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津波対策を先延ばした責任を、最高裁が見逃した 東京電力福島第一原発刑事訴訟

2025年3月5日、最高裁判所は「薄っぺらい」判断を下した。第2小法廷(岡本和美裁判長)が、福島第一原発刑事訴訟の指定弁護士の上告を棄却したのだ。


東電経営陣の業務上過失致死傷罪を問う刑事裁判

刑事責任を問われた被告人は、東京電力の勝俣恒久・元会長、武黒一郎・元副社長、武藤栄・元副社長の3人(勝俣被告人は2024年に死去)だ。

政府の地震調査研究推進本部が出した「長期評価」をもとに、部下に求められた津波対策を先延ばしにし、2011年3月11日の東日本大震災を迎えた。東京電力福島第一原発事故が引き起こされ、双葉病院の患者44人を死亡させ、社員や自衛官らにけがをさせた。業務上過失致死傷罪を問う裁判だったが、被告人らは無罪となった。

最高裁が下した判断は、「長期評価の見解は、10m盤を超える津波が襲来するという現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報であったとまでは認められない」などというものだ。実際に津波は評価通りに来て被害が生じたにも関わらず・・・。

刑事訴訟の意義や意味

この刑事訴訟や決定の意義や意味を、3月6日、緊急会見の席で述べたのは、福島原発刑事訴訟支援団・福島原発告訴団だ。筆者は駆けつけることができなかったが、動画をもとに順不同でメモをまとめてみた。

「部下から津波対策を、緊急にやってくださいと言われて、それを先延ばしした人がいるわけです。それは武藤副社長です。それを良いって言ったのが武黒副社長です。何も複雑ではない。『よしやってくれ』と一言、言えばよかった。」

海渡雄一弁護士

「企業の責任というより、究極的には誰が悪かったのか。企業の責任に希薄化させない。本当に誰が悪かったのかを問う、重要な刑事裁判だった」

北村賢二郎弁護士

「告訴から13年。夢中で走ってきた」
「勝俣さんを含めた被告人3人に、心からの謝罪と反省をして欲しかった。しかし、彼らは裁判で無罪を主張した」
「指定弁護士の皆さん、支援団の弁護士さんたちに、素晴らしい仕事をしてもらえたと思っている。何より一緒にやってきた仲間がほんとうに頑張ってくれた」

武藤類子さん

 「今日の判決の肝は2つ。1つは長期評価は信頼できないんだと。もう1つは、業務上過失致死を問うには、津波が来て、事故が起きてということについての現実的な可能性がなきゃダメだというわけです。
 長期評価は国家機関それも最高レベルの地震学者、津波学者を集めて、徹底的に討論をして出した結論だ。それを軽視して、何に依拠して地震対策や津波対策をしたらいいんですか。」

「311以後、刑事告訴をして、検察が不起訴にして、検察審査会に申し立てをして、非常に難しい『起訴相当』の意見を取って、また検察に戻してまた検察が不起訴にして、もう一回、検察審査会に申し立てた。それこそ針の穴に象を通すような作業を2回やって、強制起訴になった。指定弁護士たちが次々と新たな事実を法廷に提出していった。
 刑事裁判の一審、二審を通じてでてきた証拠によって、株主代表訴訟の立証を充実させることができた。株主代表訴訟の一審判決は、刑事事件の証拠がなければ不可能だったと思う。刑事告訴は、重要な歴史的な意味があった。私たちが頑張らなければ、福一事故の真実は歴史の闇の中に、葬られたと思う。残念な結果にはなったが、白日の下に色々な事実を晒すことができた。国民の所産となる。
 指定弁護士から『強制起訴にこぎつけた民意を生かすことができなくて、非常に残念だ』という言葉があったが、本当にその通りだ。民意を引き継ぎ、実現すべく、粉骨砕身の大奮闘をした指定弁護士に敬意を表したい。それをたった1ページの、中身も本当に1枚の薄っぺらな判決だった」

河合弘之弁護士

裁判所の判断「長期評価は現実的な可能性を備えた情報ではない」

河合弁護士が「薄っぺら」だと指摘する1ページとは、「3.当裁判所の判断」〜「長期評価の見解は、10m盤を超える津波が襲来するという現実的な可能性を認識させるような性質を備えた情報であったとまでは認められず」に至る1ページだ。

福島原発刑事訴訟支援団・福島原発告訴団が掲載した2025年3月5日最高裁決定文より

「草野裁判官の補足意見は間違っている」

これは判断に参加した裁判官による「全員一致」の見解だったが、草野耕一裁判官が4ページにわたる補足意見を付けていた。この意見に対しても、福島原発刑事訴訟支援団からの反論が相次いだ。

「草野さんの補足意見を読むと、原発の運転停止措置をするには、『国のエネルギー政策とか国民の生活に重大な影響を与える』から、説明責任を果たすには、一定程度の蓋然性がなければならないと書いてある。が、そうではなくて、まず国民の生命身体を守ることが第一じゃないと原子力利用は認められない。原子力利用は安全確保を第一としてということが定められていることからすると、この書きぶりは生命身体を軽視、無視した考え方であり、根本的にこの補足意見は間違っている」

大河陽子弁護士

「草野さんの補足意見に、『我が国の歴史に同様の悲劇が繰り返されることのないように腐心することは最高裁判所判事に託された職責』であると書いてある。これはその通りだと思う」
「腐心するとは、心を砕くこと。突き詰めて考えるというのが最高裁判事の職責であったのならば、こういった判決が出るのは、到底受け入れられない。書かれている内容は、口で言っている職責からはほど遠いものだ。」

北村賢二郎弁護士

判決に加わるべき裁判官、回避すべき裁判官

実は、草野裁判官は「西村あさひ法律事務所」の元代表だ。

福島原発刑事訴訟支援団が2023年に行った「東電と密接な関係のある最高裁・草野耕一裁判官に「東電刑事裁判」の審理を回避するよう求める署名によれば、西村あさひ法律事務所の共同経営者は東電の社外取締役だ。また、同事務所の顧問で元最高裁判事は、福島第一事故からの原状回復と、原状回復できるまで毎月5万円の慰謝料を支払うことを東電と国に求めた生業訴訟で、東電と国の賠償責任を否定する意見書を裁判所に出した人物だった。

そこで、福島原発刑事訴訟支援団は、裁判官は、独立して中立・公正であることを求められているとして、草野裁判官が自ら、審理からの「回避」を決断することを求めていた。

海渡弁護士は、「判決に加わるべき人が回避し、回避すべき人が回避せずに行われた判断だ」と述べたが、回避すべき人とは草野裁判官のことだった。

一方、「判決に加わるべき人」とは、2022年6月17日の生業訴訟で、国の責任を認めない最高裁判決に、唯一、反対意見を書いた三浦守裁判官のことだ。三浦裁判官は、「長期評価」の信頼性を認め、防潮堤や建屋の水密化対策により事故を避けられた旨の見解(判決)を示した。その三浦裁判官は、今回、回避したのだ。

三浦さんが回避したことは納得できない。三浦さんは617(生業訴訟)判決で素晴らしい意見を書いておられた。刑事事件で回避したのは『君、回避したらどうか』みたいな圧力がかかったのではないかと邪推したくなる。

河合弘之弁護士

裁判で争点となった地震調査研究推進本部の「長期評価」に基づく津波対策が、誰によってどう潰されたのかは、島崎邦彦著『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』(タイトル画像左)に書かれているので読むことをおすすめしたい。

タイトル画像右は、東電刑事訴訟をQ&Aや対話形式でわかりやすく解説しようと試みた本だ。

これらを判決と合わせ読めば、津波対策を意図的に先延ばした東電経営陣の責任を、最高裁が見逃したことが、はっきりとわかるはずだ。

民事一審では被告に13兆円の支払い命令判決

なお、河合弁護士が言及した民事訴訟(東電株主代表訴訟)では、2022年7月、東京地裁が旧経営陣の注意義務違反を認め、被告勝俣、清水(元社長)、武黒、武藤に、東電に与えた損害に対し、13兆3210億円の支払いを命じている。

被告が控訴、原告側も請求が認められなかった被告小森と金額について控訴し、東京高裁で2024年11月27日結審。判決は2025年6月6日だ。

【関係ウェブサイト】
福島原発刑事訴訟支援団・福島原発告訴団
東電株主代表訴訟
生業訴訟限弁原告団・弁護団

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