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【ショートショート】『部員は一人』


【ショートショート】『部員は一人』


下校を告げるチャイムが鳴った。

教室のあちこちで椅子を引く音が重なり、
生徒たちは一斉に帰り支度を始める。

数分後には、さっきまで騒がしかった校舎が
嘘みたいに静かになっていた。

人が消えるのは早い。

まるで校舎そのものが、
生徒たちを外へ押し流しているみたいだった。

僕は鞄を肩に掛け、
別棟にある物理部の部室へ向かう。

渡り廊下の窓から見える空は、
もう夕暮れ色だった。

冬は嫌いだ。

授業が終わる頃には日が傾き、
校舎の隅々まで薄暗くなる。

昼と夜の境目。

世界の輪郭が少しだけ曖昧になる時間。

渡り廊下を抜ける。

別棟には人の気配がなかった。

古い建物だからかもしれない。

けれど、この場所に来るたび、
なぜだか息を潜めたくなる。

物理部と書かれたプレートの前で足を止める。

ドアは閉まっていた。

当然だ。

部員は僕一人なのだから。

僕はポケットの中で手を握り開きしてから、
ドアノブへ手を伸ばした。

冬の金属は苦手だ。

触れた瞬間、静電気が飛ぶことがある。

あの一瞬の衝撃が嫌いだった。

触れる直前。

ふと、後ろが気になった。

振り返る。

長い廊下。

西日と窓ガラス。

伸びた自分の影。

それだけだった。

誰もいない。

僕は小さく笑って、自分の臆病さをごまかす。

そして再びドアノブへ手を伸ばした。

その時だった。


「川島くん」


女の子の声がした。

反射的に振り返る。

誰もいない。

廊下の奥まで見渡しても、人影はなかった。

聞き間違いだ。

そう思った。

そう思おうとした。



「…たすけテ」


聞き間違いではない。

小さな声。

けれど、その声は。



耳元から聞こえた。





この物語は

とらのすけさんの

【メモ】誰か……誰か【トライアル①】
という記事をこっぺぱんアレンジさせて頂いたものになります。

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