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「片腕レンタル」から「膝枕」へ

あの金杉肇さん(肩書きがいろいろありすぎるので「あの」に集約)が川端康成「片腕」と今井雅子「膝枕」を並べて文芸批評を書いてくださっているのを見つけた。


「膝枕」の前に「片腕レンタル」があった

小説や映画の考察を読むのが好きだ。自分が読んだ本や見た映画の考察を読むのも面白いが、自分の書いた作品の考察は、なお楽しい。膝枕してもらっている人をはたから見るのと、自分が膝枕してもらうのが大違いなように。

あっちの角度、こっちの角度から眺めたり照らしたり深掘りしたりされて、おや、そんなところにもツボがありましたかとくすぐったくなったり気持ちよくなったりドキッとしたり、反応が忙しい。

あの金杉さんに論じていただくのも畏れ多いが、あの川端康成と並べていただくのも畏れ多い。しかし、それには理由がある。短編小説「膝枕」は「片腕」からひらめきを得て生まれた作品だ。

川端康成の「片腕」に着想を得た「片腕レンタル」という提案プロットをまず書いた(これはこれで面白いので、日をあらためてご紹介したい)。その後、「片腕」から少し離れて、上半身を下半身に、レンタルを通販商品にした「膝枕」を考えた。

「膝枕」を公開しているnoteで成り立ちを紹介している。

「世にも奇妙な物語」のプロット募集に声をかけてもらい、「膝枕」の前にプロットを書いたのが「片腕」だった。

こんな内容だ。

今井雅子作「片腕レンタル」(プロット)

一見レンタルビデオ屋風の店内。だが、並んでいるタイトルは「奇跡のタッチ!ピアノ教師28歳」「腕枕にぴったりな弾力」「スカッシュ国体3位の筋肉自慢」「パン職人の手にこねられて」……。ここは「片腕」を貸し出すレンタルショップ。全身は必要ない、腕だけあれば幸せという客が引きもきらない。

男は仕事一筋の独身サラリーマン。金曜の夜に借りた片腕と週末を過ごすのが唯一の趣味。彼女はいないし、欲しくもない。腕はわがままを言わないし、食事をごちそうしたり気のきいた会話をしたりといった手間もかからないのがいい。

これまでに借りた片腕は数百本にのぼるが、数か月前、運命の一本と出会って以来、その腕が店に出ているときは必ず借りている。

これまでは腕にしか興味がなかったが、何度も腕を抱くうちに本体にも興味が湧くようになった。だが、本体について問い合わせるのは不可能。そこで、腕にマジックで印をつけることに。

以来、街ですれ違う女たちの腕が気になってしょうがない。ついに腕の主を見つけたが、男の目の前で、女はヤクザ者に絡まれる。女を助けた男は、彼女が借金に追い詰められていることを知る。

その週末に借りた女の腕には、リストカットの跡があった。愛しの右腕を守るため、男は女に結婚を申し込む。

晴れて片腕は男のものになったが、その途端、彼の情熱は失せた。生きていくのに必死だった緊張感が消えて弛緩した腕は魅力が失せ、さらに、いつでも自分の好きになると思うと、追い求める気持ちがなくなってしまう。

そうして男は、妻が留守するすきに、いそいそとレンタルショップに向かうのだった。

120字プロットで方向性確認

提出したのはプロットなので、採用されていたら打ち合わせを経て脚本にしていたことになる。そのときにまず、「方向性の確認」をする。

提出プロットでは、「独り身の男がレンタル片腕の主と結婚する」パターンだが、「既婚の男がレンタル片腕に浮気して結婚」のパターン、「既婚の男がレンタルした片腕の主が妻」のパターンも考えられる。

それぞれを120字で表すと、

既婚男が「片腕」に浮気して結婚するパターン

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既婚男の借りた「片腕」が妻だったパターン

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設定を変えると、「片腕」との関係性も変わる。

①独り身の男がレンタル片腕の主と結婚する
②既婚男が「片腕」に浮気して結婚する
③既婚男の借りた「片腕」が妻だった

①を経て②または③という合体パターンもありえる。

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「生身のレンタル」と「人工物の販売品」の違い

上半身(腕)を下半身(膝枕)にしたり、人工知能内蔵にしたりという違い以上に「生身(の身体の一部)と人工物」「レンタルと販売」という違いが大きいということに金杉さんの考察を読んで気づいた。

「膝枕」は、貸し借りではなく購入から始まる。伝票には「枕」と記され、商品は段ボールに収められて届く。断片化された身体は、最初から物流と契約の仕組みの中に置かれている。

金杉さんのnote

所有から始まる「膝枕」は、「モノ」として出会うが、次第に情が湧き、ヒサコの生身の膝が現れることで「作り物か、本物か」の間で揺れることになる。

一方、「片腕レンタル」は、「借りたら返す」の関係から始まる。しかも、他人の身体の一部。腕の主のことを知りたい、近づきたい、自分のものにしたいという衝動が高まる。だが、渇望が満たされると、飽きて次の腕を求めてしまう。

姉妹作のような「片腕レンタル」と「膝枕」。金杉さんの考察を踏まえて筋書きを見比べると、川端康成の「片腕」から出発しつつ、まったく違う話だと気づく。

埋もれていた「片腕レンタル」も膨らませて小説にしたら、浮かばれるかもしれない。「膝枕」とふたつあわせて「片膝」。clubhouseで膝枕erたちに遊んでもらえそうだ。

ちなみに「片腕レンタル」プロットをnoteの下書きに入れたのは2021年。塩漬けになっていた片腕のことを思い出し,ひとまずnoteに解き放つ機会をいただけた。

金杉さん、ありがとうございます。

2021年5月31日から一日も欠かさず膝をつないでもうすぐ連続1700日の「膝枕リレー」に膝番号188でデビュー予約されている金杉さん。

先日12月20日に186膝目「ゆうた」さんがデビュー(replay)。あと一人デビューしたら、次はいよいよ金杉さんの出番。デビューのルームでは「片腕」の話もしましょう。

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脚本家・今井雅子📚言葉遊びが好きな物書き 目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。