「AI時代の人材像を考える視点を提供してくれないか?」 三領域能力モデルの提案
「森さん、AI時代の人材像を考える視点を提供してくれないか?」ー とある企業のエグゼクティブからそのようなリクエストを受け、数年に渡って考え、議論も重ねました。
本記事は、進化が著しいAI技術の進展がもたらす社会環境の変化を背景に、これからの人やリーダーに求められるスキルとは何かを考察したものです。筆者が100社以上の企業エグゼクティブとの対話を通じて導き出した、インナー(内面)、アウター(外面)、トランスセンデント(超越的)という三領域能力モデルの紹介を通して、激動の世に活躍する人材像を検討しています。
はじめに:この先の求められる人材、リーダー像は何か?
現代は、生成AIをはじめとするAIの進展が急速に進んでいる時代です。GPT-o3 や Gemini 2.5 pro のような推論機構を組み込んだ大規模言語モデルは、人々の働き方や思考様式、生産活動や創作活動にまで変革を促しており、これまでの常識や既存の枠組みが次々と見直される中で、私たちは新たな価値観と柔軟な対応力を求められるようになっています。
企業においても、近年のDX進捗の成果もあって、テクノロジーのビジネスへの適用が順調に拡がっています。現場で従業員の生産性向上が進み、業務プロセスの自動化や再構築、システムの刷新・高度化も試みられています。これに伴い、ITリテラシーやAIリテラシーはもはや専門職に限られたスキルではなく、すべてのビジネスパーソンにとって基礎的な教養になりつつあります。
かかるコンテキストの中で、基礎的な教養をこえた、その先の、企業が市場を生き抜くためのものとして、どのような人材、スキルが今後求められるようになるのでしょうか。また、リーダーにはどのような資質が必要になるのでしょうか。
筆者自身、これまで100社以上の企業エグゼクティブと対話を重ねる中で、「AI時代において、どのような人物が重要とされるのか教えてほしい」「リーダーはどうあるべきか、次の人材モデルはないか」といった相談も幾度も受けてきました。こうした問いの背後にあるのは、AI技術の進化と浸透によって、従来のビジネスパーソン像やリーダー像が通用しなくなるのではないかという懸念です。あるいははっきりとした予感と言ってもいいのかもしれません。
以前、ある大手企業のエグゼクティブに、「AI時代はどういうスキルがあれば生き抜けるか?」と聞かれた際、筆者は、「間違いなく重要な能力の一つ」として、「会食する力」を挙げました。
「会食する力」、すなわち人と直接会い、対話し、関係を構築する力です。一見、冗談のように聞こえるこの能力は、単なる社交術を指しているわけではありません。相手との表層的な情報交換にとどまらず、深い対話を通じて相手のアスピレーション(願望・大志)を引き出し、そこから次なるビジネスの可能性を見出し、次の行動へと結びつける一連のプロセスを指す、ビジネスディベロップメントにもなるソフトスキルそのものと言えます。
実際、どういう人とどのタイミングで会食するかのセッティングも含めて、会食の場で交わされた対話の中から、相手の課題や志向性を把握し、そこに自社のリソースやネットワークを連携させることによって、新たなプロジェクトや協働の機会を創出することは、AIには困難な、人間に固有の機会であり、能力です。仮に将来AGI(汎用人工知能)が実現したとしても、人間関係の機微を読み取り、信頼を構築し、暗黙知を共有しながら共に歩むというプロセスを代替することは難しいと考えられます。
とはいえ、エグゼクティブの方からは、「それの意味していることはわかるのだけれど、『今後の社員のスキルは会食力です』では人的資本経営にはならないし、社員の研修設計も困ってしまうので、森さん、AI時代の人材像を考える視点を提供してくれないか」というもっともなレスポンスもいただきました。「会食力」のような残された人間の価値を強調する議論にとどまるのではなく、これから企業がどのような人材を育成すべきか、またどのようなスキルや特性に注目すべきかを検討するには、より俯瞰的な視座に立てる論点を提示することが重要でしょう。AI技術の加速度的な進展は、企業の戦略のみならず、個々人のキャリア戦略にも影響を与えます。求められるスキルに関してもより戦略的にその要点をとらえていく必要があります。
三領域能力モデル:インナー・アウター・トランスセンデント
AIは加速度的に進化していますが、それ以前に、社会も大きく変化しています。デジタル化の進展も手伝い、生活者の価値観やライフスタイルは多様化しています。一方で、気候変動や人口減少、相対的貧困の拡大、格差と分断等の社会課題も日々その影響をあわらにし、解決には今までにないアプローチが求められるようになってきています。あわせて、人材に求められるスキルも従来の枠組みでは捉えきれなくなってきているわけです。筆者は、多くの方との対話や実務経験を通じて、AI時代のこうした荒波にあって、世に価値を生み出すことができる、求められる能力は、以下の図のように、「インナー(内面)」「アウター(外面)」「トランスセンデント(超越的)」という三つの領域で示すことができるのではないかという仮説に至りました。この仮説をここでは「三領域能力モデル」と呼称し、その中身を解説していきたいと思います。

1. アウターアビリティ
「インナー(内面)」「アウター(外面)」「トランスセンデント(超越的)」と3つをあげているのだから、普通は順番通りにインナーから解説を始めるだろうと思われたと想像しますが、最初はまずアウターの能力、「アウターアビリティ」から解説を行います。理由は、それが「AI時代」という言葉からもイメージしやすいスキル群によって構成されるからです。
アウターアビリティは、3つの要素からなります。それぞれ「スケーラビリティ」「アントレプレナーシップ」「アジリティ」の3つです。
スケーラビリティ(Scalability)
アウターアビリティの一つ目は、「スケーラビリティ(拡張性)」です。これは、AIやインターネット、クラウド、ビッグデータなどのデジタル技術を駆使することで、高い生産性を獲得し、自らのアウトプットを広範囲に届けることができる能力を指します。かつては個人が届けることができる成果の範囲はごく限られていました。大きな組織に属することでしかそのアウトプットをレバレッジすることができなかった時代もありましたが、現代にはインターネットという基盤があり、デジタル、そしてAIの各種ツールやサービスも存在します。それらテクノロジーを活用することで、誰もが何百万人というユーザーに価値を届けることが可能になっています。
この能力は、単なるテクノロジーの理解や小手先のテクニックにとどまるものではありません。テクノロジーを用いること、生産性を高めること、さらにその先の、多くの人に届けることはそれぞれ異なる段階であり、段階に応じた技法や知識、プロセスやデリバリーへの理解を必要とします。つまり、スケーラビリティとは、かかる技術群とプロセス・デリバリーへの理解を統合して自身の専門性や創造性を大規模に伝播させる戦略的具現化力です。AI時代における基礎的な外部スキルとして、重視されるわかりやすい能力といえます。
アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)
次に挙げられるのが、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」です。これは、従来の延長線上ではなく、過去の事例がない、データも存在しない、AIも学習をしていない、見落とされている未知の課題や未開拓の領域にかかんに挑み、新しい事業やサービスを構想・実行する能力です。
現代のビジネス環境では、すでに多くの分野で知見やデータが蓄積され、AIによる最適化が進んでいます。こうした状況下において求められるのは、「既存のビジネスやサービスでは見過ごされているセグメントやニーズ」を発見したり、「まだ誰も取り組んでいないが、重要性が高まるであろうテーマ」を見出し、自らが開拓者として、当事者として、持ちうるリソースやネットワークを活用しながら、そのための価値創造に向けて事業を起こし進める力です。端的にいうならば、AIも知らないテーマを切り開く力といえます。イシュードリブンなアプローチのみならず直観や共感力、そして構想力が問われる領域といえるでしょう。
アジリティ(Agility)
そして三つ目が、「アジリティ(俊敏性・適応力)」です。先日、以下の記事で書いたように、現在、AI技術は日進月歩で加速度的に進化しており、新たなソリューションも毎週のように登場。社会もまたそれに追随するように刻々と変化しています。新しいAI技術を採用し、自社のサービス・プロダクトに統合した翌月にはそれを上回る性能をもった新方式のAI技術が無償で提供されてくる、ということも珍しい話ではありません。
このような不確実性の高い環境においては、綿密に計画を立てそれに沿って物事を遂行し成果を創出する、という従来の常識的、王道的なアプローチが遂行困難なものになります。計画を立て進めながらも、同時に、外部環境・技術の変化と伴走し、自ら学び、検証しながら柔軟に軌道修正して行動する姿勢が不可欠です。
アジリティとは、単なるスピードではなく、変容を察知し、学びを素早く実践に移し、成果をつみあげていく一連の適応力を意味します。常にフットワーク軽く、敏捷に動ける状態に身を置き、外部の情報を収集・検証しつつ、短期の取り組みを実行し、長期の蓄積につなげる。その起点としてのアジリティ。こうした能力のありようこそが、絶え間ない技術革新の波を乗りこなすために求められる基本動作であり、スケーラビリティ、アントレプレナーシップと組み合わさって、真に成果を世に提供していけるものとなるでしょう。
2. インナーアビリティ
さて、「アウターアビリティ」(外向きのスキル)(スケーラビリティ・アントレプレナーシップ・アジリティの3要素)をまずは説明しました。これらは、急激に進化するテクノロジーや変化の激しい環境において、わかりやすい、有効性・実用性のイメージがしやすい能力群です。しかしながら、多くの企業エグゼクティブとの対話の中で浮かび上がってきたのは、「アウターアビリティが重要であることに異論はないが、それ以上に本質的で、根源的であり、長期的に持続可能なものとして重要な能力がある」という視点です。それが「インナーアビリティ(内面の力)」になります。
パーパス(Purpose)
インナーアビリティの第一の要素は、「パーパス(目的意識)」です。これは、自らの存在意義を定義する力です。「何をやるのか」「なぜそれを自分がやるのか」「なぜ今なのか」という、核となる問いに対する明確な答えを持つ力であり、内発的動機を軸に据える行動原理といえます。
アウターアビリティで示されたスキル群――たとえば、最新技術を活用して価値を広げるスケーラビリティ、未知の領域に挑むアントレプレナーシップ、変化への俊敏な対応力であるアジリティ――はいずれも、「なぜそれをやるのか」「誰のために何を実現するのか」という指針を欠いては、単なる反応的模倣、すなわち、周りに流れされているだけであり、世に訴えるものをもたず、求められるものも提供していないリスクを伴います。
ご存じのようにAIは、既存の情報や過去の成功事例をもとに最適解を導くことができますが、そこには、何か起点となるパーパスやアスピレーションがあるわけではありません。まず最初の第一歩である大きな理由や想いは人の内側にこそあります。自らの価値観を省みて、内なる声に耳を傾けることで、自分が持つパーパスを形にしていく。「自分ならではの問い」を立て、そこから出発して熱意を持って行動へとつなげていくことは人間が持つ大切な能力になります。これが何よりもクリティカルなスキルの根幹といえるでしょう。
ダイアローグ(Dialogue)
インナーアビリティの第二の要素は、「ダイアローグ(対話)」です。これは、自らの内発的動機やパーパスを深めるだけでなく、他者のパーパスを見つける手助けをし、共に意味を創造していく力を指します。
ここでいう対話とは、いわゆる会話や意見交換のことではありません。そのようなただの情報交換ではなく、志向性・可能性となりうる他者のアスピレーションや潜在的な価値観と共振し、交流するプロセスを意味します。じっくりとした話し合いもあれば、様々な形態のミーティングや会合もあるかと思います。ワークショップもそうですし、冒頭であげた会食もその一つです。それらを通して、共通の目的や創造的アイデアを生み出すインタラクションとして機能するのがダイアローグです。
現代においてこの力は特に重要です。自分の中に確固たるパーパスがあっても、一人では多くのことを成し遂げることはできません。いかに他の人の中に眠るビジョンや価値観を引き出せるかどうか。他人とパーパスで共感し、仲間となり、想いを形にして動き出せるかどうかがポイントです。他者の内面に共鳴し、共創的な関係性を築くことが鍵を握ります。
3. トランスセンデントアビリティ
これまで述べてきた「アウターアビリティ(外部に働きかける力)」と「インナーアビリティ(内面から湧き上がる力)」は、AI時代において活躍する人材像の両輪を成す重要な因子です。そしてもちろん、これら二つを別個の能力として扱うのではなく、両者を有機的に接続・統合する力がより一層求められるようになってきています。
インナーとアウターを結ぶもの。その能力をここでは「トランスセンデントアビリティ」と置きました。なぜ「トランスセンデント (超越的)」と名付けたかといいますと、単にインナーとアウターを結ぶリンクという意味をこえて、内面の熱意を外面の弛まぬ挑戦へと昇華させるスキルであり、また内面と外面の相互作用によって、インナーやアウターの次元も超えたより創造的・持続的な成長の実現を目指していくための能力であるからです。つまり、「より上に超えていく」ことがこの領域の本質になります。
ネットワーキング
トランスセンデントアビリティの第一の要素は、多様な人材やリソースをつなぎ、コラボレーションを実現するための「ネットワーキング」です。たとえ自身やコアとなる仲間の内面に強いパーパスを持っていたとしても、それを社会的インパクトにまで高めるには、より多くの他者との連携や異分野の知・発想・才能・スキルとの結合が不可欠です。
このネットワーキング力は、一面的な人脈の広さを意味するものではありません。必要に応じて「誰と、なぜ、どのように協働するか」という構造的かつ目的志向型のファシリテーション力とも呼べる、より能動的な実践を指します。相互理解、関係構築、協働の場づくりを行い、目的実現に向けて他者を捲き込んでいく。他者の効果的な巻き込みには、相手の立場に立つ、積極的な共感能力(Active Empathy)が求められることもあるでしょう。その人の視点を包含し、1+1=2を超えたチームになっていく。様々なバックグランドを持った人との協働を通して、時には世代を超えた連携を通して、より幅広い論点もおさえた戦略の実行につなげていく、ネットワーキングとはそのような能力になります。
AIは、過去の大量のデータから学習し、同時にインターネットを介した多様な情報処理に優れる一方で、非言語的・感覚的な知見、感情的・文化的文脈やそこからの逸脱をもつことに関しては苦手とするところです。しかし、人間はそれらを暗黙知や独自性、スタイルとして、それぞれの人がそれぞれの内容で持ち得ています。そして他人との間でつなぎあわせ、シナジーを生み出すことができます。世界、社会の数々の難問に対して、クロスファンクショナルな多彩な能力とオリジナリティをもったチームとして立ち向かうことができるネットワークの能力は、今後ますます求められるスキルとして認識されていくと考えられます。
リーダーシップ
トランスセンデントアビリティの第二の柱として最後に挙げるスキルが、「リーダーシップ」です。ここで言うリーダーシップとは、集団を導く「先頭で旗を振る走者」としての存在にとどまらず、パーパスに根ざした目標を明示し、それを軸に、集まった人々・チームとともに前へ進み、実現を果たしていく包括的な推進力を意味します。
世の中の変化にあわせ、リーダーシップのあり方自体も多様化しています。従来、リーダーはまさにリードする人、先導する人、「前」を進むことで道を示す人でした。しかし、デジタル化が進む現代は誰もが多量のアウトプットを生み出すことが可能な時代です。旧来は生産性を高める手段としてのヒラエルキー構造をもったピラミッド組織が重視されましたが、今やアウトプットの質をどう生み出すかが命題化し、多様なチームが分散しながらも結びついて成果をあげていくフラットな組織への移行が進んでいます。このような環境下で、リーダーは「先導者」としての役割だけでなく、「コーチ」「サーバント」や「カタリスト(触媒)」といった新たな役割ももちつつあります。例えば、メンバーと伴走しながら信頼関係を築く、「横」につくリーダーシップ、環境整備を行い、見守るように支えて、献身的にメンバー一人一人の能力を高める、「後ろ」につくリーダーシップ等、リーダー自身やチームの個性と状況に応じた柔軟なスタイルが機能します。
いずれにせよ大切なのは、ビジョンの共有、責任の遂行、そしてチームが主体性と創造性と一貫性をもって動き続けるための仕組みと働きかけです。そしてチームが成し遂げることの意義を理解し、リーダーを信頼しているという状態が重要になります。
「星の王子様」の著者であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの有名な言葉に、以下のようなものがあります。
"When you want to build a ship, do not begin by gathering wood, cutting boards, and distributing work, but awaken within the heart of man the desire for the vast and endless sea"
(あなたが船を造りたいのであれば、木材を集め、ボードを切って、仕事を振り分けることから始めてはいけない。代わりに、人の心の中に広大で無限の海への切望を目覚めさせなさい)
この言葉は、単に一人一人にタスクをアサインして仕事を進めるのではなく、人々をより大きな目的や夢へとインスパイアし、鼓舞し、動機づけることの大切さを語っています。リーダーシップとはこのような価値観の体現であるとも言えます。
このように、トランスセンデントアビリティは、内なる意志と外部の実践とを橋渡し、成果へと昇華させる力として、極めて重要な位置づけを担っています。テクノロジーによって外部スキルが補完・代替も進む今日だからこそ、むしろこのような「人と人」「意志と行動」「個と集団」を統合する能力こそが、人間のありようを再定義する方向性になるのではないでしょうか。
終わりに:これからのスキル・人間像を考える視点
以上、AI時代において個人およびリーダーに求められるスキルを、「アウターアビリティ(外向きの行動力)」「インナーアビリティ(内面の動機づけ)」「トランスセンデントアビリティ(統合・超越的なつなぎの力)」という三領域能力モデルに基づいて整理・考察しました。
これらは、どちらかというと求められる能力を羅列したリストではなく、今後の人材モデルを考えていく上での視点の提案という位置付けのものです。ですが、人間の取るべき行動やその意味、AIや時代との関係性についても考える一つの枠組みとして機能するのではないかと思料しています。
現代は、各種AIの提供する DeepResearch での深い情報探索やエージェント的行動(自律的タスク遂行)が可能になっており、多くの知的・創造的タスクをアウトソースできるようになっています。ゆえにユーザー側が意図を持って、アウトプットのありようをデザインすることが、最終的に実現する価値を決めます。そのための「本質的な問いを立てる力」や「まだ存在しない価値を創造する力」が人間に強く求められる、そういう時代でもあります。あらゆるタスクのコストが劇的に下がろうとしているからこそ、人間には「なぜそれを行うのか」「それを誰と行い、どのような意味づけをするのか」といった内面的・関係的・創造的な探求がこれまで以上に重要になっていくわけです。
このとき、最も基礎となる原動力として位置づけられるのが「パーパス」です。「アスピレーション(大志)」や「パッション(情熱)」と呼び換えてもよいでしょう。知識やスキル、あるいは手法といった外部から得るものとは別に、自らの内側から自然と湧き上がる動機こそが、行動の起点となります。それがスキル群を統合し、結果へと結実させる力となります。こうした力こそが、これからの人材像を形づくるものとなります。
とはいえ、このような議論を行った際に投げかけられることも多い、「すべての人がパーパスを持てるのか?」という疑問にも慎重に向き合う必要があります。誰もが明確な大志や、天命のような情熱を持っているわけではありませんし、それを持つこと自体、決して容易なことではありません。
ここで、オランダの哲学者ヨハン・ホイジンガが提唱した「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」という概念に注目してみるのもよいかもしれません。ホイジンガによれば、人間は「ホモ・サピエンス(賢い・考える人)」にとどまらず、「遊びを通じて意味を創造する存在」でもあります。遊びとは、既存の枠組みや正解に縛られず、自由に問い、試し、創り出す営みです。好奇心を持つこと、プロセス自体を楽しむことが中心にありつつ、そうしたクリエイティブな試行錯誤を通し、自分にとってのパーパスを見つけ出すという道もまた、十分に考えられます。ここは別途、深掘りして考察してみたいテーマでもあります。(「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」に関しては、慶應義塾大学 X Dignity センターで研究されているテーマであり、筆者の組織でも共同研究を行っています。今後、取り扱ってみたいと思います。)
いずれにしても、これからの時代において本質的に重要なのは、自らの内なる声に耳を傾けること、他者の声にも丁寧に耳を傾けること、そして本質的な問いを立て続けることです。その問いを起点として、人々とともに、テクノロジーとともに、社会が直面する課題に取り組み、新たな価値を創出し続ける挑戦が求められています。
私たちが直面している現実は、既にこの瞬間にも動き出している、進行中の変革です。そしてこれから求められるスキルとは、従来のハードスキルやソフトスキルと言われる知識や方法論の蓄積にとどまらないことは確かです。ここで提案する「インナー・アウター・トランスセンデント」という三領域のモデルが、考えるための視点や地図となって、読者の皆さんが人材の未来像を定めていく助けとなれば幸いです。
