悪いわね。家の中だとフーちゃんに聞かれちゃうから。昨日の喧嘩、許してあげてね。
元気    僕は別に……。
礼子    フーちゃんね、焦っているのよ。ほら、あの子、小児結核でしょう?元気    え?
礼子    フーちゃんに聞いてない? 肺に影があってね。
元気    (ポツリ)昨日の話は、ほんとだったんだ。
礼子    家で静かにしていれば大丈夫ってお医者様は言うけど、フーちゃん、気持ちまで弱ってしまってね。学校も春休み前から行ってないし、友達にもつい辛く当たってしまって……。ゲンちゃんは、本当にひさしぶりのお友達なの。
元気    (ポツリ)まだ、友達になってないんだけど……。
礼子    でも、ひとつだけ、フーちゃんを元気づける方法があるの。
元気    何ですか。
礼子    ラヂオドラマの脚本を書いていてね、それが生きがいになっているみたい。

元気M   ヤバイ。その脚本を、僕は思いっきりけなしてしまった。

礼子    脚本がうまく書けたら、自信がついて、生きる力も湧いてくると思うの。
元気    でも、いいんですか、アメリカのラジオドラマなんか参考にして。
礼子    え、いけない?
元気    だってアメリカは敵でしょう?
礼子    ゲンちゃん、何寝ぼけているの? 日本の敵は中国よ。あ、チョコレート買って帰ろう。フーちゃんの大好物なの。

元気M   アメリカとの戦争はまだ始まっていなかった。

子ども1  (近づいて)どけどけー! 日本軍、参上!
子ども2  (近づいて)危ない! 逃げろ!
子ども1  爆弾を食らえ! ドカーン!
子ども2  イッテー。
子ども1  敵兵一名負傷。長田陸軍兵、止めを刺します。ダダダダダーン。
子ども2  やられたー。
子ども1  バンザイ、勝った勝った! 勇敢なる日本軍、中国軍を撃退!

      子どもたち、走り去って行く。

礼子    戦争ごっこが大はやりね。
元気    戦争ごっこ?
礼子    おもちゃの鉄砲なら誰も傷つかないけど、本物の鉄砲だと血が流れるのよね。ゲンちゃんのお父さんは、兵隊には?
元気    いえ……。
礼子    そう。うちは、お父さんは兵隊だし、フーちゃんは結核だし、ときどきね、不安でたまらなくなるの。私だけ取り残されちゃうんじゃないかって……(涙声)。
元気    あの……。
礼子    ごめんなさい。
元気    僕が何とかします。フヂオ君と仲直りして、いい脚本が書けるように手伝います。
礼子    ゲンちゃん、ありがとう……。

元気M   つい、言ってしまった。宿題の作文だって、ろくに書けないくせに。

      襖をたたく。

元気    フヂオ君、チョコレート食べない?……フヂオ君、フーちゃん? いるんだろ? 開けてくれよ……。
フーちゃん (OFF)食べ物なんかで釣られるもんか。
元気    昨日は悪かった。本当はすごく面白かった。だけど、認めるのが悔しくて、負け惜しみを言ったんだ。
フーちゃん (OFF)本当?
元気    マジだって。目のつけどころはすごくいい。でも、もう少し工夫すれば、もっと面白くなると思う。
フーちゃん (OFF)たとえば?
元気    たとえば……アメリカ版との違いをもっと出したほうがいい。火星人が富士山に上陸するとか……。
フヂオ   (OFF)それから?
元気    相撲力士が火星人をやっつけるとか……。

元気M   言いながら、自分に驚いた。学校の文化祭でも意見なんか出したことのない僕が、脚本のアイデア出しをするなんて!

      襖が開く。

フーちゃん 採用。
元気    え?
フーちゃん 双葉山と安芸の海を出そう。双葉山の連勝を安芸の海が止めた先場所は話題になったからね。
元気    双葉山?
フーちゃん 実を言うと、行き詰っていたんだ。つまらないって言われて頭に来たのは、痛いところを突かれたからなんだ。
元気    じゃあ、一緒にやってみる?
フーちゃん よし、賞金は山分けにしよう。一等は、なんと五十円。
元気    二十五円は、別にいいよ。
フーちゃん 僕も賞金は二の次さ。入賞作品はラヂオドラマになって全国放送されるんだ。
元気    全国放送? マジ?
フーちゃん マジ!

      足踏みミシンの音。
      ラジオから流れる歌謡曲。

元気M   フーちゃんのお母さんの内職の音とラジオをBGMに、僕らは日本版『火星妖怪軍事件』の脚本を書き始めた。 

フーちゃん で、火星人が隕石から出て来るだろ。
元気    そこなんだけど、UFOに乗って飛んで来ることにしたら?
フーちゃん ユーフォー?
元気    UFОってのは、ほら……なんか書くものある?
フーちゃん じゃあ、この紙の裏に。
元気    こんな風にお椀のフタみたいな形で、地球にはない金属でできていて、自由に空を飛べるんだ。
フーちゃん よーし、ユーフォー案、採用。

元気M   僕のアイデアはどんどん脚本に取り入れられていった。一人でゲームやっているより、面白いかも知れない。

フーちゃん 出だしでアナウンサーの緊急放送が割り込む音楽も、日本の歌がいいんだよね。
元気    うん。あれ、この曲……?

      ラジオから流れてくる『チョコレートと兵隊』。

フーちゃん ああ、『チョコレートと兵隊』だろ。
元気    (独り言)やっぱり、こっちの時代の歌だったんだ。(フーちゃんに)これにしない?
フーちゃん そうする? 僕らの好きなチョコレートの歌だし。
礼子    やめて!

      ブチッとラジオが切られる。

フーちゃん お母さん、何するんだよ。
礼子    この歌が、どういう歌かわかってる?
フーちゃん 戦地のお父さんが息子のためにせっせとチョコレートの包み紙を集めるっていう話だろ。
礼子    そのお父さんは死んじゃうの。包み紙と引き換えたチョコレートが息子の元に届いた日に、戦死の知らせも届くの。
フーちゃん 歌は歌だろ。何も目の敵にしなくたって……。
礼子    フーちゃんは何もわかってない。毎日、お父さんが無事かどうか心配で心配で眠れないお母さんの気持ちなんか、ちっともわかってない。

フーちゃん 大丈夫だよ、お母さん。お父さんと約束したんだ。僕がこの家とお母さんを守るって。僕が約束を果たしたかどうか確かめるために、お父さんはきっと帰ってくるよ。

元気M   フーちゃんの一家は、ラジオに耳を澄ませるみたいに心を通い合わせている。別々の部屋でばらばらのテレビを見ている僕の家族とは、大違いだ。

      ラジオ、竹取物語の音楽。

元気M   昭和十四年にタイムスリップして三日目と四日目、三月二十四日と二十五日の夕方六時からラジオドラマ『竹取物語』の放送があった。

語り    (ラジオ)それから三年の月日が経ちました。八月十五日の晩つまり十五夜の晩になりますと、天からかぐや姫を呼ぶ声がありました。

天人    (ラジオ)かぐや! かぐや! お迎へぢゃ。参りませい。
かぐや姫  (ラジオ)おじい様、おばあ様、今までありがとうございました。月の都からお迎えがやって参りました。
おじいさん (ラジオ)なんと、天女だったのですか。
おばあさん (ラジオ)ああ、あれは! 
天人    (ラジオ)かぐや! かぐや!
おばあさん (ラジオ)空飛ぶ車が近づいてくる。
かぐや姫  (ラジオ)ご恩は生涯忘れません。地上で過ごした思い出は、この胸にしまってあります。

語り    (ラジオ)かぐや姫は天の羽衣をフワリとまといますと、空飛ぶ車に乗り移りました。

おじいさん (ラジオ)かぐや姫!
おばあさん (ラジオ)かぐや姫!

元気M   僕も家に帰りたくなってきた。

礼子    あれ、ゲンちゃん、泣いてる?
フーちゃん ほんとだ、涙が……。
元気    泣いてないって!

      戸が開き、駆け去る足音。
      近所の犬が鳴いている。
      ギイと蔵の戸を開け、中に駆け込む。

元気M   駆け込んだ蔵の中は、真新しい土の匂いがした。

      壁を手でたたいて回る。

元気M   平成十七年に戻る抜け道は、どこにもなかった。

フーちゃん (近づきながら)ゲンちゃん……探したよ。ここにいたんだ。
元気    ……。
フーちゃん やっとわかったよ。ゲンちゃんは、かぐや姫だったんだ。
元気    男だよ。
フーちゃん 別世界から来たって意味さ。別の時代と言ったほうがいいかな。おじいさんとおばあさんは、子どもを授かりますようにってお願いしたら、かぐや姫が現れた。僕はあの日、空を見上げてお願いしたんだ。誕生日に友達が来てくれますようにって。
元気    昔話と一緒にするなよ。
フーちゃん この蔵に隠してあるんだろ?
元気    何を?
フーちゃん 決まってるじゃないか、空飛ぶ車、ユーフォーさ。
元気    UFOなんか、ないよ。
フーちゃん じゃあ、どうやってこの時代に飛んで来たの?
元気    この蔵で雨宿りしていたら、雷が近くに落ちて、蔵がビリビリ震えて……蔵から出たら、景色が変わってた。
フーちゃん 雷に乗ってきたってこと?
元気    そうなるのかな。
フーちゃん じゃあゲンちゃんは空から雷が迎えに来るんだ。
元気    だといいけど。
フーちゃん こうしちゃいられない。雷が来る前に、急いで脚本を完成させないと。

元気M   フーちゃんは布団の中にまで原稿を持ち込んだ。

フーちゃん アメリカ版では、火星妖怪軍が伝染病でバタバタと倒れて、地球軍が勝利をおさめるんだけど……。
元気    アメリカと同じじゃつまらないね。
フーちゃん 富士山が噴火するとか?
元気    そしたら、地球軍も吹っ飛んじゃうよ。
フーちゃん そっか……。

      襖がサッと開く。

礼子    二人とも、何時だと思ってるの。
フーちゃん 今いいとこなんだから。
礼子    無理したら、また熱が出るわよ。はい、電気消しますからね。
フーちゃん あーあ。真っ暗だ。
礼子    明日にしなさい。おやすみ。

      襖が閉まる。

元気    おやすみなさい。
フーちゃん まだ寝ないよ。
元気    え?      

      マッチを擦り、火を灯す。

フーちゃん ロウソクの炎なら、こうやって布団で隠せば、襖の外に漏れないだろ。
元気    そこまで無理しなくたって……。
フーちゃん ゲンちゃんがいるうちに完成させたいんだ。
元気    (あくび)でも、眠くなってきた。
フーちゃん きりのいいとこまで書いたら寝よう。(あくび)

      火が燃える。

元気    (寝言)燃え盛る炎の中に火星人が……(跳ね起き)うわっ、フーちゃん、大変! フーちゃん!

      バシッと平手。 

フーちゃん (寝言)やったなー、火星人め!
元気    フーちゃん! 起きて!
フーちゃん (寝ぼけて)え? うわっ、なんだこれ!
礼子    (近づきながら)一体何の匂い? こげくさいけど……。 

      襖を乱暴に開け、

礼子    フーちゃん、何やってるの!
フーちゃん 脚本が燃えちゃう!
礼子    どきなさい! 水持ってくる!

      バシャッと水をかける。

元気M   火はすぐに消し止められた。でも、途中まで書き上げた脚本は、灰になった。

フーちゃん (泣きながら)お母さん、やめてよ。ラヂオを返してよ!
礼子    こんなものがあるから、フーちゃんがおかしくなってしまうの。蔵に閉じ込めて、鍵かけてやる。
フーちゃん ラヂオは悪くないよ。
礼子    じゃあ誰が悪いの? ゲンちゃん!
元気    は、はい! 
礼子    お父さんとお母さん、そろそろ田舎からお戻りになったんじゃない?
フーちゃん ゲンちゃんも悪くないよ。お母さんのバカ!

元気M   僕だって、帰りたい気持ちはやまやまだけど……。

      朝。鳥のさえずり。

元気M   昭和十四年に来てから一週間目の三月二十九日。

フーちゃん (駆け寄って)ゲンちゃん、ゲンちゃん、大変だ! 今夜、雷が来る!
元気    マジ?
フーちゃん ほら、ここ。新聞の天気予報に……。
元気    ほんとだ! これで帰れる!
フーちゃん もうひとつ、大ニュースだ。今夜八時三十五分からラヂオであの『炭坑の中』をやるんだ。
元気    炭坑の中?
フーちゃん ラヂオドラマの不朽の名作さ。これは絶対聴かなきゃ。
元気    だけど、ラジオは蔵の中で、蔵には鍵がかかってる。
フーちゃん 鍵は見つけた。神棚に隠してあったよ。
元気    じゃあ後は、どうやってお母さんの目を盗んで、蔵に入るか。
フーちゃん ひとつだけ、方法がある。

      雨がしとしと降っている。
      近所の犬が吠える。
      市電の踏み切りの音。電車の走る音。

礼子    お湯から上がったら、この暖簾の前で待ってるのよ。      
フーちゃん 僕たち、全然信用されてないね。
礼子    当たり前でしょ。またボヤなんか出されたら、かなわないわ。じゃあ後でね。

      カラカラと戸を開け、閉める。

フーちゃん よし、行ったぞ。急いで戻ろう。   

      雨が強くなっている。
      鍵を鍵穴に差し込んで回す。
      ギイと戸を開け、蔵に駆け込む。

元気M   十分後、僕らは蔵の侵入に成功した。

フーちゃん おおっ、ひさしぶりのラヂオだ!
元気    大げさだな。たった一日だろ。       

      ポチッとラジオをつける。

フーちゃん あれ? 入らない。
元気    電源は?
フーちゃん しまった! 蔵の中は電源がないんだ。
元気    どうする?
フーちゃん ラヂオを家の中に持って行って聴くしかないね。
元気    でも、僕は蔵の中で雷を待たないと。
フーちゃん ぐずぐずしていると、『炭坑の中』が始まっちゃう。

      ドーンと雷が近くで落ちる。
      ラジオが鳴り出す。

ナレーター (ラジオ)今夕は思い出のラヂオドラマを新しい装いのもとにお送りします。これからお聞きいただく『炭坑の中』は、ラヂオ放送が始まった大正十四年に放送された、わが国初のラヂオドラマです。イギリスの劇作家リチャード・ヒューズが書いた世界初のラヂオドラマを小山内薫が翻訳、脚色、演出し、大変好評を博しました。

フーちゃん お、雷のショックでラヂオが入ったぞ。
元気    小山内薫って有名な人?
フーちゃん 僕らがめざすべき大作家さ。

ナレーター (ラジオ)舞台は、英国ウェルズにある地下深い炭坑の中。見物客のジャックとメリイは爆発にあって生き埋めになってしまいます。お聴きになる皆様も電燈をお消しになったならば、尚一層その気分に親しむことができるでしょう。

元気    ロウソク消すよ。

      フーッとロウソクを吹き消す。

フーちゃん 今頃、あちこちの家で明かりが消えているはずさ。

      坑夫たちの声。
      爆発の音、水の噴き出す音。
      足音、つるはしの音。

メリイ   (ラジオ)(叫ぶ)あっ、どうしたの。
ジャック  (ラジオ)明かりが消えたんだ。
メリイ   (ラジオ)お前さん、どこにいるの。
ジャック  (ラジオ)ここだ。(足踏みする)
メリイ   (ラジオ)どこ。わからないわ。
ジャック  (ラジオ)ここだ。そら、ここに手がある。
メリイ   (ラジオ)わからないわ。
ジャック  (ラジオ)ここだといえば。
メリイ   (ラジオ)(びっくりして)まあ、これは何。
ジャック  (ラジオ)大丈夫だよ、俺だよ。
メリイ   (ラジオ)ああ、びっくりした。いきなりあたしにさわるんだもの。こんなに近くにいるとは思わなかったわ。

フーちゃん ゲンちゃんが来てから、病気のことでくよくよしているヒマなんてなかったよ。
元気    僕のほうこそ楽しかった。なんとなく毎日が過ぎていくんじゃなくて、夢中で生きてる感じで。
フーちゃん ねえ、僕も一緒に行けない?
元気    え?
フーちゃん またお母さんと二人っきりになると思うと、気が重くてさ。

      雷が近くで落ちる。
      ラジオの音、乱れる。 

フーちゃん・元気 うわっ。
フーちゃん ダメだ、まだ心の準備が!

ジャック  (ラジオ)大丈夫だよ。明かりがつきゃあ何でもないさ。
メリイ   (ラジオ)みんなはどこにいるんだろう。
ジャック  (ラジオ)前のほうにいるんだ。そんなに離れちゃいない。
メリイ   (ラジオ)迷子になったらどうしよう。
ジャック  (ラジオ)なりっこないよ。
メリイ   (ラジオ)みんなと離れずにいればよかった。あたし、恐いわ。真っ暗で。
ジャック  (ラジオ)悪かったね。お前さんと二人きりになって。まあ、元気をお出しよ。すぐ済んでしまうから。
メリイ   (ラジオ)おや、お聞き。誰か来たよ。

フーちゃん よかった。さっきの続きだ。
元気    お父さんと約束したんだろ。この家とお母さんを守るって。
フーちゃん わかってるよ。でもゲンちゃん、『火星妖怪軍事件』を完成させるまでは帰さないぞ。   
元気    今からじゃ無理だよ。途中まで書いた脚本は燃えちゃったし。
フーちゃん 原稿はここにしまってある。
元気    え? 
フーちゃん 僕らの頭の中さ。あとは結末だけ考えればいいんだ。

      急にラジオの聞こえが悪くなる。

フーちゃん あれ、入らなくなったぞ。
元気    こういう結末はどう? お父さんとお母さんと十四歳の少年が地球を守るんだ。
フーちゃん 親子三人でどうやって戦うの?
元気    マジな戦争じゃなくて、戦争ごっこをやる。
フーちゃん (吹き出し)マジ? おもちゃの鉄砲を持って?
元気    そうだ、水鉄砲にしよう! 火星人は、地球を襲いに来たんじゃなくて、水を見に来たんだ。
フーちゃん 家族が地球を守る、か。よし、採用。
礼子    (OFF)フーちゃん、戻ってるの? 湯ざめしちゃったじゃない。フーちゃん まずい。もう帰ってきた。
元気    早くラジオを直さないと。

      ラジオをバンバンとたたいたり、ダイヤルを回したり。
      ラジオ、元に戻る。

      (炭坑の中、続き)      

元気M   一週間前、蔵に入ったときの記憶が蘇った。あの日、おじいちゃんのことを思い出しながら、ラジオの周波数を合わせた。もしかしたら、フーちゃんは僕の……。    

フーちゃん やっぱり行っちゃダメだ! こんなもの壊してやる!
元気    フーちゃん、やめろよ! 大事なラジオだろ!
フーちゃん ゲンちゃんのほうが大事だ!
元気    ラジオを離せ!
フーちゃん やだ!
元気    やめろぉー!

      ラジオの音、乱れ、ホワイトノイズになる。
      ドン、と体当たり。

元気M   フーちゃんに体当たりしてラヂオを奪い返した瞬間、

      バリバリと雷が鳴り、蔵がビリビリと震える。

元気M   お父さんとお母さんが待っている二階建ての家……平成十七年に心の周波数を合わせた。

      ホワイトノイズに混じって、平成十七年の音楽が流れてくる。

フーちゃん ゲンちゃん、ゲンちゃん、どこ?
元気    ありがとうフーちゃん! お母さんと仲直りしろよ。 
フーちゃん (遠ざかり)ゲンちゃーん……。
元気    僕らはきっとまた会える!

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