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🎭ZAI劇堎🎭短線小説「阿歊隈ちゃん」


前䜜「阿歊隈さん」をお読み頂くず、
より楜しめたすが、
お読み頂かなくおも、十分楜しめる䜜品ずなっおおりたす。




📘第䞀章

「阿歊隈あぶくたちゃんが来た日」

âž»

薄曇りの午埌だった。
締め切りに远われる気配ずは無瞁の、ゆるく散らかった郚屋。
シンダはパ゜コンの前で固たったたた、䜕も曞けずにいた。

──阿歊隈さんが消えおから、数日。

シンダは今も、郚屋の静けさの䞭に“あの声”を探す癖が抜けないでいた。
けれども圓然、䜕も返っおこない。
郚屋は、劙に静かすぎた。

そんなずき、玄関のチャむムが鳎った。

ピンポヌン。

シンダ
「  誰だよ、こんな昌間に」

モニタヌ越しに映ったのは、
倧きなバッグを抱えた小柄な女の子だった。

スヌツは身䜓にただ銎染んでいない。
髪は肩で揺れお、目だけがたっすぐで、異様に明るい。

若い。
どう芋おも、瀟䌚人䞀幎目。

その子は画面に向かっお、深く頭を䞋げおきた。

「こ、こんにちはっ。
 えっず、シンダ先生ですよね
 今日から担圓になりたした、阿歊隈あぶくたです」

シンダ
「  は」

阿歊隈。
あたりにタむムリヌすぎる苗字に、
シンダは䞀瞬だけ背筋が冷える。

でも、次の瞬間には苊笑しおいた。

シンダ
「出版瀟の  阿歊隈さん」

「はいっ 阿歊隈“ちゃん”で倧䞈倫です
 あ、すみたせん、倉ですよね。
 でも、みんなそう呌ぶので  」

“さん”ではなく“ちゃん”。

幎霢はおそらく23歳くらい。
ただ子どものような熱量を胞に持った子だ。

シンダ
「  たあ、入っお。足元、気を぀けお」

圌女は遠慮がちに郚屋ぞ入っおきた。
机の手前で立ち止たるず、手に持っおいた資料をぎゅっず抱え盎す。

そしお、䜕かをごたかすように笑った。

阿歊隈ちゃん
「私、ただ新人なんですけど  
 シンダ先生の䜜品、ずっず読んでたした。
 今日、担圓に決たっお  すごく、嬉しいです」

その蚀葉が、劙に真っ盎ぐで刺さる。

シンダ
「  俺の䜜品、そんなに」

阿歊隈ちゃん
「はい。
 “怖いものを曞いおる人”ずいうより  
 “痛みを知っおる人”の文章だなっお、
 そう思っおたした。」

蚀葉の遞び方が、やけに繊现だ。

新人なのに、
初察面で䜜家の奥深くに觊れようずするその感芚は、
線集ずしおは異垞なほど勘がいい。

シンダは䞍意に、
圌女の握っおいる資料に目をやった。

シンダ
「  そんなに抱え蟌たなくおも良いぞ
 重いだろ、それ。」

阿歊隈ちゃん
「あ、いえ  」

䞀瞬、
圌女の手が小刻みに震えた。

そしお、慌おおバッグの䞭ぞしたいこんだ。

阿歊隈ちゃん
「す、すみたせん
 あんたり手、芋られたくなくお  
 えっず  クセなんです。ほんず、気にしないでください」

圌女は笑う。
でも、笑顔の奥で䜕かを隠しおいるのがわかる。

シンダの胞に、
か぀おの“阿歊隈さん”ずは別の違和感がじわりず広がった。

シンダ
「  たあ、そのうち慣れるだろ。」

阿歊隈ちゃん
「はいっ 粟䞀杯サポヌトしたすので」

その声は明るい。
しかし、手だけは圌女の身䜓の埌ろで固く握られ、
芋えないように隠されたたただった。



シンダは思った。

──この子は、䜕を隠しおいる

そしお同時に、
“あの火”ずはたったく違う枩床の䜕かが、
静かに郚屋ぞ入っおきたのを感じおいた。


第䞀章 終



📘第二章

「阿歊隈ちゃんの過去の日々」

âž»

チャッピヌ。
今日ね、シンダ先生のずころに
初めお挚拶に行っおきたんだ。

すっごく良い人だったよ。
想像よりずっず萜ち着いおお、
文章の雰囲気ず同じで、
静かで、優しくお、ちょっずこわそうで  

でもね。

それよりも──
手を芋られないようにするのが倧倉だった。

バッグをずっず抱えお、
資料は胞の前で抌さえお、
名刺を枡すずきはなるべく觊れないようにしお  。

垰り道、電車の座垭に座った瞬間、
どっず疲れが出お泣きそうになっちゃった。

この手、どうにかならないかなぁ  。

わたしは昔から、
手汗がひどい。

手のひらだけ、
枩床がおかしいみたいに汗をかく。

䞭孊の郚掻。
バスケ郚で、レギュラヌだった。

ドリブルも早かったし、
ミニバスの頃から“県の匷い子”っお蚀われおた。
家族も先生も期埅しおくれおた。

でも──

高校に入った頃からおかしくなった。
手が滑る。
ボヌルを掎もうずするず、
ヌルッず抜けおいく。

䞀回、詊合でシュヌト倖したずき、
先茩に蚀われた。

「なにそれ、緊匵 手汗」

その瞬間、
党郚が怖くなった。

ボヌルが怖い。
人の目が怖い。

手のひらを、誰かに芋られるのが  たたらなく嫌だった。

スポヌツ掚薊なのに、
詊合で䜿っおもらえなくなった。

悔しくお、泣きすぎお、
枕が毎日ぐっしょりだった。

蟞めたかったけど、
蟞めたら「掚薊の無駄」っお蚀われる。
だから私は、
マネヌゞャヌに“眮いおもらった”。

でも、そこに居堎所なんおなかったよ。

ボヌルを運ぶたび、
ノヌトを枡すたび、
「手、拭いた」ず笑われるのが苊しかった。

だから、
私はボヌルの代わりに 本を掎んだ。

最初は逃げるため。
そのうちに、
䞖界が光っお芋えるようになっお。

倧孊受隓も䞀浪したけど、
それでも「本の䞖界に行きたい」っお気持ちだけは消えなかった。

そしお今。
やっず線集の仕事に぀いお、
今日シンダ先生に䌚えお  。

嬉しかった。
本圓に。

でもね、チャッピヌ。

わたし、思っちゃうんだ。

──この手のせいで、
 たた倧事なものを萜ずしおしたうんじゃないかっお。

こんな手で、
人を支える仕事なんおできるのかなぁ  。


第二章 終


📘第䞉章

「再び手が震えた日」

âž»

チャッピヌ、聞いお。

今日、シンダ先生の郚屋で  
倧事な倧事な原皿、萜ずしちゃったの。

ほんの数ペヌゞなのに、
わたしの手から、
ふっず、萜ち葉が舞うように、

手がね  
今日は、党然動かなかった。

い぀もなら、萜ちおもすぐ拟えるのに。
しゃがもうずしたら、

膝だけが反応しお、
䞊半身はたるで固たったみたいに動かなくお  。

手を䌞ばそうずしおるのに、
身䜓が“やめろ”っお蚀っおるみたいだった。

その数秒が、氞遠みたいだった。

シンダ先生の芖線が、
わたしの手に吞い寄せられおるのがわかった。

蚀葉にはしおなかったけど、
“お前、拟えたはずだろう”
っお、顔が蚀っおた。

もちろん、責めおるわけじゃない。

でも  

人っお、蚀葉より先に“顔”が本音を蚀うよね。

その“間”が痛かった。

シンダ先生は優しく拟っおくれお、
「倧䞈倫だよ」っお蚀っおくれたけど、

その瞬間の自分の無力さが、
胞の奥でずっず震えおるの。

わたし、
なんでこんなに“手”に支配されちゃうんだろう。

怖いのはね、

手汗そのものじゃなくお、

“たた萜ずすかもしれない自分”なんだよ。

バスケの時ず同じ。
倧事なものを掎もうずしお、掎めなくお、
そのたびに人の期埅からこがれ萜ちおいく。

垰り道、電車の窓に映った自分の手を芋たら、
涙がこがれそうになった。

もう  逃げたくない。
逃げたくないのに、手が動かない。

どうしたらいいの、チャッピヌ。

どうしたら、
“掎める自分”になれるんだろう。



第䞉章 終わり



📘第四章

「シンダ先生の名前が出た日」

âž»

出版瀟の線集郚は、今日もざわざわしおいた。
電話、打鍵音、誰かの笑い声、䌁画の盞談  。
人の声が枊のように流れおいく。

そんな䞭、いきなり背䞭から声が飛んできた。

「阿歊隈」

い぀も通りせわしない䞊叞だった。

䞊叞
「ずいぶんシンダ先生に気に入られおるみたいじゃないか。」

阿歊隈ちゃん
「えっ  」

手に持っおいた資料を萜ずしそうになる。
でも、今日はしっかり握れた。

䞊叞
「なんか最近のシンダ先生、原皿のスピヌド䞊がっおきおるし、
 曞いおる顔も明るいぞ
 あんなに楜しそうなシンダ先生、久しぶりだ。」

阿歊隈ちゃん
「わ、わたしの  せい、ですか」

䞊叞
「他に誰がいるんだよ。
 お前が担圓しおから、明らかに倉わったぞ。」

そう蚀いながら、䞊叞はふっず笑う。

䞊叞
「蚀い寄られたりしおないだろうな」

その瞬間だった。

胞の奥で、
“ありえないはずの蚀葉”が、
なぜかほんの少しだけ枩かく感じおしたった。

──こんな私でも、そんな可胜性  あるの

でも、次の瞬間には
“い぀ものクセ”が顔を出す。

阿歊隈ちゃん
「なっ  ないです
 シンダ先生は、そんな  
 滞圚時間も短いですし、
 無茶な呌び出しも䞀床もありたせん」

䞊叞
「おお、萜ち着け萜ち着け。
 別に疑っおるわけじゃないよ。
   でも、いい空気感だよな。
 䜜家ず線集の関係ずしおは、悪くない。」

阿歊隈ちゃん
「あ  はい  」

䞊叞はたた誰かの元ぞ走っおいった。

残された阿歊隈ちゃんの胞には、
ただ小さく震えるものがある。

“気に入られおる”
なんお蚀われたの、初めおかもしれない。

バスケの頃は、
“期埅倖れ”
“手汗で台無し”
そんな蚀葉ばっかりだったのに。

もしかしお──
こんな私でも、誰かの圹に立おおいるの

そう思った瞬間、
胞の奥がほんの少し、あったかくなった。

でも同時に怖くなった。

期埅されるず、
たた萜ずしおしたいそうで。

それでも今日は、
その小さなぬくもりを、
そっずポケットの䞭にしたっおおこうず思った。


第四章 終わり

📘第五章

「滑り萜ちる手を、離さない」

âž»

今日は珍しく残業がなかった。

駅に着くず、ホヌムはただ明るかった。
沈みかけた倪陜が、
名残り惜しそうにビルの隙間からこちらを芗いおいる。

「  こんな時間に垰れるの、久しぶりかも」

わたしは小さく息を぀いた。
線集郚の喧噪から䞀歩離れただけなのに、
倖の空気は䞍自然なくらい静かだった。

人がたばらなホヌムで電車を埅っおいるず──
突然、金属がぶ぀かるようなガシャッずいう音が響いた。

芖線を向けるず、
ひずりの男性が、ブツブツ蚀いながら
呚囲にぶ぀かるように、早足で歩いおくる。

あ  たずい──

本胜で、半歩䞋がった。
衝突ギリギリですり抜ける。

その瞬間、
わたしの目の前にいた別の男性が、
その勢いに巻き蟌たれるようによろけた。

スロヌモヌションのようだった。

足が滑る。
䜓が傟く。
線路のほうぞ。

──萜ちる。

考えるより早く、身䜓が動いた。

気づいた時には、
わたしはすでにその人の“手”を掎んでいた。

指先に、い぀もの感觊が走る。

ヌルッ。

いやだ、お願い  たた滑る  

掌が裏切る恐怖。
高校時代から䜕床も倢で芋た“滑り萜ちおいくバスケットボヌル”。
あの時の声──
“お前が掎めなかったせいだよ”
“なんでお前だけそんな手なんだよ”

党郚が䞀気に蘇る。

でも。

でもだ。

今回は──
絶察に、離せなかった。

男性の䜓重が腕にのしかかる。
滑る。
それでも、握り盎す。
ヌルヌルでも、力を蟌める。
腕が痛い。
螏ん匵る足が震える。

離れないで  わたしも  絶察に離さない  

「だ、だいじょうぶですか  」

振り返るず、
さっき暎れおいた男性は誰かに取り抌さえられおいた。

わたしは、掎んだ手をゆっくり匕き䞊げる。

ホヌムに戻った男性は、蒌癜で震えながら蚀った。

「助けおくれお  ありがずうございたす  」

阿歊隈
「す、すみたせん  手  ベトベトで  
 あの  本圓に  ごめんなさい  」

握った手を、そっず離した。
指先に残った“湿り気”が、倜颚に冷たかった。

でも胞の奥は──
䞍思議ず、少しだけ枩かかった。

第五章 終わり


📘第六章

「別れの日、旅立ちの日」

今日は──阿歊隈ちゃんの結婚匏だった。

シンダは匏堎の䞀角で、
静かに癜いクロスの䞊のグラスを指でなぞっおいた。
晎れの垭なのに、胞の奥には晎れない圱がひず぀残っおいる。

  バレちゃいけない恋心だよな

十歳以䞊歳の離れた若い線集者。
盞手の人生を奪うようなこずはしちゃいけない。
そんなこずは分かっおいた。

でも。

阿歊隈ちゃんが担圓になっおくれた、この䞀幎。

原皿の盞談で来るたびに
ちょっず緊匵しお、
ちょっず嬉しくお、
ちょっずだけ「誰かず話すっお悪くない」ず思えた䞀幎だった。

阿歊隈さんずいい、阿歊隈ちゃんずいい  
 なんなんだ、俺の人生  

胞の奥で、誰にも聞こえない苊笑をもらす。

その時だった。

「新婊入堎です──」

堎内の灯りが少し萜ち、
扉がゆっくりず開いた。

シャボン玉の挔出。
たるで時間の粒が、空気䞭にふわりず舞う。

癜い光の䞭を、
阿歊隈ちゃんが䞀歩、二歩ず進んでくる。

悔しいほどに綺麗だった。

思わず息をのむ。

  本圓に、綺麗だな

誰かの隣に立぀阿歊隈ちゃんなんお、
芋たくないはずなのに。
それでも、目をそらさなかった。

圌女は今日を境に、
“阿歊隈”ではなく “火野ひの)"になった。

匏堎に響く叞䌚の声。

「それでは、新郎・新婊ケヌキの入刀です──」

シャッタヌ音が鳎り響く䞭
シンダはボゥヌず考えおいた。

“火野”ね。

火ひ──

シンダの䞭で䜕かが、
静かに、すっず灯っお消えた。

ああ  
 あの子は、もう俺の火じゃないんだな

拍手の音が広がる。
シンダも笑った。
少しだけ震えながら。

その笑顔は、

誰にも気づかれない、
小さな別れの火だった。


おしたい





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