【ショートショート】『Q』
【ショートショート】『Q』
俺が『Q』に囲まれてから、
何日が経ったのだろう。
始まりは、ただのnoteの通知だった。
画面の端に、小さく『Q』が現れた。
その時は気にも留めなかった。
異変に気づいたのは、その夜だった。
パソコンを開く。
キーボードを見た瞬間、心臓が跳ねた。
Qキーだけが、どこか違う。
傷一つない。色も形も同じ。
なのに、そこだけが底なしの沼のように黒く、
視線が吸い寄せられる。
目を逸らそうとしても逸らせない。
鼓動が速くなる。
不安なのか。期待なのか。好奇心なのか。
もう、自分でもわからなかった。
ただ──
震える手で、俺は『Q』を押した。
⸻
最初は、本当に些細な変化だった。
スマホを見る。
見覚えのない『Q』のアイコンが一つ増えている。
気のせいだ。そう思って画面を閉じる。
数分後、もう一度開く。
二つになっていた。
見間違いだ。深呼吸をして、もう一度見る。
三つ。四つ。五つ。
画面を埋め尽くしていく『Q』の群れ。
目が左右に高速で振動しているのが、
自分でもわかった。
まばたきをする。
……また増えていた。
⸻
数日後。
スマホのアイコンは、
すべて『Q』になっていた。
それを境に、世界も静かに変わり始めた。
高級外車のエンブレムは『Q』。
山肌に灯る大文字焼きも『Q』。
バーコードは、どれも『Q』。
道路標識も。企業ロゴも。駅の案内板も。
誰一人として騒がない。
どうやら、おかしいのは俺ではないらしい。
世界のほうが、ちゃんと『Q』になっていた。
⸻
推しのメイドは、今日もオムライスにケチャップで『Q』を描いてくれる。
「おいしくなぁれ♡」
そう言って微笑む彼女を見て、俺は決めた。
これはもう、店員と客の関係じゃない。
来週、プロポーズしよう。
婚約指輪を買わなくちゃ。
確か銀座に「田中Q金属」があったはずだ。
俺は急いで「地Q鉄」に飛び乗った。
店に駆け込み、息を切らせたまま叫ぶ。
「Qン約指輪ください!」
店員は一瞬だけ目を丸くした。
そして、満面の笑みで言った。
「お客様、ごQ婚おめでとうございます。」
「サイズはQ号でよろしいでしょうか?」
「はい。」
その一言で十分だった。
店内にいた全員が、こちらを向く。
そして一斉に、
ロボットのような正確さで拍手した。
「Qめでとうございます!」
俺は少し照れながら頭を下げた。
あの日以来。
世界から、
『?』が消えた。
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