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小説『凡夫』 5 融資課の渡辺京子

俺は10億円の宝くじを当て、株式投資で成功し、事業継承した羽田運輸を復活させた。
家には美しい嫁と子供がいる。

羽田運輸の年間利益は4億円以上となり、企業価値は30億円にはなると銀行に言われた。
俺の個人金融資産は20億円を超えていたので、併せて50億円、借金ゼロだ。

Fラン大卒、33歳まで低賃金ワークの転職を繰り返していた自堕落な男の末路だ。

10億円の宝くじを当てて全てが変わった。
自分はバカだとわかっていたので謙虚だったと思う。

羽田運輸を復活させた手腕?
そんなものはない。
金があっただけだ。
それを当たり前に使った。
誰でもわかる問題に対処しただけだ。

借金だらけの赤字会社に1億2千万円も投下したことを感心され、褒められた。
勇気のある決断だと。
勇気があった?
勇気なんかいらない。
持ってる金の14分の1を使っただけだ。
しかも、それは宝くじで当たった金を株式投資して儲かった金だ。
アブクのアブクだ。
勇気なんか全く必要なかったのだ。

周りは勝手に過大評価して褒めてくれるが、俺は騙されない。
世間は俺が調子に乗って失敗するのを待っている。
俺自身が成功する奴らに嫉妬してたから、よくわかる。

株式などの金融資産は黙っていれば誰にも知られることはないが、事業会社は違う。
儲かっていることは関係者にバレる。
従業員は特に、だ。
搾取しすぎない絶妙な労働分配率を決めるのが難しい。
下げる調整ができないからだ。
変動ボーナスで調整できるが、ボーナスは従業員に有り難みを感じさせ難い。
従業員が重視するのは固定給の額だ。
俺自身がそうだった。
労働分配率は答えがない課題だった。

事業オーナーとして払い始めてびっくりしたのは税金だ。
少なくとも30%いかれる。
税理士がいろいろ言ってきたが、節税対策はしなかった。
それに費やす時間が無駄に思えたし、結局は大した節税にならない。
払うのを引き延ばせる程度だ。


宝くじで当たった金をこっそり持っていた時と違う。
今、俺は儲けてる会社のオーナー社長で、それは隠しようがない。
35歳、ジジイではない。
かなりの金持ちだ。
成金趣味ではないが、質素自慢するタイプではなく、それなりの身なりだ。
白金のロレックス、ゼグナのスーツ、車はクラウン。

会社の儲けは嫁の美波に把握されてるが、個人で自由に使える金が投資口座に20億円ある。
調子に乗っちゃダメだが、短い人生だ。
多少は遊んでもいいだろ?
33歳まで底辺で我慢してたんだから。
会社が軌道に乗り、そんな風に思い始めていた。


コメダ珈琲店。
この店舗は全席喫煙可の珍しい店だ。

店に入ると結構客がいる。
空いてる席に向かう途中だった。
タバコに火を着ける女、渡辺京子がいた。
目が合うと、少し気まずそうに会釈してきた。

「こんにちは、えっと、渡辺さんでしたよね」

「はい」

「なんか… 意外ですね」

「あ、まぁ……」

やはり…… いい女だ。

躊躇なく言葉がでた。

「話してみたいと思ってたんです。お一人ですか?混んでるんで、ここいいですか?」

「あ、はい…」

アイスコーヒーを頼み、セブンスターに火を着けた。

京子の脇にフルフェイスのヘルメットがある。

「バイク…何乗ってるんですか?」

「Z1000Rです」

「えっ、マジで。エディローソン、激シブやん!」

「バイクわかるんですか?」

「わかるよ、運送屋やし。俺も古いカワサキ好き。昔GPZ900R乗ってたんよ、トップガンに憧れて」

「あー、坂道ブンって飛ぶの」

「そうそう。真似したかったけどあんな場所日本にはなかった。ハハハ」
「しかし、メンテ大変でしょ、やっぱ電装系?」

「全部ですね、ゴム部品の劣化が……」

バイク話で盛り上がった後、少し踏み込んでみた。

「しかし渡辺さん、綺麗ですねぇ。高嶺の花すぎてみんな近寄れんでしょ。意外と…… 彼氏いないんちゃいます?」

「はい。まぁ、若くないですし」

「え、25、6でしょ?」

「えー、それはいいすぎ。30超えてます。フフ」

「いやー、そうは見えんよ。背高いよね、何センチ?」

「169です」

「すごっ、モデルじゃん。女に生まれるなら渡辺さんになりたいわー」

「ハハハ、それはないでしょ」

「しかしカワサキ乗ってタバコ吸うのは意外やったね。カッコいい、俺すきやわ」

「……」

「ところで、今って個人的に知り合いになった状態でしょ?銀行関係なく。とりあえずライン交換しよ、お茶仲間として。なんか問題あるようやったらブロックしていいから」

「あ、はい」


会話が盛り上がってるうちに切り上げ、コメダ珈琲店を後にした。

長話しはよくない。
もう少し話したいぐらいのほうが次に繋がりやすい。

渡辺京子は羽田運輸の口座があるみずほ銀行の融資課の行員だ。
俺が事業継承して借入がなくなったので接点はなくなったが、返済時に挨拶してたので顔見知りではあった。
モデルのような美人なので印象に残り、名前を覚えていたのだ。

渡辺京子は俺のことはあらかた知ってるはずだ。
羽田運輸の社長であることはもちろんだが、妻子がいることも知ってるだろう。
なかなかのハードルだ。
あれだけの美人がわざわざ不倫する必要性がない。

ただ、隙がないわけではない。
大型バイクが趣味で喫煙する女行員はレアだ。
周りに流されず自分の意思で動くタイプだろう。
個性的な高嶺の花の美人は、媚びずに押してくる男がタイプなはずだ。
とはいえ銀行員。
根は真面目なのでたぶん無理だ。
可能性は低い。

しかし、10億円が当たる可能性と比べれば、めちゃくちゃ高い。
あれと比べれば……

翌日、俺は京子に昔乗ってたGPZ900Rの写真を添付して送ってみた。

「カッコいいですね」

「二十歳やから」

「バイクが、です」

「ハハハ」

こんなやりとりだった。

翌週、京子がコメダ珈琲店に行ってた時間を見計らってラインした。
「今からコメダに行くんやけど、いたら嬉しいな」

「え、今着いたとこです」

「お、ラッキー、5分かからんから帰らんとってー」

「わかりました」

お茶しながら世間話をした。
適当な口実でわざとらしさを誤魔化しながらKERKERとTeamGreenのバイク用ステッカーを渡した。
大そうなものじゃないので受け取り易いからだ。
とはいえ、"貰った"という事実はできるし、好意があることはわかる。
些細なことを褒め、話を聞き、引き出すことに徹する。
俺自身の自慢話は一切しない。
社長の自慢話ほどダルいものはない。
ダラダラ長居せず、切り上げる。
もうちょっと居てもよかったのに、ぐらいのタイミングがベストだ。

帰り際、イエスと答えるしかない質問を続けた後、俺は言った。

「じゃあ今度時間あったら飯でも行こ」

「はい」

この場合、間髪入れず決めてしまう方がいい。
ラインのやり取りみたいなので迷う時間を与えたくないからだ。

「来週金曜と土曜日ってどっちが都合いい?」

「え、あ、うーん、金曜かなぁ…」

選ばせ、自分で決めたと錯覚させ、後で考えを変えないようにさせる。

「じゃあ18時30に〇〇駅前の東出口。近くの焼肉屋〇〇予約しとくわ」

世間話の中で焼肉が好きということは聞いていた。
予約までされたら、よほどのことがない限り断らない。

俺はバカだが、対人コミュニケーションの知識はある。
宝くじに当たるまで、暇でYouTubeを観まくってたからだ。
少しは役に立ったようだ。

大人の男女がサシで飯の約束をした場合、それが肉体関係までいく確率は?

宝くじで7等賞を当てるぐらいだろ?
ガハハハ


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マサル こんばんわ〜 これを読んで頂き嬉しいです。 ちょっと変わった皆さんの幸運を祈ります。 他人に祈ってもらうと、良い事あるらしいです。